19 この醜悪なる世界、破壊(救う)ために
「……。」
「あぁああああああああああああ!!!!」
躊躇いなく男は咆哮し、僕は、戸惑いながらも浜凪に手を伸ばす。
当然、掴めることはない。
ただただ、散り散りになる浜凪の光景を目にするしかなく。
僕は、何も言えないでいた。
……天のリングの崩壊……。友の亡骸は霧散し、欠片さえ残らない。
男は、不意に満足げに微笑む。
なぜ?
終わり。これにて世界の崩壊は終わり。
勝ったのだと予感して。
空中にて静止した男は、やがて自由落下に身を任せて。
未だ瓦礫になってない綺麗な地上へ向かっていく。
目も閉じた。
疲労ここにきて限界に達してか。それでも、満足で。
このままでは、地上に激突して死んでしまう。
そう思ったが、また背負った、バックパック輝き、自動的に跳躍して、地上へ。
……それにしても、あのバックパック、何が入っているんだろう。
何かこう、神聖なものが入っているに違いない。
……でないと、跳躍も何もできないから。
跳躍して地上に到達するも、男は目を瞑ったまま、動こうとはしない。
それが災いして、男は顔面から地面に落ちてしまう。
途中、制動が掛かるものの、完全にゼロではない。
「ぐぇ?!」
情けない声を出して、地上に衝突、帰還した。
格好の悪さは、世界の崩壊を止めた、英雄には相応しくない。
「いてて……。」
幸い、顔にそんなに傷はない。
衝撃に目が覚めて、さすりながらも立ち上がり見渡すなら。
そこは、出雲大社の社殿臨む場所で。
男が、神様によって願いを叶えた場所。
願いの始まった場所に、叶えて帰還する。皮肉を感じてしまう。
違いはそう、崩壊しなかったこと。
ならば、このまま踵を返して、元の場所に戻れば終わる。
男はまた、笑みを浮かべては、帰路へ。
「?!」
つこうと思ったが、その時誰かが姿を現す。男はつい身構えて。
現したのは、三毛の猫耳少女。僕が知る、ミケ。
ただし、成長していて、また神妙な顔もしている。
そうして、願いの輪がある場所を見るが、崩壊を目にして、顔を落とす。
男は、そっと剣を背中に隠し、その場を後にしようとする。
今までは一人で、見られたことないが、流石に人がいると。
ボロボロの姿といい、剣を持っているといい。
警察に見られたら職質もの、加えて、銃刀法違反だ、見られると気まずく。
なら、何事もなかった風を装って、この場から立ち去る方が賢明ということか。
「待ちなさいよ!っ!」
「!!」
ミケは、だからといって、その男を見逃すわけがない。
呼び止めて、かつ、歯軋り一つ、牙をも見せて。
ミケは、何を考えている?
類推するに。
もし、そのミケが、浜凪と知り合いであるとするなら。
輪の崩壊とは、つまり浜凪の死であり。
伏せたのは確信で、呼び止めたのは、問い。
浜凪を、殺したのか?とのことで。
おおよそ、当たりと見てはいる。
何せ、いきなり、ボロボロで所々出血した、作業着姿の人間が。
まして、剣を携えているとなると、怪しいことこの上ない。
男は、呼び止められて、気まずく、顔を歪ませて。
振り返っては、ややしどろもどろな感じで、口を動かして。
「ええと、……何ですか?あ、ああ。俺のこれ?これは、あれだ、そ、そう、コスプレの。丁度出来上がったから、友達に見せようと。あとは、こ、この服、もう少しボロボロにしたら、冒険者になるかなっと……。」
出てきたのは、誤魔化しで。
「嘘をおっしゃいな!!!」
「ぐぅ?!」
見通された。ミケは、一喝する勢いで、吠えるように。
その音量は高く、男は耳を塞いでしまう。
「知っているのでしょ?教えなさいよ。あの人を、どうしたの?」
「な、何を……。」
ミケが続けることには、浜凪のことで。すごんだまま、男に詰め寄ってきて。
たじろぐ男は、やはり、情けなく見え、何も思い浮かばないでいる。
