26 ……「絶」えよ!!「歌」よ!!

 ……それから。

 帰路に就いたか?

 よく覚えていない。

 分かるのは、琥珀の色の世界が消えいき、遠くから現実の。 

 人の営みの音や。

 自然の発する音が蘇ってきて、つまりは、動きが蘇り。 

 だとすると、僕がいることは違和感だろう。 

 何があったか。

 問われるのも億劫で。 

 動けないはずでも、この時は動いて。

 そうして、ふらつきながら。

 ……までは覚えていたかな。 

 

 「……!」

 気付いたら僕は、自分の家にいて、天井を仰ぎ見ていた。

 「……。」

 まるでそう、今まで寝ていたかのような。 

 長く、夢の中にあったような。 

 そう錯覚を得るほどな、……不可思議の感覚。

 「……!」 

 しかし、現かな。

 身体を見れば、酷い様子。

 服も何もかもボロボロ。

 さらには、全身に打ち身が見え隠れする。

 それが、現と言わしめる。

 「……。」 

 しかし。

 果たしてと僕は思う。

 記憶の曖昧な様子が、一体全体あれが現であるかと疑問させる。 

 そも、ふらつきながら帰ってきたと思うから、途中ぶつけて回って。

 その結果がこうであると、思えてならない。 

 「……はぁぁ。」 

 どうであれ、だが不幸であると僕は思う。 

 この間もそうだし。

 怪我もそうだし。

 挙句、これなんて……。貧乏学生である僕には、酷いとしか。 

 だから、溜息をつく。 

 あれが、夢であったことと思って。

 ならば、ここから先はまた、あの現実である。

 全てが嫌になる、鬱屈たる。 

 「……。」

 それでも悲しいことに、動く肉体。 

 それでも求める、希望を。

 起き上がるなら、身支度もそこそこに、いつものバックパック背負い。

 ……多分陽気に踊る奴らばかりの、嫌味ったらしい世界へ出るのだ。

 

 「……。」

 家を出れば迎える、嫌に明るい日の光。 

 眩しさに目が眩むが、同時に、その日の光が僕を責めるかのように突き刺さる。

 いいことなんて、何もないかもね。 

 この僕には。

 現に。

 僕のアパートの郵便ポストには、それこそ山積みに書類があって。

 もちろん、中身は予想できるよ。

 また、時間見ても、最後に見た時から一週間経っているのだから、そうか。

 それで、中身は?

 ……はぁ、呆れるよ。 

 どれもこれも、企業名の書かれた封筒であり。 

 どうせ、と決めつけだが、中身は分かると。

 「……。」

 案の定だ。

 その内の一つ、開けてみれば。

 〝祈ります〟で締め括られる文言の文章と。

 僕が苦労して作ったエントリーシート、そして履歴書。

 希望はないか?まあ、元からないと思っているけど。

 他のを開いても。 

 〝祈ります〟。

 〝祈ります〟。

 〝祈ります〟。

 〝祈ります〟。

 〝祈ります〟。

 ……。

 「ぁあああああああああああああああああ!!!!」

 その聞き飽きて、気分悪くなる文言。

 繰り返されるなら怒りが蘇る。 

 僕はまた、怒りにかまけて全てをぐしゃぐしゃに丸めて。 

 地へと叩きつけて、怒りを吐露。 

 吠えるなら、まさしくだ。

 「……っ!……っ!!」

 踏みつけて。

 拾っては、近くのゴミ箱にさらに叩きつける。

 入れば、気も紛れるだろう?

 どっちでもないさ。

 現に、ゴミ箱から反射して転がれば。 

 僕は怒りを余計に燃え上がらせる。

 このまま、怒りを本当に炎にして、燃やしてやりたい!

 物理的に、無理だろうけれども。 

 「……っの!!消えろぉぉ!!!」

 だろうに、僕は逆に、願うか。

 口からは、怒りの色のままに。

 その丸めたゴミ、薙ぎ払うように僕は手を振った。 

 「?!」

 するとどうだろう。

 手の軌跡に合わせて、光が膜を作り。 

 文様まで走ると、その忌々しいゴミくずを燃やして消失させた。

 「……?!」

 残滓。

 煙を見て、僕は呆然として。

 何が起こったのか、よく分からないでいる。

 「……?!……?!」

 一しきりうろたえると。

 「……!」

 僕は、今度は空を見上げて、円を描くように宙を撫でた。

 さっきと同じように、苛立ちだって、傍らに置いて。

 どうだろう。

 円を描くように光の膜と、文様だって浮かび上がる。 

 「……っ!」

 その勢いそのままに、今度はそのまま、空を一気に撫でるように動かした。

 文様が走り。

 世界を、琥珀色に染め上げる。 

 「……っ!!!」

 息を吐き、薙ぎ払うように。 

 そう、僕以外の、幸せそうな連中の日常を。

 この鬱屈を。

 全てを抱いて。

 ……その文様を睨んだ。

 凪ぐ。

 全て、風が凪ぐ。  

 そうとも、そうとも。

 あの、未来の僕が見た、情景において。

 虹の輪の中心とやらがやったような。

 同じ虹の輪が浮かび、空一面を波紋のように伝っていく。 

 合わせて。

 瓦礫が舞う。 

 人々の営みが、小規模ながら消えゆく。 

 地震のように。 

 津波のように。

 ……瓦解する。 

 そうとも、そうとも。

 未来の僕が、あの銀髪の僕に倒された自分が。 

 そうしたように。 

 ああ、ああ!

