20 神錆びた奇跡の玉よ、詠っておくれ
その意味は、それは、そして、ここは?
疑問浮かぶが、答えは今は分からないでいる。
僕は、疑問さておき、見続けて。
男、そう、銀髪の暴力男は、ゆったりと刀を構えて。
その構え、切り伏せるそれではない、刺突の構えで。
「!」
ミケは、危険を感じ取り、こちらも構えて。
両手を広げ、手に光を溢れさせることに。
そうして、相対する。
何か、こう、合図があれば、双方ぶつかり合う、そんな様子。
だが、様子だけだった。男の姿は、陽炎のように揺らぎ、消え。
「っ。」
微かな呼吸耳にしたならば。
男の姿はミケの後ろに現出、その刀を振り下ろし払う。
ミケは、理解する間もなく、胸を貫かれ、装束を血の赤に染め。
成す術なく、地に倒れ伏し、動かなくなった。
……その光景は同じ。
僕が見た、ミケと例の男が対峙した時の、一瞬の刺突風景。
それがここに、再現される。
同じ光景に僕は言葉を失い。
「……ふぅ。」
男は終わったと安堵と思える溜息をついて。
その安堵の溜息反響するほど、静かになった出雲大社、つまりは終わりで。
そうとも、終わったのだ。帰還できるのだ。
もう、世界を終わらせる存在は、いない。
もう、世界の終わりを望む者は、いない。
なら、このまま、出雲大社を後にしたなら、男は日常へ帰還できる。
帰還できるのだ。
……踵を返して、日常へ帰還していく……。
願った日常とは変わる。
新しい日常。
願った日常に変わる。
新しい日常へ。
……しかしここで、僕は疑問に思う。
僕が見せられているのは、あの男の過去だったとして、なら、なぜ?
なぜ僕を恨む?
このまま、帰れたのなら、終わりだ。そう、終わりなのだ。
終わりなら、もう何もないはずだ。
恨む理由もない。
それでいて、僕を恨むように、消すだの何だの、言われる筋合いはない。
そう思うと、僕は苛立った。
もし、この、男の記憶空間から戻ったなら。
精一杯の力で、あいつを文句踏まえて、叩き伏せる……いや、ぶっ殺してやる。
いい迷惑だよ!!
……なぜ僕を恨む?
さて、その答えは、この後すぐのようだ。
「?!」
静かになった出雲大社、そこに足音一つ甲高く響いて。
何だと男が振り返ったなら。
……自分の目を疑うように、目をぎょっと見開いてしまう。
「?!」
僕もまた、自分の目を疑った。
なぜなら、その視線の先にいたのは、〝僕〟だった。
姿は随分違う。
男と同じ、作業着姿。
そして、多分僕が大切にしている物が入れてあるであろう。
かつ、男と同じ質のいいバックパック背負い。
顔は同じ。
浮かんでいる表情も、僕と同じ、鬱屈の。
……自分を見るのが、不思議でならないが。
それはそうと、そこの〝僕〟が、今の僕と同じなら。
ここに来たのは、他らなぬ怨讐の願いのため。
男は、見られたと思って、誤魔化すだろう。
ミケの時と同様に。僕と顔見知りじゃないんだ、そうに違いないさ。
……いや、何か様子が違う。
この光景が嘘だと言わんばかりに、口を震えさせていて。……なぜだろう。
一方の〝僕〟は、相手の様子をまじまじと見つめて。
かつ、男の後ろにある、ミケの骸をも見透かして。
苛立ち混じる、荒い鼻息一つ、吐いては。
「……あんただったか。」
確信したように、呟いた。
「……?」
男は、何のことだか分からずにいて。
それ以上に、〝僕〟の姿見て、混乱さえしている。
さて、一方の〝僕〟の確信。
もし、僕と同じであるならば。
それは怨讐の願いが叶わない、叶わなかったことに他ならない。
その眼前にいて、かつ、銃刀法違反よろしくの刀を持ち。
その後ろに、一応神様ではあるか、ミケの骸があれば、状況証拠としてなお、だ。
「散々邪魔をしてくれたな。」
苛立ち混じり、男を責めるように言う。
男は、何も言えない。
「分からないって、顔だな。教えてやるよ。あんたが邪魔してくれたおかげで苦しんでいる奴は増えた。この僕しかり……。なあ。楽にしてくれないのか?」
言葉で追撃してきて。
反撃は、ない。
「……ふん。」
また、鼻息一つ吐く。
「いい度胸だな!!!!この僕を前にしてなぁ!!!!」
そうしたら今度は、歯を剥き出しに、牙を見せつけるように言い放つ。
言い放ったなら、両手を広げ、目を見開き。
それぞれ血管が浮き出るほど、力を迸らせる。
ならば、両手には光が溢れ、かつ、世界を琥珀の色に染めて。
背中の、丁度、背負っているバックパックからも光が溢れ、様子は後光射すよう。
瞳は、やがて琥珀の色に染まり。
……発する気迫は、もう人間のそれじゃない。
……その様子は、この記憶世界か何かに入る直前の僕と同じだが。
僕以上かもしれない。
円弧を宙に描くように両手を動かしたなら。
光の膜と共に、模様だか文字だか浮かび上がって。
それも、大量に。
僕が無意識に展開したの以上。やはり、僕以上か。
「……あんたを殺せば、願いは叶うようだ。よし、殺してやる。あんたが、どういうつもりで戦ってきたかとか、止めたとか、そんなもの関係ない。そこに、どれほどの幸があるかも関係ない。ただただ、僕のやるべきこと、それを邪魔するなら、排除するまで。……さようならだ。」
冷徹に言っては、手を動かして。