「しらばっくれるな!空に浮かんだ、輪っかよ!その中心にいた、人よ!」
「……何のことか、全然分からん!!」
追い込まれるものの、何のことだか分からないと男は首を横に振り。
……無意識にやったのだろうか……。僕にもよく分からない。
「何のことか、分からないって感じね。私には分かっているの。あなた、神気を放ったわね。臭いで分かるの。あの、空にいた人、浜凪通って人もね、同じ臭いを出してた。どういうことだか、分かる?分かっていないなら、教えてあげるわ。」
「……?」
「あなた、〝神様の技〟を使った。そう、空にいた浜凪さんもね。その技で、作られた現象は、同じ技でないと破壊できない。そう、あなたよ。私とか以外は、あなたしかできないの!あなたが、殺したんでしょ!!空にいた、あの人を!」
「……!!!」
やがて、詰め寄られて。よりきつく問われ、男は何も言えない。
だが、目を瞑り、次に開いた時には、男も男で、怒りを露にし。
「っ!だったら……!!!」
すごみ、言い始める。
「だったらこっちも言わせてもらう!!」
思っていること、抱いていること、吐き出し始め。
「止めなきゃならない!止めなければいけない!変えなくちゃいけない!!そうでないと、俺は日常に帰れない!!!そのその、日常に帰るために戦って、何が悪いか!……あの、リングの中心の奴は、だから死んだんだ!そのために俺は、……殺したんだ!」
言い切っては、ミケを睨み付けた。
「っ?!」
聞き、睨み付けられてミケは、言葉を失って。俯いて。
「……。」
男は、言い過ぎたかと、一転、頭を掻いて、そっぽを向く。
何せ彼女は、男にとっては知り合いじゃない。
知り合いじゃないのに、何を言っているんだろうと。
「……それなら……ううん、それしか……。それしか、あの人は救われなかったのよ!!それしか、そうでしか、……もう……。」
「!」
その傍ら、ミケは言ってきて。気付いた男は、その方を見る。
「それしか、なかったの!体は動かない、誰も助けてくれない。それでも、友達はできて、話聞いてくれて。でも、苦しんでいる友達に、どうにか助けになれないか、考えて、悩んで。……そして、願いを叶えるために、そうするしか、なくて。……う、ぅうううう……。」
注目してくれたなら、話を続けて。
最後、嗚咽し、涙を流して。
浜凪が、僕の知っている浜凪なら、あの、体が動かなくても。
ポジティブな人だろう。話を聞いていて、僕の代わりに笑って。
もしかしたら、同じようにミケを諭したのかもしれない。
もしかしたら、僕みたいな人間と、友達になっていたのかもしれない。
その思い出までも、反芻、思い起こしてミケは涙する。
純粋な、願い、叶えるために赴いてまで。
だが、その浜凪も、いない。あの時、銀髪の男にやられたのと同じように。
「……返しなさいよ!あの人を!うぅううあああああああああ!!!!」
やがてミケは、思い返しの果てに、奪われた怒りへ変わり、嗚咽は咆哮に。
「?!」
ミケに応じるように、周辺はざわめきだす。
石畳は砕け、下から木の根が剥き出しに。
かつ、男を責め上げるように鋭く伸びていく。
咄嗟の攻撃に、男は素早く構え、回避して。
……その攻撃方法が、何だかあの時僕がやったことと同じだね。
さて、男は、切り払って、木の根も、砕け、固い石ころも防ぐが。
「?!なっ……?!」
一際大きな石、いや、岩石ほどか。
切り払おうとしたその時に、大きな、金属が一瞬で折り切れる鋭い音が響く。
その通りに、折角神様が作って、ここまで戦った剣が、折れた。
金属疲労の頂点か、あるいは、ミケが放った力が、予想以上に強く。
防ぎきれなくてか。折れた状況に、男は目を白黒させて。
ミケは、だからと言って攻撃をやめることもない。
「?!ぐぁああああああ?!」
いくつもの石つぶて、いくつもの木の根の槍、男を貫く。