 できるのだ。 

 できたのだ。

 そうとも、そうとも。

 未来とはいえ、僕なのだから。

 唐突に理解するなら。

 「……は、ははは……。あははっ……!!!」

 不意に、笑みが零れる。 

 それも、ここ最近では、感じたことのない、酷い高揚感を伴うほどの。

 ああ、ああ!

 今まで、なかった高揚感だ。

 これは、何だ?!

 何と言えばいい?!

 ああ、ああ!

 そうか。 

 絶対たる、力だぁ! 

 僕が求めてやまない、鬱屈も何もかも覆せる、力だ! 

 誰も覆せない、神様のような力だ!!!

 誰も抗えない、神様のような力だ!!!

 得たことに、僕は。

 「あははははははは!!!!あぁああああああああははははははは!!!!!」 

 僕は、笑う。

 とにかく笑う。 

 今まで、笑えなかった分、それ以上に。

 そうとも、そうとも。

 僕は、力を得たんだ。

 そうとも、そうとも。 

 自信を、生む!

 

 問おう。萩原桃音、世界をどうしたい?

 答えよう、世界を破壊し尽くしたい。

 つまりは、望むよ、〝ワールドエンド〟。

 

 ごめんよ。 

 だけじゃ、物足りない。

 こんな、そう、こんな世界を破壊できる力を得られたなら。

 もっと、もっと!!!

 もっと!!こう、僕を高揚させるようなことを望む!!

 

 なら、問おう。萩原桃音、世界をどうしたい? 

 答えよう。

 ……世界を蹂躙する!

 

 それがきっかけで僕は、自信を付けた。

 そうとも、そうとも。

 とんでもない力があるのだから、当たり前だ。

 だって、そう。

 そうとも、そうとも。

 僕を苛立たせた奴は、力によって無理矢理殺して。 

 でも、波風立てないよう、時間を戻してなかったことに。 

 僕を苛立たせた企業は、力によって無理矢理破壊して。

 でも、波風立てないよう、時間を戻してなかったことに。

 そんなことができるんだから。

 時間を戻さなかったら、なかったことにならずに絶望を。

 それを見て僕は、笑うのだ。

 嘲り笑うのだ。 

 そうとも、そうとも。 

 僕が、僕こそが、生殺与奪を持つ。

 絶対たる存在なのだ。

 これが、いかに心地よいか。 

 ……もう言葉が思い浮かばない。

 とにかくだ!

 僕は、それがきっかけで自信が付き、……当たり前だが。 

 就職を果たしたよ。

 

 そうとも、そうとも。

 僕は、ようやく幸せになったのだと。 

 ……まあ、どこかで見たような作業着を着て、仕事をしていたけどね。 

 

 しかしまあ、ついついそんな幸せの中だと、僕は忘れてしまうよ。

 自分の半生が、本当は不幸の連鎖であったことを。

 しかしまあ、思い出すんだけどね。 

 あれから、就職して月日が経ち。 

 仕事もまあ、上手くいってたんだけどね。 

 思えばそこは、ブラック企業だったさ。

 きつくなってね。

 やめちゃったんだ。まあ、僕としては、やめても別に気にはしないけど。 

 どうせ、やり直せばいくらでもいいのだから。

 なら、転職でもしよう。 

 転職したって、構わない。

 僕に逆らうような存在は、どうせいないから。

 笑いながら。

 嘲るような、笑みを浮かべながら就活をするよ。 

 ただまあ、不思議なことに。 

 就活とは違って、転職は上手くいくもんだ。

 どうやら、僕は真面目に働いた甲斐があったみたい。 

 学んだことが幸いして、僕は簡単に転職は上手くいった。 

 上手くいったけれど、酷い扱いだよ。 

 契約社員だってさ。

 それも、正社員登用入りと当初言われていたのに。

 酷いことに、いつの間にか正社員登用もなし。そのまま。契約切り。

 最初、恨んだりもしたが。

 やがては、哀れを抱く。 

 ああ、ああ。

 やってしまったね?僕に不幸を与えるなんて。

 生意気だね。 

 ……生殺与奪は、僕にあるのに。 

 そうされて僕は、悔しくないばかりか、ここぞとばかりに笑む。

 そのまま、僕は〝力〟を行使すればいい。

 そうして、その企業がしたことを罰するために。

 そうして、僕を不幸にした世界を罰するために。

 行使する。

 

 世界を凌辱して、僕は嘲り笑う。

 壊しては時間を戻して。

 そしてまた、壊す。 

 

 それは。

 僕を学生時代にいじめた相手でも。

 容赦なく殺す。

 ああ、神様からもらった、大剣を振るってね。

 そうしたら、恐怖を与えられるね、余計に。

 力の象徴、剣。それもでかいとなると、威圧だって凄まじいね。

 防御だって、叶わないよ。

 だって、無意味に両断できるから。


 それは。

 僕の契約を切った人でも。 

 容赦なく殺す。 

 ああ、神様からもらった、大剣を振るってね。

 簡単だったね。

 すっごく、泣き叫んでいたね。 

 恐怖に震えていたね。 

 最高だったよ。 

 僕は、震えるほど、喜んで……殺してやったよ!


