7 新たなる魔法
「てめぇら、もう少しこっちに寄ってこれねぇのか!?」
「うるさいぞチャラ! そっちと違ってベアキラーもいない俺たちは完全な素人集団だ! 自分の身を守るので精一杯だ!!」
こっちだけでどうにかできないと判断してか、茶楽が先行PTに喝を入れようとしたが平和ボケとも言えるような言葉が返ってくる。
ちなみにベアキラーがどっちだの事だろうと、素人なのだが……
「本当にアイツらは生きて帰りたいのかな……」
「現実感ねぇんだろ。 命の危機を感じたことないから逆に脳が認識してねぇわ…… やる気が削がれる気は分かるけどよ」
「この状況見て放置もできないよな」
道を作っているこちら側はどこかやるせ無さが出てくる。
多分先行PTの感覚は遭難して救助を待つ一般人なんだろうな。
奥に入り込むに従って蟻と面している部分が増えてくるので視力だけの警戒では対応しきれないので、気配や勘で何とかする面が増えてくる。
実力者も数に勝てないという話を読んだことがあったが、この状況が正に当てはまる。
チート系ならこういう状況でも余裕だと思うので、俺と無双は無縁なんだろうなと突き付けられる。
「明彦」
「……なんだ?」
「寝覚めはワリィが見捨てる合図を決めておくぞ」
苦々しい口調で茶楽は告げる。
お互い未だに攻撃は貰ってないが、休む間もなく攻撃もくるし進んでいかないといけない。
既に茶楽は肩で息をし、若干構えが崩れ始めている。
さっきも名前で反応しなかったから、細かい事に構ってられない程にヤバイ状況なのだろう。
ここまでの付き合いで、名前と風貌の印象に反して茶楽の中身は真面目なんだよな。
「無理と思うまでは何とかしてやりてぇが、状況考えるとソウイウ事も考えねぇといけねぇ状況だ」
個人的には部屋に入った状況から見捨てても仕方ない気がするので、俺も茶楽の意見には同意だ。
合図として茶楽は自分のナイフを打ち鳴らすで、俺は【マジックボルト】を真上に放つこととなった。
茶楽の状況を考えるともう撤退の判断をすべきと思うが、限界までは何とかしたいと考えている茶楽の気持ちを考えると俺もギリギリまでは対応したいと思う。
「テメェら!! 誰かが何とかしてくれるなんて幻想もってんじゃねぇぞ!? 死にたくなけりゃ頭切り替えてなんとかしやがれ!! 後悔する時はオセェんだ」
恐らく茶楽なりの最終忠告だろう。
その気持ちが向こうに伝わったかはともかく俺たちの限界も近い。
俺はリソースを体よりも頭に振り分ける。
手を考えなければ行きつくところは撤退しかない。
俺の手札にあるのはもう魔法しかない。
しかし、同じ【マジックボルト】でも俺の考えである程度の自由さがある事は分かっている。
そこから魔法に重要なのはイメージなのではないかと俺は考えている。
今欲しいのは【マジックボルト】に不足しているパワーだ。
【マジックボルト】というのはようするに礫であり、その礫が高威力を発揮するイメージは俺には無理だ。
なら、発想を変える。
礫のように小さい物で高威力なのは?
そう思った時に頭に浮かんだのはリボルバー式の銃だ。
当然扱った事はないが、殺傷性がありイメージがしやすい。
頭の中のイメージを強く持ちながら、【マジックボルト】の要領で体内の魔力を手の方に集めようとしてするが、同じような扱いでイメージ通りの形になるのか不安になる。
そう思っていると急に頭に文字が流れ込んでくる。
【マジックバレット】
理屈は分からないが、恐らく新しい魔法を習得 (?)したのだろう。
【マジックバレット】を使おうと考えると【マジックボルト】の時と同様に使い方が頭に浮かんでくる。
手のひらに出す前に弾丸のような形を魔力でとって、その中に魔力を込める。
茶楽は俺が何かしているのを感じて、さっきまでよりも広めに蟻の対応をしてくれている。
「スマン」
「いいから、明彦は自分の事に集中してろ! もうそこにしか芽がネェんだからよ」
茶楽の言葉に甘えて俺は再度魔法に集中していく。
弾は映像などで見るリボルバーのイメージで6発。
できた順に手から生み出し頭上に漂わせる。
イメージは銃なので撃つ時のイメージは引き金を引く事だ。
俺は親指と人差し指で銃の形を作る。
弾はリボルバーなら一発毎だが、そもそも手に装填されているのではなく頭上に漂っている。
俺の指を無線の親機で弾を子機のイメージで一斉に発射する事を考える。
【マジックボルト】は礫を操作できたが、【マジックバレット】は銃のイメージなので弾道を曲げるなんてことはできないだろう。
だからそれぞれの弾の射線に人が入らない事が最大の注意事項だ!
6発の弾それぞれの目的地を先行PTのいる付近の壁にばらして設定する。
……アイツら茶楽から言われても動いてねぇ。
弾道設定の為に視界に入ってしまい、茶楽の気持ちを無視され弾の目的地を修正しそうになるが、どうにか持ち堪える。
「茶楽、絶対に動くなよ!!」
そう言うと茶楽は重心を落として、その場での戦闘に切り替える。
本当にこの反応の違いに涙が出てくる。
「【マジックバレット】!!」
そう叫びながら俺は人差し指を引く。
指を引くと同時に俺の周囲にあった弾は全弾発射され瞬きするような時間で目的の壁にぶち当たる。
特に大きな音を上げたわけでもないが、跳弾した感じもないので壁に穴でもあけたのだろうか。
弾の通った道にいた蟻は体に穴が空いていて、ゆっくりと倒れていく。
何かを予見していた茶楽はともかく、先行PTと蟻の群れは何が起こったのか分からず場が固まる。
茶楽は動けるだろうが、逆に今の状況で動いてしまうと再度戦闘が始まると判断しているのだろう、警戒をするに留めている雰囲気が伝わってくる。
【マジックバレット】は直線上という限定はあるモノの複数の敵を倒すことができる魔法となっているようだ。
これなら上手く使えば今の状況をなんとかできると、気持ちが高ぶりかけたが同時に体がダルくなってきたのを感じ始める。
何が起こったのか分からいが、魔法を使った影響としか考えられない。
ちょうど場が固まっている状況なので、慌てて冒険者カードを取り出して俺は自分のステータスを確認する。
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