第15話 ただのストーカー その1
「北山リナが妹ってマジだったのか」
「うん」
「なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ」
「前にも言ったことあるだろ。それに、他人にあんまり言わないようにって言われてんだよ」
長田は割とマジで拗ねていそうな顔だ。ちゃんと答える。
「リナちゃん家でも可愛い?」
「顔のことなら物心ついたときからずっと一緒だから、可愛いとかは思わないな」
「マジかよ。今日の放課後家行くぞ」
「なんでだよ」
それはそうとして、「今日の放課後家行くぞ」ってめちゃくちゃゴロ良いな。キャッチコピーなんかで使われそうだ。
「友達の家に、好きなアイドルが住んでるんだぞ」
「お前、ファンならそこら辺ちゃんとわきまえろよ」
「リナちゃん何組?」
「おい聞いてんのかよ?」
「リナちゃんと合法的に無料で会えるとか持つべきものは、オタク友達」
そんな調子で、俺は夢見心地の長田を連れて、学校まで歩いた。
あっちにいったり、こっちに行ったりフラフラしながら、同じことしか喋らない長田と学校まで歩くのは、犬の散歩をしているみたいだった。
まぁ、犬の散歩なんてしたことないし、俺猫派だけど。
「リナちゃんマジ可愛いわー」
「まだ言ってんのかよ」
昼休みになっても、長田の様子は変わっていなかった。
弁当箱を開けようともしないところを見ると、むしろ朝よりも悪化しているように思える。
「そういや、さっきの休み時間どこ行ってたんだ?」
三限目の古文の授業。長田は珍しく遅刻して(遅刻とは言っても、チャイムが鳴って一分も経たないうちに、教室に駆け込んできた)
学校一怖いと言われているおばさん先生にこっぴどく叱られた。
「廊下に立っていなさい」
なんていう前時代的なせりふを生で聞けて、クラス中が大笑いしていたのだ。
「古文の前の話?」
「うん。うんこか?」
「一年二組に行ってた」
「一年?なんで?」
「リナちゃんを見に」
「お前、人の妹ストーカーしてんじゃねえよ」
ポカッと長田の頭はいい音がする。
きっと中身が詰まっていないんだ。
「別にいいだろ、減るもんじゃないし」
当たり前だ。
何かを見るだけで減らすことが出来るなら、お前の目は写輪眼を超えている。
「手振ってくれたぜ」
「そうか」
「それにしても、あんな可愛い妹がいるとかうらやましすぎる」
「あっそ」
「あっそ、じゃねーよ」
もう昼休みが終わろうとしているのに、何も食べず、弁当箱を開けることもなく、ただ減らず口をたたいているさまを見ると、やはりこいつの頭は空っぽなのだろう。
「もう昼休み終わるぞ」
弁当箱を片付けた俺は、俺たちが背もたれにしている校庭で一番デカい木のそばに生えていた、赤い花の真ん中の細長いのを抜いて、長田に投げる。
確か、アンスリウムとか言ったはずだ。元素みたいな名前の花は、意外と多いのかもしれない。
「おいやめろ、俺花粉症なんだぞ」
「知らねーよ。もうあと十分で五限始まるから、俺行くわ」
「マジかよ。じゃあ俺も行く」
結局長田は弁当箱を開くこともなく、昼休みを終えた。
「五限と六限の政治・経済は、渡川先生が休みのため、自習になります。図書館も使用可です」
黒板にデカデカと書かれた文字を見て、長田が歓声を上げる。
「弁当食えるじゃん」
「そーだな」
昼食時間だけでなく、五限も六限も、俺は長田のおしゃべりに付き合わされた。
「自習時間だから、少しは黙れ」と言いたいところだったが、国立や難関私立を受ける奴らが図書館に行ったせいで、教室には受験勉強にそれほど真面目に取り組んでない人たちが取り残され、長田の声など気にならないほどに騒がしくなっていた。
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