応じるように、光の膜は輝き、光弾を男へ向けて放った。
「!!」
咄嗟に我に帰り、男は避けて、事なきを得るが。
後ろの遠くでは、強い煌めき軽く衝撃もこちらに向かって。
それなりの威力のようだ。
これで終わりじゃない。まだ、攻撃は続く。
執拗に男が着地した所を狙い、光弾を差し向ける。
地の石畳、簡単に抉って。
男は、これでは埒が開かないと、一転、回避をやめて、向き直り、構えて。
「っ!」
微かの呼吸、放っては、陽炎のように揺らぐ。
刹那の刺突。
「?!」
「……その程度でっ!」
さえも、防御される。
男の刺突は、〝僕〟を貫くことはなく、反対に、回り込まれて。
「ぬんっ!」
「?!ごほぁ?!」
すかさず、男の横っ腹に掌打を与えたなら。
固い物が砕ける音と共に、男を遠くの石垣まで吹っ飛ばす。
背中の衝撃に、仰け反り、血を吐く。
絶命はしていない。
そう思ってか〝僕〟は、更に攻撃を加え。
光の膜を収束して、光弾のように密集させたなら、容赦なく放つ。
「?!あ……っ?!」
悲鳴が上がったが、衝撃音に消されて。激しい発光に、男の姿は溶けた。
「……。ふん、終わったか。」
見届けて、〝僕〟は一言。
構えを解き、さっと服の土埃払う。男を倒したと、今度することは。
空を見上げ、再び手を動かして、文様伴う光の膜形成。
すると、神様がそうしたように、天に輪が掛かる。
それは、怨讐の願い叶えるそれで。
「さあ。怨讐の願いたち、叶えてあげるよ。」
言うこともその通りで。
仕事を始めようと、〝僕〟は手を動かして。
―おお!おおおおおおお!!!
途端、周りを取り囲む、曇天の雲のような何か。
歓喜の声を上げて集う、それら、怨讐の願い。
まるで、神様のよう。
揺らぐ。
世界の終わり、迎えるために、地が揺らぐ。始まるのだ。
それは、怨讐の願いが叶う瞬間。
「……せるか……っ!」
静止は皆無と思われたが、一つだけある。
聞き覚えのある声で、この願い叶う場にて、異論を唱える者。
他ならぬ、あの男だ。まだ、生きていたとは。って、そうか。
体を貫かれてもしぶといんだから……。
「!」
〝僕〟は気付いたが、……一歩遅かった。
「させるかぁあああああああ!!!」
男の咆哮届くのと同じ時に、〝僕〟はその切っ先に貫かれ。
挙句、反対側の石垣まで吹っ飛ばされてしまう。
「?!……ぁ?!」
反対だね、〝僕〟が今度、消える様な声を上げて。
同時に、その衝撃が凄まじ過ぎたか、衝突した石垣は、埋め立てるように崩れて。
救いの声上げる前に、〟僕〝は土砂の波に埋もれてしまう。
「?!うぅうぅ……?!」
見ていて僕は、身震いしてしまう。
僕じゃなくても、あれは〝僕〟だから、そのような目に遭うと思うと。
また、なるほどとも思う。だから、僕を消したかったのかと。
僕と相対したからで、かつ、そこの〝僕〟は。
それこそ世界の終わりを、神様みたいに起こせるのだから。
消したかった。
……ん?それだけじゃない様子が、男から窺い知れるね。
男は、〝僕〟を殺した後、刀を落とし、かつ、膝もがっくりと落とす。
もう、男の目的は果たしたのだから。
意気揚々という感じになりそうなものなのに、……これはなぜ?
跪いて、手を伏せて、絶望する。
「……なぜだっ?!」
発されるのも、絶望を示し。震え、嘆きに目尻から涙が滲み。
訳も分からないこれに、男はどう言葉を紡げばよい?
あ、声掛けられないや。
救いはあるか?
救いはある。
同じくして、出雲大社の本殿を臨む場所に、聖光が溢れて。
光から、人影が象られていき。
銀色で、猫の耳を生やした、巫女装束の少女、神様が現れる。
何度も時を遡り抵抗してきたが、ほとんど男の力であった。
ここに来ての現出、久し振りな気がしてならない。
「!!」
男は、顔を上げて、本殿の方を見やり。からの、詰め寄り。
流れは以前と同じそう、帰還したのに、崩壊は止められなかったという時と。
「人の子よ。……あら?」
「……っ!……っ!!!説明しろ!!!!どういうことだ!」
今回は、詰め寄りも激しく。あっという間に、胸倉まで掴んでしまう。
「……!」
神様は、この時は強く睨み付けて。失礼にもほどがある、訴える。
バシンと、掴んでいる手を叩き払うなら、男はバランスを崩して。
ただし、今回は吹っ飛ばされることも、叩き伏せられることもなかったが。
そこは、……成長か?
「説明しろも何もという前に、いきなり失礼ね。赤子からやり直したら?それとも、それ以上に私に何か聞きたいと?」
糾弾する。
「……ととと……。」
男は、バランスを整えたなら、向き直り。
睨み付けもいいレベルで激しく睨むなら。
「ああそうだ!!」
聞きたいことのために、言い始めて。
……なぜか〝僕〟を吹き飛ばし、崩落した瓦礫に埋め立てた場所を指さす。
「どういうことだ!なぜ……。」
「なぜ、〝俺〟がいるんだ!!!!」
聞きたいことは、〝僕〟のことで……。
え?
一瞬キョトンとし、今言った、男のことを反芻する。
なぜ、今男は、〝僕〟を指して、自分と言ったんだい?話が、よく見えない。
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