18 永遠(とこしえ)より帰還する
時を遡って。
だが、崩壊するその際にだけ。
神様言った通り、その剣だけで時を遡れる、ということらしい。
では、遡り、崩壊のその瞬間にあって男は。
じっと、空を睨み付けて。
そうしたら、花開くように虹の輪が空に広がっていった。
「……!」
睨みから、瞳を瞑り。
祈り捧げるように剣を掲げる。
……だが、だ。
祈るだけ。
所詮祈るだけで、……何かが起こるわけでもない。
「?!ぐぅああああああああ!!!!!」
何も起こらない、起こせない、ならばどうなるか?
当然、世界崩壊に巻き込まれて、情けなく男は吹っ飛ばされてしまった。
致し方あるまい、世界を壊す衝撃波なのだ、人なんて簡単に。
あっという間に、瓦礫の世界に変わる世界。
男はまた、瓦礫に埋もれ。
だが、不思議とケガは少なく。瓦礫をどかし、崩壊した情景に立ち上がる。
埋もれた自分の大切な、質のいいバックパックを掘り出し。
埃を払って背負い埋もれていた剣もまた、掘り出したなら埃払い落とす。
「……。」
凄惨な情景に、言葉失って。
「……くそったれが!!!!」
から、吐き捨てるように言って。
それは、感じた鬱屈を吐き出すために。
おまけに手にした剣、勢いに任せて、振り下ろす。
その力加減、下手をすれば、剣を折りかねないだろう。
「?!」
しかし折れることはない。
むしろ、思いっきり、剣の先の瓦礫、破砕し、消し飛ばす。
その光景に驚くなら。
僕もまた。ますます欲しくなる。まあ、僕のことはどうでもいいか。
男は剣を見つめ、黙考する。
僕の物じゃないから、腹立たしいのだが。
僕だったならそれが、強大な力を持つ物として、振るい倒すだろうが。
圧倒的な威力に、元々の性能も相まって男は、希望を抱く。
「……。」
だからこそ、男はまたも剣を掲げて念じるのだ。
時を遡って。
その、世界が崩壊する直前まで。
戻ったなら、男は空を一睨み。
輪が広がるその瞬間を、男は剣の力使って、琥珀の色に染め、留める。
「……今だっ!」
気合一つ、吐き出して男は、その空の輪の麓まで、駆け出す。
駆け出して、輪の麓へ来たなら。
ではどこかと探すものの、その中心とも呼べるものは、空の輪の中心にいて。
強い光を放っていた。
「……う……。」
輪の中心まで、空高い。
翼なんてない男には、どだい無理な話で。
臆してしまう。
それを嘲笑うように、折角留めた琥珀色が、ここぞとばかりに戻りだすのだ。
「!!」
焦るあまり、採った行動はその場から、中心に向かってジャンプすることで。
まあ、だからと届くかというと、そんなことはない。
所詮、一般成人男性の限界程度であり、それ以上はない。
「うわぁ?!」
何度も挑戦して、挙句バランスを崩して、倒れてしまい。
丁度タイミング同じくして、世界の崩壊が始まり、また男は巻き込まれてしまう。
「……っ?!」
声にならない叫びがあり、やがて瓦礫に埋もれてしまい。
……結局、この挑戦は上手くいかなかった。
「……ぐぅぅ!!!」
呻きと叫びの混じった声上げて、男は瓦礫から剣ごと腕を突き出し。
自らを掘り出し、這い上がってきた。
同じように、バックパックも掘り出し、土埃払って背負う。
「……っ!」
ぎりっと、歯ぎしり一つ、悔しさに。
「?」
なぜかそれが、僕と似たような気がしてならない。
男はまた、剣掲げて、時を遡り、また、世界の崩壊へと挑んでいく。
どうも、最初の挑戦は、崩壊の麓まで来たが、対処はできないでいた。
次に男がしたことは、空にリングが浮かび上がる一瞬前にて、跳躍すること。
跳躍したその瞬間に、剣を下に下げたならば。
何と、人の身体能力を遥かに越える跳躍を見せた。
跳躍のエネルギー減衰を、完全にゼロにしたのか。
「!」
驚きもあるが、それ以上に、これならば到達できると、希望を見出して。
跳躍の先に、広がったリングにて。
「?!」
―おぉおおおおお!!!
