第29話 逃避行
外はまだ真っ暗で、寒さが皮膚に突き刺さる。ところどころで光る街灯も、自動販売機も冷たい。
濡れた頬の皮膚が突っ張る。
裸足で冷え切ったアスファルトの上を歩き続けた足には、もう感覚がない。
現実からの逃避行。
俺はいつの間にか、公園まで来ていた。昼間にはジョギングをする人や、池でボートに乗る人などにぎわっていても、この時間には誰一人としていない。
赤、黄の木々も夜の闇に飲まれている。
「俺は、何もしてあげられなかった。ごめん」
口をついて出たのは、麺と向かっていえなかった謝罪の言葉。懺悔の言葉。
俺には、璃奈に文句を言う資格なんてない。
璃奈の言うとおりだ。
「何がファンだ。お兄ちゃんだ。」
妹の助けになることもできず、それを謝ることもできない。
「最低だ」
何も知らないくせに、
「クソッ!」
ベンチを殴る。
拳に血がにじむ。
そんな自分が大嫌いだ。
自分が悪いと、悪の根源だと知っていながら、結局は痛みで気持ちをごまかす。
償った気になる。
責任からの逃避行。
エゴイスティック。
醜い。
穢い。
いくら言っても言い足りない。
池に向かって吐き続ける俺を、畔の水仙の花が見つめ返した。
「勇人。もう行くから、ちゃんと安静にしていてね」
母親がドアの向こうからそう言って、仕事に行った。
もうすぐ九時。
俺はまだベッドの上にいる。
俺は見事に風邪を引いた。
汗で濡れたシャツとズボンで2時間以上も外にいたのだから、当然の報いだ。
と、普段ならそう思っていたのかもしれないが、こんなことが自分のしたことの報いになるとは、到底思えない。
俺はまだ、璃奈に謝ることすら出来ていない。
深夜の公園でああだこうだと情けない自分に文句を言っただけだ。
まだ何もしてない。
体温計をわきに挟む。
38.5
猛暑である。
「とりあえず、寝よう」
俺は十数時間ぶりに、頭から布団をかぶった。
俺の目を覚ましたのは、スマホだった。鶏の鳴き声を設定しているアラームではなく、ぽよよーんという着信音の方だ。
「もしもし」
「やっと出た。北山くん大丈夫?」
志田だ。
「夜中に薄着で外居たら、風邪ひいた」
「何やってんの?」
「いや、だから」
「とにかく、放課後家行くから!安静にしてねお大事に―」
ずいぶん早口でまくりたてて、志田は電話を切った。
「何をそんなに急いでるんだ」
志田が来るであろう五時前にアラームをセットして、俺はまた眠りに落ちた。
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