5 銃刀法違反の男に追い詰められても
「!!シータさん!」
……方や、信頼あるであろう少女は、多分その男の名前を言って。
光は消えて、慈悲深い、聖母のような笑みではなく。
その年齢らしい、無邪気な笑顔を見せて、駆け出す。
「無茶をするな、ミラ=フローレンス。歩きで構わない。」
男は、少女の名前だろう、言った後、駆け出すのを制して。
「は、はい。すみません。はぐれてしまって。」
少し俯き加減に少女は頷く。言われた通り、速度を落として、男の元へ行き。
男は得物を持っていない手で、抱き寄せて。
優しく撫でたなら、軽く耳打ちして、少女を離す。
少女は無邪気に笑んで、軽く弾むようにステップを踏んで。
僕と、そして男から離れて行った。
そんな無邪気さ感じ男は、呆れたか鼻息一つ出し、少女の姿見送って。
見えなくなったなら、今度はこちらに視線を戻し、また、僕を睨み付けた。
「……っ!」
僕は、だが臆することはない、怒りにびくりと体弾ませて。
昨日の今日で、僕は腹が煮えくり返りそうだ!
「きぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁ!!」
このまま、怒りを吐き出し、似合わないが殴り掛かり。
「?!ぎゃぁあああああ?!」
……からの、逆に僕が殴り飛ばされてしまい。
……はて一体、どうしたのか?
ほとんど、ノーモーションで?
そう……、かもしれない。無拍子で男は、僕の動きに合わせて殴りつけた。
しかも、質が悪いことに、手にした得物。
刀納めた状態であっても、鈍器として使って。
拳が当たる前に、僕をそれで殴りつけてきたようだ。
スウィングあることで、僕はボールのように飛ばされて。
近くのフェンスに叩きつけられてしまう。
近くには、石造りの門柱もあって、そこに当たらないだけましだったが。
それでも痛いものは痛い。
「……口の利き方には気をつけろ。俺は、お前より年上だ。」
「……っ!!」
口の利き方が気に食わないだけでこの男は、僕を殴り飛ばすか?!
だが、それも相まって余計に僕は、怒りに火をつけて。
ぎりっと、歯軋り。
フェンス握り締めた軋み、音立てて、立ち上がって、睨み付ける。
「……だったらな、こっちも言い分があるぞ!こっちはな、不幸だ!いいことなんて、一切ない!!ずっとずっと!!不幸でさ!!嫌な奴に絡まれる、痛めつけられる、言葉でもなんでも。挙句、就職活動では、祈られる!!そんな時、救済を願って何が悪いか!!」
「救われないなら!!壊す!!壊しつくす!僕が壊されるぐらいなら、僕が呪詛で、怨讐で、その願いで、破壊しつくしてやる!もう、世界が一切、草木の生えない砂漠になっても構わない!だからさ……。」
「邪魔すんなぁああああ!!!」
声荒げ、僕は吐いた言葉の勢いのまま、また駆け出して、殴りつけようと。
「はぁ……。」
男は、呆れ顔だ。
怒る人間がいるにもかかわらず。
自分でも狂ったと思うほど怒りを吐き出す僕を見ても、臆することはない。
溜息一つ、ついて。
「?!あ、がぁああああ?!」
今度は得物で刺突する。
軽いモーションのくせに、青年の僕の体を軽々と打ち出して。
……恥ずかしくも僕はまた、さっきのフェンスまで飛ばされてしまう。
「う、うぅ……?!」
今度は衝撃が強く、立てない。息も、上手くできない。
ただ震えて、フェンスの磔のまま何もできず。
男は、歩み寄りながら、手にあるその得物から刀を抜きだしてきて。
丁度、対峙できる場所にて、その切っ先を突き付けてくる。
陽光に、鈍く光る黄金に近い色のそれが、獣の牙のように思えてならない。
……それはまさか、ここで僕を殺すと言うのか……?
だが、突き付けた切っ先動かすこともない。
僕を睨み付けた眉、動かすこともない。
……が、口は動かすようで……。
「さて……。本当なら貴様は昨日、死んでいたはずだが……。ま、生きているなら、幸運だろう?なら、俺を相手にするより、内定取れるまで就職活動を励んだならどうだ?なぁに。沢山やっていいのさ。その内どうにかなる。失敗を繰り返して、人は大きくなる。それは、誰だってそう言うだろう?それとも、そのような努力もせずに貴様は、奇跡に縋ろうとするか?」
「わ、悪い……かぁ?!」
お説教だ。そんなことするぐらいなら、内定取れるまで、やれと。
幸運を呼ぶような努力をしろと。
ありがたい?そんなわけあるか。
現状苦しい僕に、響きやしない。
「……素直じゃないな。ふん。変わらないなら、忠告しといてやる。ああ、あの娘がいなくてよかったよ、全くな。あいつには、見せたくないからな。」
「……?」
「その破壊思想捨てろ。さもなくば……――!」
「!」
―貴様を殺す……!
