第27話 スキャンダルの子
「眠そうだなオイ」
「いってぇー」
「おいおいそんなに痛くないだろ。プロレスかよ」
人が眠そうな顔しているからと言って、いきなり頭を叩いておいて、何様だこいつは。
「目には目をだよなッ!」
俺も長田の後頭部をひっぱたく。「パンッ」と子気味良い音がする。文明開化の音ではなく、これは頭の中身が空っぽだからだ。
「「目には目を」では、世界が盲目になるだけだ」って誰か有名な人が言ったらしいぞ」
叩かれたところをボリボリ掻きながら、長田が言う。
それはガンジーだ。そんな偉人を「誰か有名な人」とかいう言葉で片付けたら、インド人に怒られるぞお前。
「それにしても、今日寒くないか。」
こいつには脈絡というものがない。頭が空っぽな証拠だ。
「まぁ、もうすぐ冬だしな。」
寒さの話をした途端、寒く感じてズボンのポケットに手を突っ込む。
「冬ねー。お前は今年もクリぼっちかよ」
「キリシタンでもないくせに、クリスマスを特別視してる奴の方がおかしい。」
「ハハッ。お前ひねくれすぎ。」
「都合のいい時だけ、クリスマスだ除夜の鐘だ初詣だとかやってるお前の方がひねくれてるだろ」
全くもって、正論である。
たった一週間で、キリスト教、仏教、神道と三つの宗教の行事をするなんてどうかしている。三十年くらいたったら、ハロウィンだけでは飽き足らず、断食したりメッカに向かってお祈りしたりしているのかもしれない。筋肉マッチョと女子高生の間では、すでに断食は流行している。
「そういうとこがひねくれてんの」
右手で肩にカバンをひっかけ、左手をポケットに突っ込みながら長田が笑う。
「こっちなのか」
手の甲を頬に着ける俺のジェスチャー。
「ちげーよ」
「じゃあ、そっち系?」
手の甲を頬に着ける俺のジェスチャー。
「ちげーよ」
手の甲を頬に着ける俺のジェスチャー。
「だから、違うって!」
俺の手を掴み、無理やり頬から剥がす。
後ろから俺たちを追い抜いた女子の一団の一人と目が合う。
あーやめてくれ。腐ってると思われるのは不本意。
「おい、やめろ」
「お前がやめろ」
そんなことをしているうちに、俺たちは学校についていた。
「マジであのババア殺す」
「ちょっと晒し者にされたくらいで、殺人予告はやりすぎだろ」
あんパンをかじりながら、悪態をついている長田を見る。
ついさっき終わった四限目の古文の授業。
「この時、なぜ光源氏は藤壺に対して好意を持ったのでしょうか。では、今18分なので、18番の長田くん。」
という感じで指名された長田は、
「フジツボって変な名前だったから!」
と笑いながら答えた。
俺が同じことを言ったならば、女子はともかく男子もほとんど笑わずにスベっただろうが、長田は俺と違ってクラスの人たちとちゃんと交流がある。それに、顔もいい。
おかげで、クラスのほぼ全員が爆笑し、級長の眼鏡で巨乳の佐藤だか斎藤だかそんな感じの名前のやつが、
「まだ授業中よ!静かにして!」
と大声を出すという前時代的な光景(もしかすると、昭和の時代にもそんなのはなくて、勝手に誰かが創って、定番化してしまった創作なのかもしれないが)まで見ることが出来たのだ。
長田としても、受けたからいいやといった感じで席に着いた。
しかし、教室の中でただ一人先生だけがブチギレて(級長も、注意しておきながら、口角が思いっきり上がっているのが、教室の反対側に座っている俺からも見えた。)ああだこうだと小言を言って、さらには
「こんなつまらないことでしか笑いをとれないなんて、桐壺の更衣の影を女性に求め続けた光源氏よりも、無様ですね」
とまで言い放ったのだ。
その結果、長田は今の様な状態に陥ってしまったというわけだ。
「あ、そういや、FYLスキャンダル出たんだって?」
あんパンを食べ終わったからなのか、なぜかいきなり期限が変わった長田が俺の顔を覗く。
「どこで見たんだ?」
昨日の夜の時点では、まだどこにもそんな情報はなかったはずだ。
「2ちゃん」
「そうか。」
「マジなのか?」
「昨日、璃奈が言ってた」
「マジかーマジなのかー」
長田が馬鹿デカい声を出す。
教室の前の方に陣取っていた女子グループが、俺の方を見る。なぜ長田じゃなくて俺なんだ。
「声デカすぎ」
「ああすまん。つい心の声が」
「お前のATフィールドはどうなってんだ?」
「溶け合った。」
「マジか」
「マジだ。」
長田があごの下で手を組んでにやりと笑う。
詳しく知りたい人は、テレビ版とその後に旧劇場版までは見てくれ。マジで面白いから。ただし、カヲル君は出番が30分しかない。これには注意が必要だ。もっと長く彼を見てみたいなら、新劇場版まで見ることをお勧めする。こっちもマジで面白い。
「璃奈ちゃんに彼氏かー。まぁあの可愛さならいない方が不自然だよなー」
と長田がつぶやいた。
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