 それは。 

 群衆であっても。

 ああ、神様からもらった、大剣を振るってね。 

 回るように斬れば、皆、簡単に真っ二つ。

 建物も、一緒に真っ二つ。

 町も、同じように真っ二つ。

 ……もはや止められないね。


 それは。

 とある国であっても。

 ああ、神様からもらった、大剣を振るってね。

 地は揺らぎ、簡単に地震だって起こせるよ。

 マグニチュードって、いくらだっけか?〝8〟?

 うわぁお。

 ほとんど耐えられないね!あはは!

 

 だって、ただでさえ鬼のような強さなのに。

 金棒持ったんだもの。

 そこから、時を戻せば、なかったことにするんだから。

 何もなかったように進んで。

 ま、結果、僕がどうなっていても、関係ないや。 

 僕は思い知らせるために、力を振るうだけ。

 あの、狂ってしまった神様のように。 

 でも僕は、嘆かない。 

 代わりに、世界を嘆かせる。

 幸せであった家族とか、塵に。

 幸せであった瞬間を、塵に。

 幸せ、勝利の瞬間であっても、塵に。 

 塵に。

 塵に。

 塵に。

 幸せという言葉を全て、塵に埋め立て。

 何もかも、塵にして。

 時間を戻して、また塵に。

 ……もし。

 もし、だ。

 これを見て嘆く存在がいれば、心が痛むだろう。 

 でもやめない。

 見て、嘆くなら嘆け。

 痛むなら、痛め。

 その度に、強くしてやる。

 心が壊れるまで、強くしてやる。

 そうして、壊してやる!

 僕をここまで狂わせた世界が、どうなろうと関係ない。 

 結果として、本当に滅んでも関係ない。

 だって、僕は生殺与奪を持つ者。

 神様に等しいね。 

 さあ、さあ。

 嘆け。

 僕のように。 

 さあ、さあ。

 泣け。 

 多くの涙を流せ。

 血を流せ。 

 嘆きを流せ。 

 そうして、そうして。

 全てを包め。

 そうして、そうして。

 そうして、そうして、そうして。

 ……世界を嘆きの色に染め上げてやる。

 

 そうして、そうして、そうして。

 僕は一人、琥珀色の世界で嘲り笑う。

 荒廃と再生を繰り返す世界傍らに、笑いながら。 

 さあ、震えろ。 

 さあ、怯えろ。

 お前ら矮小な存在が、僕に敵うわけがない。

 さあ、震えて眠れ、永遠に。 

 さあ、怯えて生きろ、永遠に。 

 救われない。

 救うつもりもない。 

 僕が、生殺与奪を持っているから。

 「くくくく……。ははははは!!!」

 誰も止めない。  

 誰も止められない。

 だから僕は、高らかに笑い、転げる。

 そうして笑う勢いで、世界を滅ぼすのだ。

 誰も、……僕を止められない。

 僕は、そう、誰にも到達し得ない世界で、幸せであるよ。

 

 掴んだんだ、この琥珀色の世界で。

 僕は生きるさ、孤独でも。

 琥珀色の世界で。

 

 笑いながら、僕は世界を蹂躙する。


 蹂躙していけば、していくほど狂う?

 世界が自分から乖離した? 

 自分が世界から乖離した。

 ま、どっちでもいいや!もういいや!あはは!!

 そんなことするから、世界は次第に歪になっているような? 

 起こりえない災害が起こったり、繰り返されたり。

 起こりえない病魔が起こったり、繰り返されたり。 

 世界の終わり?でも、終わらせない。 

 苦しませる!徹底的に。

 狂っていく?

 狂っていく?

 狂っている!狂っている!

 歪が、歪に。世界が崩れて見えて。

 でもでもでも、歪なのに動いて。

 でもでもでも、叫び声が上がって。

 でもでもでも、それら、ノイズのように、歪な声に。

 ああ、ああ!

 世界が壊れちゃった?あはははっ!

 あはははっ!壊れてしまえよ!

 

 物語が狂ってもいい。 

 狂ってしまっても構わない。

 語られない物語、語られるなよ!

 誰も聞きやしない!そのまま埋もれてしまえよ!

 絶えろ!絶えろ!!日常のリズムよ!

 日常の〝歌〟よ!絶えよ!! 

 ここからは、僕が歌う!滅びの歌を!!!

 絶えろ!!絶えろ!!絶えろ!!!

 絶えてしまえ!!語られない物語!!!

 

 ……「絶」えよ!「歌」よ!

 ……「絶」えよ!!「歌」よ!!

 ……「絶」えよ!!!「歌」よ!!!

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世界 コハク色 にゃんもるベンゼン @nyanmu00

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