素直にならない僕に、まだ説教を続けて。それも、強く。
僕が抱く、怨讐の願いに対してまで。
……もし、守らないならば……どうなる?一瞬そう思ったものの。
男は口を不意に閉じたと思ったら、気迫を僕にぶつけてきて。
気迫に言葉を乗せて、僕の頭だけじゃなく、体に分からせるようにぶつけて。
「……!!うぅぅ?!」
ぶつけられた僕は、呻くしかなく。
その様子見た男は、刀を収め、踵を返して僕から去っていく。
その背中、僕は追うことができず。
というか、体が動かない。痛めつけられたために……。
しばらくそのままだったが。
だらりと、フェンスから体を剥がすように動くものの。
まだ痛みの余韻残る体、そのまま地に崩れて。
這いつくばるような姿勢になり。
「……う……。」
僕は。
「……うぅううううううう!!!!!」
唸ることしかできなかった。
怒りに、悔しさに、憎悪に。ギリギリと歯軋り。
咆哮は食い縛った歯の隙間から漏れ、けど唸り声にしかならず。
地に爪を立て、怒り露にしても、……余計痛みを感じてしまい。
結局のところ、締め括りに今日もろくなことはなかった……。
……ああ、だからと言って、僕も何もしないわけじゃない。
さすがにこれは傷害事件だ、警察に連絡したよ。
知っていること話してみたさ。暴行を加えた犯人の特徴。
そう、銀髪で作業着で、質のいい、イケてるバックパックを背負い。
刀を持った怪しい奴ってね。
傷害罪、暴行罪、銃刀法違反、捕まれ!!あの邪魔者!
あの犯罪まがい!!
イカレ野郎!!
……けど、警察も警察だ、これ幸いと目を輝かせていたよ。
よっぽど、暇だったんだろうね。
しかしそれは、癪に障る。
僕は、暴行被害を受けているのに、さも事件だと面白そうに見る。
先のこともあり、僕は余計腹を立てた。
家に帰って、服を脱いだなら、酷いものさ、痣だらけ。
見ていて、苛立ちにいら立ちが積み重なり、吠えそうになる。
「……うぅう?!」
そうしたら、傷に障ったか、……痛む。吠えることも、何もできず。
この苦しさ出せず僕は、この日を終える。
ああ、こんな状態にあって、幸いは一つ。
湿布薬があったことか。
とにかく、全身の痣という痣隠すように、貼りまくり。
その後ベッドに自分の体投げ出す。
一瞬痛んだが、伝わる冷感が癒して、途端僕は眠りへ誘われる。
「……。」
翌日。
朝の目覚めは、全身に貼られた湿布薬の、鼻を突く臭いで。
せめて、昨日の暴行事件が単なる悪夢なら、それでもよかったのに。
悲しいかな、湿布の存在と、押さえた際伝わる、鈍い痛みに現実と言われて。
いつも吐くが、……大きな溜息が出てしまった。
「……あ~あ……。」
また、着替えようと服を整えたが、酷いことに、昨日のせいでボロボロ。
余計、溜息が出てしまう。
まあ、一張羅じゃないが、それでも勿体ないったらありゃしない。
思うと、今度は怒りが湧いてきた。昨日も一昨日もそうだけど、ね。
「……っ!」
怒りに静かに呻き、やむなく服を押し入れから出して、着る。
着たなら、僕はぎりっと歯軋り。
見とけよ、あの野郎。弁償させてやる!傷害罪で訴えてやる!
それで訴訟して賠償金だ!
溢れる怒り、怨讐を伴って僕の心に訴えかけてきた。
適当に出掛ける支度をして、出る。
ああ、大事な物入りバックパックは相変わらず、一緒に持って行くよ。
で?当ては?
……ないね。正直、出掛ける気もないんだけれども。
残念ながら、暇すぎてどうしようもないと僕は、あて探す、欲張りだ。
ああ、静かに、何も考えずに過ごせる場所に、行くのもいいかもね。
見つかったねと、僕はそのあて探しに、旅に出ようと思い立つ。
そう、それならば、怒りも怨讐も、忘れさせてくれる。
就職活動の現実からも逃れられるかな。
そうして歩を進める。
「……。」
そうする前にと、つい僕は郵便を確かめに向かう。
昨日もそうだったのに、習慣は怖いものだ。
その通りに、案の定、封筒やらあるが。
それら全て、『祈ります』の文言で締め括られるものばかりで。
「……っ!!!」
その結果、当然ながら僕は大激怒して。
無造作に破り去り、踏みつけて。丸めて塊にして、ゴミ箱に投げつける。
「くそがぁぁあああ!!!」
加えて今日は、ゴミ箱を蹴り飛ばし、更には自分の郵便ポストを殴りつける始末。
結果として、郵便ポストの扉が、へこんでしまった。
「……ぐぅうう?!」
痛む体でそうしたんだ、反動にこちらにも痛みが来て。
呻き僕は、軽く蹲る。
そうして後悔もする。これを忘れるために、折角思い付いた旅だったのにと。
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