3 サヨナラ無職生活

『……という現状です。 防衛に人手を割かれていてダンジョンの調査迄は行えていません』


点けっぱなしにしていたテレビではまだ国会中継が行われていた。

取りあえず職員さんには席についてもらった。




飲み物を出さないのはあまりよろしくないので、コーヒーを淹れる事にした。

職員さんからはカフェオレにして欲しいと言われたので対応する事にする。


精神的に疲れたので甘い物が欲しいのだろう。


作っている間暇になると思ったので、リモコンを渡して好きな番組にしてもいいと伝えた。


コーヒーを作るといっても完全な別室ではなく、併設されているので話そうと思えば話せる。

しかし、お互いにちょっと気持ちを落ち着かせる時間が欲しい。




『それでは、この一週間何も進展がないということですか!?』


コーヒー豆を挽いているといると、そんな声が聞こえてきた。

ダンジョン関係だからかチャンネルは変えていないようだ。


いつものように誰かがヤジを入れているのは、いつもの国会の様相だ。

しかし、いつもと変わらないなら、なぜここに職員さんがいるのか……


むしろ、今から国会に乗り込んで俺の疑問を解決して欲しい。




『まずは周囲に被害を出さない体制を作る事が先決と考えております』


全くだ。

むしろヤジよりも、自衛隊への賞賛ではないだろうか。

この一週間ずっとキャンプを張って被害を出していないのだから。


テレビから聞こえてくる声に心の中でツッコミをしていると、コーヒーが出来上がった。

別で温めておいた牛乳と砂糖を入れてリビングの方に持って行く。


コーヒーを淹れたおかげで気分転換でき、少し落ち着いてきた。



テーブルにコーヒーが入ったコップを置くと俺も席につく。

席と言ってもコタツ用テーブルなので、座布団に座る。


日本人にコタツは必須なので、別に食事用の机を揃える必要はない。



「和田さんって~、一人暮らしですよね~?」


一口カフェオレを飲むと、職員さんが唐突にそんな事を言ってくる。

肯定すると、歯に物が挟まったような顔する。




「いい年して結婚もせずってことですか?」

「いえ~、そういうわけではないんですけど~。 なんか~、部屋の感じが~男性の一人暮らしって感じに~思えないんですよ~」


なるほど、そういう事か。

確かに一人暮らしだが、殺風景だからといじる人物がたまに訪れる。


俺は部屋の内装に拘りがないので、その人物が思うようにさせている。


住みついている俺には分からないが、新しく来た人には俺と部屋の印象がチグハグに感じるものなのか。

訪れる顔ぶれは同じなので、気づかなかった。




細かい事を言う必要もないので、適当に回答したが納得していないようだ。

そんなに他人の家の内装気になるものか?


……いや、[男の一人暮らし=ゴミ屋敷]の構図が出来上がっていたのかもしれない。




お互いに飲み物を半分ほど胃の中に収めた頃、職員さんが姿勢を正す。

そろそろ本題に入るようだ。



「それでは~、先ほどの話の~続きをしたいと思います~」

俺も頷いて背筋を正す。


「先ほどの流れでは覚えて頂いていないと思いますので、改めて~。 探索サポート課の西原茜です~」

そう言って名刺を出してくる。

マジで名刺にも探索サポート課って書いてあるよ。


名刺は作ろうと思えば簡単に作れるので、玄関で出されても信じなかっただろうけど。

職員さん改め西原さんもそれが分かっていたから、さっきはIDカードの方を出してきたのだろう。


ちなみに、西原さんの言う通り名前は全く覚えていなかった……



「課の名前から予想されてると思いますが~、今日はダンジョン関係でお邪魔させてもらっています~」

「そうですよね……」

未だに本当かよという気持ちだけは消えないけど。

大昔の人がテレビを初めてみた時も同じ気持ちだったのだろうか。




『本日は、始動している施策について連絡を致します』


西原さんはテレビに視線を流す。

「ちょうどいいので、テレビを見てからにしましょうか」


何が丁度良いのか分からないが、俺もテレビに視線を移す。






『ダンジョンについて遅々として対策が進まないのは人手不足です。現時点では自衛隊が防衛を担っていますが対国外・対災害への対処を考えると恒常的対策としてはよろしくないと考えています。

