10 戦闘継続中……の裏側
目を開くと見なれない天井が目に入る。
ここはどこだろうと考えていると近くから声がかかる。
「アッキーおじさん気が付いた?」
目を向けると椅子に座っている女子高生が目に入る。
お見舞い時の光景でよくあるように、ナイフでリンゴを剥いてくれている。
とはいえ、どうして今の状況になっているのか寝起きの鈍った頭では思い浮かんでこない。
「カオちゃん……ここどこ?」
「自衛隊さんの医務室だよ。 ちょっとお医者さん呼んでくるね」
そう言ってカオちゃんは部屋から出ていく。
自衛隊と言っても基地ではなくダンジョン側の駐屯地だろう。
渋々今日ダンジョン探索に行ったと思うけれど……どうなったんだっけ?
なんか首を捻ると頭からズキッとした痛みを感じ顔をしかめる。
頭に手をやると布のような感じだが、ちょっとザラついたような感触が指から伝わってくる。
恐らく包帯がまかれているのだろうと思う。
ボーっとしていると2人分の足音が徐々に近づいてきて扉が開かれる。
「アッキー大丈夫?」
カオちゃんはお医者さんと言っていたけれど、現れたのはタマだった。
恐らく治療とかをタマがしてくれたので誤解したのだろう。
病院で医師不足が嘆かれる昨今、急きょ発生したダンジョン対策で常駐してくれる余剰人材なんていないだろうし。
「頭が痛むかな。 ところで何で俺って医務室で寝てたの?」
俺の言葉にカオちゃんが物凄く反応したが、カオちゃんの事を忘れてないのを伝えるとホッとしたようだ。
タマからも念の為にいくつか質問 (病院さながら名前とかも)を受けたが、基本的な記憶は抜け落ちてはなさそうだ。
今日のダンジョン探索以外についてだけど……
「チャラの話だと、アッキーと一緒に蟻を倒して逃げ帰ったって聞いてるけど」
「チャラ……蟻……逃げ帰る……」
なんか頭にタマの言った単語が引っかかる。
チャラってチャラ男の事だよな。
でもチャラ男がなんで俺と一緒に……
そういえば組まされそうになって逃げて……
あ、なんかちょっとづつ記憶が戻ってきた。
「……アッキーおじさんが蟻に苦戦したの?」
「蟻って言っても外で見るように小さくなくて、人より少し小型くらいらしいの。 それが大量にいたからアッキーでも対処が難しかったみたい」
人見知りのカオちゃんはさっきまでと違って小声でしゃべっている。
普通に蟻って聞くと負けるというのは想像しにくいよね。
「一匹ならともかく数が来るとさすがきつかったよ」
「あれ? ……記憶戻った?」
「なんとなく思い出してきたけど、今ってどうなってる?」
タマがいうには戦闘は継続中らしいけど、そもそもクマと違って単体なら簡単に対処できた敵だ。
こちらも集団で銃も装備している形の応戦で対処はできているらしい。
地下1Fの階段付近にあるバリケードで応戦しているようだ。
「ちょっと気になるのは弾薬の貯蔵よね。 蟻はひっきりなしに来てるから交代で休んでるけど……夜もこの状況ならさすがに貯蔵尽きそう」
「ひっきりなしに撃つような状態は想定してないだろうし……他の所に依頼してないのか?」
「所属の基地には連絡して夜には届くとは思う。 事故とかなければね」
こういうフラグは立てないで欲しいな!
命に係わる事なんだから!と思うけれど、タマはそういうこと知らずに万が一の事を想定しただけなんだろうな。
「それはこっちで対処するとして、アッキーにはまず病院行って欲しいんだけど」
簡単な検査はしたけど、打ったところが頭だから精密検査をして欲しいらしい。
なんでダンジョン行くと自分の足で帰ってこれずに病院ルートなんだろう……
しかも皆じゃなくて俺単体だし。
2度ある事は3度あるとかないよね?
「分かったけど、その前に一つ仕事がある」
「アッキーおじさん! 今は自分の体優先でいいじゃない!」
「…………ご飯食べさせてください」
「「…………」」
カオちゃんの心配する声がかかったので、視線をそらしながら食事を要求する俺。
物凄く気まずかったけど、窓から流れ込んでくる光は赤みがかかっている。
もはやブランチどころの騒ぎでないし、今日は大量のカロリーを消費した。
年下の心配を無下にするよりも食欲が勝ってしまった。
若い頃なら見栄を張ったかもしれないが、これが年を取るという事か……
なんかタマの視線から感じる温度も急激に下がった気がするのは、気のせいだと思いたい。
□◆□◆□◆□◆□◆□◆□
「おまち~~」
そう言って片手に岡持ちを持った月夜が入って来る。
月夜はカオちゃん送った後に食堂で休んでいたらしいので配達してもらった。
何で月夜がいるの?と思ったけれど、そもそも高校生のカオちゃんには足がないので知り合いの誰かが送るしかない。
カオちゃんが俺の負傷を知るには、誰かから聞くしかないけど他の3人もL〇NEで陸自と繋がっているのでそこから流れたんだろうな。
そう思って側に置いてあったスマートフォンでL〇NEを確認すると俺の事の連絡と仕事をバックレる為のユウと月夜の醜い抗争が発生していた。
お前ら、俺ら以外も見える所でそんなことするなよ!!
「食べながらでいいから聞きたいんだけど」
「何?」
「一応チャラの言う事の信憑性の確認ね。 もう片方のというか主にその内の1人の主張と食い違ってて……」
タマはアッキー担いできたのチャラだから、そっちのが正しいと思うけどとも付け加えている。
実際に話を聞いてみると先行PTの主張は、失態と思われる事を茶楽に押しつけていた。
1個1個の事を訂正するのが面倒だったので、俺から見た今回の事を説明する。
「そんなわけで茶楽の主張が正しいと思う」
「やっぱりそうなのね」
「後、茶楽は名前結構気にしてるからチャラとか呼ばないであげて欲しい」
「チャラ……じゃなくて茶楽の事結構気に入ってるのね。 朝は組むの嫌で逃げたって聞いてたけど」
……どうやら陸自側にも俺が逃げたのはバレてるらしい。
でも、過去は過去だ!
色々と知った今の答えは朝の俺とは180度変わっている!
「まあ実際に組んでみて考えが変わった。 これからも一緒に組みたいと思ってる」
タマは驚いてるけど、多分今一緒に戦闘している面々なら茶楽の必要性は気づけるはず。
朝、茶楽が追いかけてくれなかったら生きてないかもしれないし……
「そういえばアッキー、女子高生と知り合いってどんな犯罪的な事してたの?」
丁度口に入れたとんかつを吹き出しそうになる。
何で女子高生と知り合いってだけでこういう扱い受けるんだろうね……
にこやかな声で携帯取り出すタマの笑顔がものすごく怖い!
俺は包帯の巻かれた頭を急速に回転させる必要性に駆られる事態に遭遇してしまう。
なんでこれから検査する対象に負荷をかけてるんだろ。
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