……哀れだが、疲労もあり、男は抵抗もできず。
「うぅうううううう!!」
ミケは追撃をやめない。背中に光が迸り、後光のようになったならば。
力は増し、男への痛めつけをやめない。
「……っ?!……っ?!!!」
力が増す度、肉が潰れる不快な音が立ち、通りに槍のように貫く根は。
より深く突き刺さり、捻じれ、……内臓を本当に潰している。
男は叫べず、血の泡を溢れさせ、垂らし、苦悶に喘いで。声は、出せない。
さらに、ミケは唸るなら、力が強まり。
男からは、ゴリゴリと骨が砕ける音が響く。
攻撃は内臓から骨へと移行したみたい。
こうなると、もう死ぬしかないだろう、僕は思う。
「はーっ!はーっ!」
これだけやれば、というところで、ミケは攻撃の手をようやく緩める。
大きく息を吐いて。
どうやらミケもミケで、消耗しているみたいだ、疲労に大きく呼吸。
「……っ!」
男は、だが、生きていた。ミケが息を吐いたタイミングと同じくして・
歯軋りの音一つ上げて。
「?!う、嘘っ……?!」
まさか、生きているとは思っていなかった、ミケは思わず声を上げて。
僕もまた、その言葉に同意。
ならばと、ミケは力を強めるが。
「?!」
なぜか、力が強まらない。
なぜだと見ると、男から光が発されて。
そう、神様のような、聖光の清らかな。故にか、力は拮抗し。
いいや、次第に男が勝っていく。
男は、渾身の力込めてか、腕を動かして、貫く根に手をやると。
根は黒ずみ、灰のように軽く崩れていく。
皮切りに、男を貫いていた全ての根っこは、同じように崩れ。
男は自由に体を動かせるようになる。
まあ、自由になったところで、傷口から大量の血が溢れてしまうのだが。
大量の血は、溜まりを作り、男は、全身の力なく、膝をつく形になる。
そうであっても、立ち上がろうと震えながら。
……僕は恐怖する。
このような状態になりながらも、なお抗うか。
「帰るんだ……、日常に、帰るんだ……。変わるんだ……俺は……。」
血を吐きながらも、言葉を紡いで、なお意志を示す。
「……。やめなさい!!!!もう……。」
その様子が見ていられないと、ミケは震えながら言い。
そうであっても、手は緩めない。まだ、攻撃を続けるつもりで。
その状態の男に対して、また同じように根っこを這わせて。
その場に散らばる石ころを、弾丸のように飛ばして。
「……帰るんだっ!!!!!!変わるんだっ!!!!!!」
そのままなら、貫かれるだろう。それを、弾き返すように言葉吐いて。
気合と共に、放たれたのは光で。膜のように男の周囲を包んで。
攻撃は、その膜に触れると消失して。
「……おぉおおおおぉお……。」
地の底から響くような声を上げて、男は、立ち上がろうと体を上げ。
「ぉおおおおおおお!!!」
咆哮へと変わるなら、それら遠吠えに見えて。
呼応するように、光は集まり、服のように纏われていく。
落ちていた、もう柄だけの剣、拾い握り締めては、なお戦うように構えて。
呼応するように、光はまた剣にも集まっていく。
だけじゃない、細かく、金色の光を反射する粒も呼び寄せていて。
光はやがて、刀身を形成するようになり。
加えて、集まる光は、全身をも覆い輝く。
輝きが弱まり、シルエットがはっきりするようになったなら。
……僕は、目を疑った。
その光が散ったそこには、見慣れた男がそこにいたのだ。
そう、僕を散々痛めつけ、希望を奪ったあの銀髪男。
光を纏ったその時に、姿が変わったのか。
おまけとしては、傷も癒えていて。ボロボロだった服も、修繕され。
剣も修繕され、……これもまた、見慣れた物に変わっている。
金色に近い色を反射する刀身を持つ、あの刀だ。
ここに、あの刀と、あの銃刀法違反の男が、……出現する。
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