現れたのは光だけではない、怨讐の願いの塊が、雲状になったもので。
男の行く手を阻む。
「くそぉ!!負けるものかっ!!」
吐き捨てるように言ったなら、男は強く剣を握り締めて睨む。
そうするならば、世界は琥珀の色に染まって、留まるはずと。
「?!」
だが、この時はならず。いや、間に合わなかったか。
世界の崩壊の衝撃が、男を包んでしまい。
そのまま、地面に叩きつけ、挙句瓦礫で埋め立てられる。
「……っ?!」
声にならない叫びがまた上がったが、その姿見るよりも早く。
瓦礫の波に飲まれ、底に沈んでしまう。
……流石に、これだけやられると生きてはいないだろう。
僕はそう思ったが、男はなんとまた、瓦礫掻き分けて、その姿を晒して。
同じように、服装、バックパックなど整えて。
「がはぁっ!!ごほっ!!!」
しかし。
血と一緒に、飲み込みかけた土埃、瓦礫吐き出して。
その場に血溜まり作るのだが。
そうであっても、拭っては睨み、……また、時間を戻すつもり。
なんとまあ、僕は感心してしまう。
あれほどまで、ボロボロになりながらも、なお立ち続けるとは。
この人、人間やめているんじゃないかと思ってしまう。
男は、世界を琥珀色に染めたなら、時間を戻して、崩壊前の瞬間へ。
……この挑戦では、ついに手を掛けるところまで来た……みたい。
ならば、と男はこの崩壊前にて、一睨み。
輪が広がったその瞬間を琥珀色に染め上げる。
剣掲げて、その後は。
「……行けぇ!」
一つ叫ぶ。
何を向かわすのか?僕には理解できないが。
男の背中にあるバックパックが、不思議に輝く。
「!!」
見ていく内に、神様が放つ後光のような光を発して。
男の眼前の空間は、合わせて歪む。
そこに、確信あるか、男は躊躇なく。
飛び込むならば、一瞬にして宙へ、そう空間を跳躍してみせたのだ。
琥珀色の世界にて、動けるのはこの男一人だけで。
故に、輝くリングの中心、成す術なく両断されて。
それら一瞬の動き、男はやがて、また空間を跳躍して、元の地面に降り立つ。
空のリングは、そう、両断された。
時は動き出す。その時に……。
―あぁあああああ?!
嘆きに似た叫びが、地まで轟き聞こえて。
それら、怨讐の願いが叶わなかったことへの失望で。
「……。」
男は、だのに心地よいと顔を緩めていて。そう、日常を守れたとの満足感で。
帰れるとの、期待感に。
つまりは、そうとも、男はついに、世界を守ったんだ。
守ったはずだったのだ。
……守ったなどと思うのは早計。
そんな男嘲笑う、一陣の強い風が舞ったなら、瞬く間に世界は瓦解してしまう。
「?!なっ……?!」
叫ぶ間もない。
一瞬だが見えたことには、別の場所に浮かび上がった、空の輪であり。
どうやら別の場所にて、世界の崩壊は望まれていた。
瓦礫に何度目か、埋もれていても男は、這い出して立ち上がる。
やっと守れたと思ったのに。
やっと帰れると思ったのに。
怒り露に、男の腕に、血管が浮き上がるほどの筋肉の膨張見え隠れて。
歯ぎしりも見える。
この、努力さえ無駄にする、嘲笑う状況に、歯痒くて。
「……っ!!……っ!!!」
無駄か、無意味か、だから諦めに、嘆き嗚咽してか、肩は震えて。
いいや。
「……っ……。ぅあぁあああああああああああああああああ!!!!」
顔を上げては、思いっきり咆哮した。
口を大きく開いては、獣のように歯を見せる。
瞳を見開いたそれは、怒りを超越し、力へと変換する獣のよう。
悲しみを感じていないわけじゃない。
憎悪を感じていないわけじゃない。
怒りを感じていないわけじゃない。
それらをその咆哮と共に、男は突き動かす力へと変換しようとしているのだ。
咆哮した後、男は剣を高く掲げる。
何度目かの、時を遡った。
世界が終わるその瞬間さえ、もう男には遅く感じていた。
男の跳躍は、崩壊を発動させるよりも速く。
「あぁあああああああああああ!!!!」
男は咆哮して剣を振るう。
振るった太刀筋は、一閃に見えるが。
実際は異なり、その一閃の間に、数百を越える斬撃を放っていた。
もう、無駄も何もない。
それらがむしゃら、それら野獣が食い荒らすがごとく荒々しく。
そうして、世界の崩壊を防いだが、また世界の輪は発生する。
「っ。」
微かな呼吸一つ、漏らしては、男はすぐに空間を跳躍してみせる。
距離は相当なはずだが、男は、一瞬で渡り歩いた。
……疑問。微かな呼吸が、どこかで見知った感がしてならない。
空の輪を切り裂いたなら、また、別の場所に輪は浮かび。
……繰り返していく内に、男が跳躍する距離は飛躍的に上がっており。
一瞬で地球の裏側まで跳躍できるようになっていた。
もう、その状態の男は、一瞬で数百の輪さえ、斬り裂ける。
そうであっても、やはり人である、呼吸は次第に荒くなり。
動く度に、最早、着の身着のままの作業着は、破れ。
傷もあるか、所々出血していた。
僕だったならば、戦わないだろう。
地に降り立ったなら、そのまま崩れて、空を仰いで。
世界の終わりを見届けるだろう。
あ、それ以前に、戦わないや、そもその願いこそ僕の願いだから。
それはそうと、それほとまでボロボロになりながら戦う。
正直、狂っているとしか思えない。
もう、空に輪が浮かんでも、本能で動いて破壊しかねない。
案の定、間髪入れずに、浮かぶ。男は、休む間もない。
ただただ、繰り返すだけで、跳躍する。
さて、その天のリングの中心、今回は酷く弱い光だった。
正体も掴めるほどに、輪郭も捉えられるほどだ。その中心よく見たならば。
「……!」
見覚えがあると、息を呑む。
リングの中心にいたのは、〝浜凪通〟。
体は不随で、動くことさえできなかったが。
神様のおかげて、動けるようになり。
神様の役に立つために、その命を犠牲にした。
体がダメでも、笑い続けた、羨ましい人。
その人、安らかな表情と共に世界の終わりを歌い始める。
何度目かの世界の崩壊。男は、何度目かの剣を構えて。
切っ先煌めき、殺しを執行する。
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