局地的なモノであれば別基地からの派遣という事が考えられましたが、各都道府県に一つづつダンジョンが発生している事が確認されている現状では、難しいと考えています。』


ダンジョンにかかりきりになれば、緊急時の対応が取れなくなるのは国民の不安につながってしまうという事だろう。

今、自衛隊がキャンプ張ってまで対処してくれているのは、ダンジョンが現在の緊急時対応だからだ。




『外国も似たような事情の為、現時点は挑発行為を含めて行われていません。しかし、いつまでも現在の状態が続くとは限らず、国民の安全の為には早期に自衛隊を以前の状態に戻す必要があると考えています。』


国は何も考えていないと言われるが、現在の話を聞いているとそんな事は思えない。




『そこで、ダンジョン発生している市の役所に対して、[探索サポート課]の設置を行いまいした。』


うん? ちょっと待て……話がマズイ方向に行ってないか?


テレビでもざわついているが、それはなんだその課は?といった感じだ。

当事者じゃないなら俺もそう思うが、当事者はきっと冷や汗かいているよ。


オレノヨウニネ




『あくまで市役所の職員の為、サポートに徹してもらいます。探索及び対処を行ってもらう人材の選定に関しては難航しました。希望者が望ましいですが、事は拙速を尊ぶ事態です。待ってはいられないという判断になりました。』


そこは待って!!


普段はもっと遅いじゃん!

なんで、今回に対してはそんなに先行してんの!!


きっと、部外者だったら褒めてたんだろう。

しかし、当事者である俺は突っ込まずにいられない。




『今回の対象者はダンジョン探索をするという事で、【冒険者】と呼称することにしました。対象者の選定ですが、緊急招集しても問題ない層というのが必須事項です。

苦慮した結果、国民年金の未払い又は免除を受けている国民としました。但し学生という肩書があったり、主婦や主夫といった家庭を担っている国民は除外します。

つまり、無職かつ国民の義務を行えていない方に担っていただこうとかんがえています』



『待って下さい! 様々な事情で一時的に無職になって支払い能力が無い方もいます。 そのような国民を危険な場所に送り込むのはいかがなモノでしょうか!?』


初老の女性が意見を述べてくれた。

政治には疎いので、女性議員かどこかの団体か分からないが反対をしてくれている!


頑張れ!!

今度選挙に出てたら一票入れるぞ!!




『国庫に余裕があるわけではないのです。 つまり、あなたの家族含めて年金は返上して他の国民に分配して良いということでしょうか? 

それとも、あなたの親族を動員して対象となった国民の代わりに行ってくれるということでしょうか?』


返しを予想していたのか、よどみなく回答がなされる


適切な返答ができれば無職の票が集まるぞ!

ガンバレ!!




『……と思いましたが、国の為にもやってもらわらなければならないですね。 非常に心が痛みますが。』


ババア! 裏切りやがった!!

自分のみに降りかかると分かると、手のひら返しやがった!!

これだから……




『本日対象の方の家に職員を派遣して動員を促しています。 罰則付きですので、拒否はお勧めしません。 なお、本日対象となっている方は明日から調査に入りますので、無職の方はそのつもりでお願いいたします。』


スピーディー過ぎんだろ!




「と~、いうわけです~。 私が~来た意味~分かりました~?」


身元確認はできているので、信じる他なかった……

罰則付きなのでこの話は受けるほかないのか。


いや、まてよ……


「無職が対象ですよね? それなら、俺は対象外だと思いますけど」

「え~? 調査では~、和田さんって~何年も無職のはずですけど~?」

「俺は無職ではなくて、自宅けい……」

「黙れ! ニート!!」


カシャン

ソーサーにカップを叩きつける音とともに、大音量の言葉が発せられる。


一応いちゃもんつけてみたが、駄目だった……

というか、間延びしたしゃべり方すら消えて怖いんだけど。




そんなわけで、明日から冒険者です!


………………サヨナラ無職生活

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