第10話 ゲームで負けたら、パシられるらしい。まぁ、勝つのは俺だけど。

「配信何時からだっけ?」

志田が買ってきてくれた少しぬるくなったコーラを飲みながら、長田は言った。


「七時だよ」

志田がスマホを見ながら答える。


 今日は、colorfulの解散と同時に発表された新しいグループのメンバー発表とグループ名の発表がある。だから俺たちはこうして、長田の家に集まった。


 「時間あるなー。じゃあGSOでもするか。」

ほいと俺と志田にコントローラーを渡し、長田はゲーム機のスイッチを入れる。


 「いつも通り、負けた人がコンビニまでパシられるってのでいいよね」

志田が半そでなのに、腕まくりのような動作をする。


長田や俺がやっても、「なんだそれ」となるだけであろうその動きは、女子高生がやるとどこか色っぽく見えるのだから、男女平等の壁が壊される日はまだまだ遠い。

きっとベルリンの壁のように、ある日突然出来て、ある日突然壊されたりするようなものではないのだろう。



 GOSというのは、『ジェネレート・サムライ・オンライン』というゲームのことだ。


 題名から察するように、自らの好きなようにサムライをカスタマイズしたり育成したりして、その育てたキャラを使ってオンラインのバトルロワイヤルで戦うというものだ。


 サムライという名の通り、一般的なシューティングゲームとは違って、飛び道具つまりは遠距離攻撃がほとんどなく、刀だけで戦うというなかなか斬新なものである。


 しかし、斬新だからこそ、普段からゲームをしている人とそうでない人の間の垣根が低いので、友達と対戦するにはもってこいだということで、ある程度の人気はあるらしい。


 そして、志田は普段はゲームをしないどころか、スマホのアプリゲームすらもほとんどしたことがないというのに、妙にこのゲームが強く、一般的な高校生と比べると結構ゲームをしているはずの長田や俺といい勝負になるのだ。


 「前回と違って、俺は勝つぜ」

俺は制服のネクタイを外しながら、コントローラーを握る手に力を込めた。



 一回目。


 俺は長田と志田と同じく残り十人まで生き残った。


ゲーム開始時が百人だから、トップ十に入るのは、それだけで結構すごいことのはずだが、物陰に隠れていたところをwwwという日本人なのか外国人が適当につけたのかよくわからない名前のキャラクターに切りつけられて死んだ。


いちおう、日本史の偏差値は六十くらいある俺から言わせてもらえば、サムライのくせに、物陰に隠れたり、それを狙い撃ちしたりするのは、間違っている。


格ゲーのごとく正面から向き合って戦う者こそ、サムライの名にふさわしいはずだ。


 長田も志田も俺よりは生き残ったものの、結局最後の一人になることはできずに、死んだ。


 「えーっと、三人の中で志田が一位で、俺が二位で勇人がビリか。」

長田が順位を確認しながら、足元の白紙にマジックで順位を書く。


「長田くん、これ何回勝負?」

ペットボトルのふたを閉めながら、志田が訪ねる。


「そうだなー。三回くらいでいいんじゃないか?」

長田は流し目で俺を見ながら、意地悪く笑う。俺がこのまま負けると踏んでいるようだ。


「いいぜそれで」

記者会見で挑発されてキレかかってる格闘家のようなメンタルで、俺は残りの二回に臨んだ。



 俺は、少し薄暗くなってきた道をコンビニに向かって歩いていた。


 あの後、俺は一回目と同じような死に方を二回続けただけで、何のドラマも生まれないまま、勝負は決した。


 曇天返しや、逆転劇やジャイアントキリングと言ったものは、ほんの少ししか起きないからあんなにほめたたえられて称賛されるということはわかっていた。


 GOSの神様は、何も悪いことはしていない。ただ何もしなかっただけだ。


 「追加のコーラとたこ焼き君」というメモを見直す。


もうすぐ向こう側に行きそうな夕日に照らされながら、俺はコンビニのドアを通過する。


ピンポンパンというどこか哀愁漂う入店メロディーは、今の景色と俺の心情にぴったりだ。


棚のたこ焼き君をかごに入れ、コーラを三本掴んでかごに入れたところで、トイレの入り口にある雑誌に目が留まった。


 表紙がアイドルのグラビアで飾られた週刊の漫画雑誌。さっき長田の部屋を片付けたときに見たなと思いながら、巻頭グラビアのページをめくる。


 駆け出し中のフレッシュアイドルcolorfulが初表紙&巻頭グラビアと名乗っているが、グラビアで取り上げられているのは、センターの古川美波と二番人気の北山リナだけだ。


 二人とも現役女子高生である。というのをアピールしたいからなのか、古川美波はバレー部のような服装で、北山リナは両手にリストバンドを着けてラケットを持っている。こっちはテニス部だろうか。


 俺もこの雑誌は買っていたから、先月号がまだ置いてあるのには少し懐かしさを感じる。


 俺はもちろん、「推しが載っている」というたったそれだけの理由で買ったのだが、二人以外のメンバーのファンは、どう思ったのだろうか。


 そういえば先週、

「もう読まないから挙げる。みっちゃん推しなんでしょ」

と璃奈からもらって、今この本家に二冊あるわと思いながら、本を棚に戻す。



 たこ焼き君と三本のコーラが入ったレジ袋を片手に店を出るころには、空は暗くなってきていた。


 夕焼けは、ほんの数分で沈んでしまった。


 「きれいだったし、写真撮っておけばよかった。」

つぶやいても時は戻らない。



 ピコーンとスマホが鳴った。


 通話をフリックし、出る。


「なんだ?追加の買い物か?」

「ちげーよ。お前急がないともう配信始まるぞ」



「マジか」

「マジだ」


俺は、スマホをレジ袋の中に入れ、バロンドールを獲ったポルトガル人にも負けず劣らずの速さで長田の家に走った。

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