第9話 長田の部屋はマジで汚い
「今日はマジでくそ暑いな」
「お前、昨日も一昨日もそんなこと言ってただろ」
「一昨日は言ってないだろ。雨だったし、そもそも休みでお前と会ってないし」
「そっか。どっかのライブでも行ったのか?」
「いや、原宿にデート」
普段と同じようなさわやかな顔で、うちわに髪をなびかせながら、長田は平然と“デート”と言った。
リア充だ。
オタクの中にも、長田のような奴らは一定数いて、そいつらは、隠れとかキャラ作りとか陰でいろいろ言われているが、俺はその気持ちが今やっとわかった。
「お前ついに彼女出来たのか?」
「ちげーよ。俺はリナちゃん一筋」
「うわ。ガチ恋勢キモい」
「あの顔で、あの声で、あのダンスは誰でも好きになるって。お前も好きだろ?」
「まあな。お前の考えてる好きとはちょっと違うと思うけど」
「なんだそれ。てかほんと暑いな。そこのリモコン取ってくれ。」
俺は、雑誌の下に挟まっているリモコンを長田に渡す。
「テンキュ」
長田が窓を閉めながら、ボタンを押す。
「ピコーン」スマホの画面が光ると同時に、音が鳴る。
「志田もう駅ついたけど、何か買っていくものあるかだってさ。」
俺はそのまま画面を見せる。
「ガリガリちゃんとコーラだな。」
「やはりか」
ガリガリちゃんとコーラよろしく、そう返信した。
飲み物はコーラ、アイスはガリガリちゃん、カップ焼きそばはUFOとそういう奴なのだ長田は。
窓を閉めて、カーテンも閉めて、クーラーをつけているのに、外からはセミの声が聞こえる。ミンミンだか、クマだか知らないが、少しくらい黙ってみた方が、メスの気を惹けそうな気がする。
今日は、帰りのホームルームが終わると同時に、俺と長田はここ長田の家まで向かった。
その時は、ほんの少しの雲で太陽が隠れていてまだ今よりは涼しかったが、このギンギラギンで全くさりげなくない太陽の下、一度家に帰り、着替えて、ここまでくる志田のことを考えると、いくら駅にコンビニがあるからついでだとはいえ、さすがに悪いような気がする。
「てか志田来る前にちょっと片付けないと、あいつ座る場所ないな。」
長田は、部屋中に散らかっている雑誌やCDを一か所に集め始めた。
「おいおいまたかよ」
確か先週も俺はこんな感じで始まった長田の部屋きれいにしよう作戦に不本意ながら参加させられた。
こいつは一体自分で部屋をきれいにしたりするのだろうか。
俺はその現場を見たことがないし、定期的に自分で部屋を掃除しているなら、俺がこんな頻度で手伝う必要もないように思える。
文句の一つ、いや十個くらいは言いたいところだが、文句を言ったところで部屋は片つかないし、俺が片付けから逃げようにも、この部屋だけがエアコンがついていて一番涼しく、居心地がいいのだから、手伝うよりほかになかった。
その結果、三十五度の猛暑の中、駅から歩いてきた志田よりも、クーラーの効いた涼しい部屋にいた俺たちの方が、汗をかいていた。
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