8 撤退戦開始

「テメェら! 何呆けてやがる!? 魔法でできた道をこっちに走ってくんだよ!」


【マジックバレット】でできた道を走ってくる様子もなかった先行PTに対して、茶楽は激を飛ばす。



俺はそんな事よりも自分の状況把握の方が先決だったので、ステータスに目を走らせると魔法の欄には

【マジックボルト】【マジックバレット】

と想像通り【マジックバレット】が追加されている。


体の異常に対してバッドステータス的な何かが付いたのかとそのような項目を探してみたが、バッドステータスのような表示は見当たらない。

実際にそのような状況を確認してないので、バッドステータスの表示が無いだけの可能性は否定できないけれど。



「周りの警戒なんかしてんじゃネェ! 囲まれて何もできなかった奴らが何の対処ができんだよ!? 一目散に走ってこい雑魚ども!」


先行PTへの対処は茶楽に任せてもう少しの間意識を自分に集中させる。


新魔法発動の為、集中していた間に気づかないうちに相当なダメージを受けた可能性を考えてHPを見て見るが軽微な減りしかしていない。

自動車事故に遭って緊張の為に痛みを感じていないというパターンはなさそうだ。


ただし、HPの下にあるMPは激しい減りをしていた。

この部屋に突入前2/3MP1/3と激しく減っている。

高威力だが【マジックバレット】の消費量は【マジックボルト】の比じゃないな……


現状から推察すると、MPが今の体のダルさに繋がっていると考えられる。

この状況からHPだけでなく、MP0事が考えられる。



「明彦、さっきの魔法は後何回撃てんだ?」


茶楽が声をかけてきたので意識を目の前の事に戻すと、蟻も動きを再開していて先行PTがネトゲで言うトレイン状態になっている。

あれをまとも相手にするのは難しいので魔法を蹴散らしながらの撤退をしようとしているのだろう。


「本音的にはもう撃ちたくないが、後1回だ」

「なんで撃ちたくねぇんだ?」

「【マジックバレット】を撃った後に体への異常が出てる。 MP消費量から考えると次撃つとMPがほぼ0になる。 そうなると戦闘だけでなく移動に関して弊害が出る可能性も捨てれない」

「……マジかよ」


かなり【マジックバレット】をあてにしていたのだろう、声色からかなり焦っているのが伝わってくる。

俺もこの状況なら【マジックバレット】を主軸に考えるから気持ちは分かる。



だが、トレイン状況で追われているのに一回しか使えないのでは魔法を逃れた蟻に群がられて数の暴力に見舞われる。


会話をしている間にも先行PTは近づいてきている。

茶楽に無理を伝えるだけでなくて何か考えないと……


集中して考えたいところだが俺たちの周囲にいる蟻も活動再開しているので、体での対応も必要になっている。

焦りで頭が回らず、それがさらなる焦りになる悪循環にいら立つが、それでいい案が出てくるわけじゃない。


何かいい案はないか?


ただでさえ切れるカードは全部切っている状況で、【マジックバレット】で対処が難しそうだと考えると何も浮かんでこない……



「さっきの魔法を全弾じゃなくて、一発づつ撃てねぇか?」


茶楽からの提案を考える。

6発を一度の魔法と考えるなら、疑似的に6回魔法を使う事が可能かもしれない。


「……可能性はあるとしか言えない」

「そんでいい! 蟻どもはさっき怯んだことから恐怖はあんだろ」

「俺もそう思う。 固まっている間に少しづつ撤退していくのがいい。 問題は撃つタイミングだ」

「俺が壁になって蟻どもの動きを固めっから、明彦は俺の後ろからぶちこめ」

「茶楽が危険だ」

「生き残るにはそれが一番安全だろ。 もし明彦が動けなくなったら担いで逃げっから安心しろ!」


頼もしい言葉を発生する茶楽の案で行くことにする。

ここまでの行動から最悪は茶楽に俺の体を任せても大丈夫だろう。


話している間に先行PTは眼前に迫っているので、真ん中付近の蟻を掃除して先行PTが速度を落とさずに逃げる道を作る。

【マジックバレット】の弾丸を作る事も並行して始める。


撃つ部分だけは集中する必要があるが、それまでなら並行作業でも可能だろう。

というかこの状況では並行で作らないと、茶楽の負担を上げるだけになる。



「テメェラは先に上に行って陸自の連中呼んでこい!」

「できれば誰か一人は駐屯地の方に行って、状況報告して欲しい」


茶楽と俺は先行PTに行って欲しい事を伝えながらトレインへ割り込みを仕掛ける。

今の割り込みが相手の隊列を乱して乱戦になるので一番危険なタイミングだ。

実際に俺と茶楽は囲まれ全方位からの蟻の攻撃にさらされることになる。


数匹引き取れずに先行PTを追跡しているかもしれないが、それくらいは仕方ないだろう。



前方の蟻は一旦無視して後方の蟻を俺たちは処理をする。

茶楽はナイフなので素手で殴っている俺は危険だったりするのだが、茶楽は俺を意識して攻撃のポイントを選んでいるので斬られることはない。


茶楽は前方の回避を気配等で対応した上で俺たちの撤退方向にいる蟻を攻撃していて、俺は弾丸構築をしながら腕を振るっている。

お互いに余裕があるわけでもないので会話すらせずに今の状況を維持できるのは茶楽とでしかなしえない。


会話の余裕すらもないので、戦闘行動以外の事は意識の外に追いやっている。

PTが聞こえた気がしたが、そんな事は後で思い出せばいい。



弾丸をようやく6発作成できると後方殲滅も後少しの状況になる。


「茶楽後ろはもういい! 残りは俺がやるから前方の相手を頼む!」


回避ができているとはいえ、見えない所の回避の精神負担はかなりの物になる。

撤退で何度も精神をすり減らす状況になるので、残りは俺が殲滅しながら6発目の弾丸も作成する。



後方の殲滅が完了するとまずは一発の弾道を設定する。

全弾発射しない為にリボルバーの弾の装填動作を親指でし、意識を一発のみ撃つことを無意識下にも刷り込ませる。


「茶楽準備はできた! お前が体を沈ませたら撃つ!」


そう言うと茶楽は体を沈ませたので、さっきと同様に俺は人差し指で頭の中の引き金を引こうとする


頼む一発だけ発射されてくれ!

力が入りすぎないように魔法名を叫ぶのは行わないようにする。


数瞬という短い時間の中での考えの後

再度心の中で祈りを捧げながら、人差し指で引き金を引ききる。


引き金を引くと同時に、茶楽の上体があった場所を【マジックバレット】の一発が走り抜ける。


よし、上手くいった!


さらにのしかかる体の怠さに耐えながらそう考えると、踵を返して部屋の入口に駆ける。


弾の通った道にいた蟻は体のどこかに穴を空けて倒れ始め、周囲の蟻は怯んだように行動を停止していた。

視界で確認しながら下がるよりも少しの距離を一気に下がってこまめに確認する方がいいと判断した為の行動だ。




少し頭痛もでてきたか?

俺は走りながら感じる体の不安を胸に抱きながら、茶楽との二人だけの撤退戦を開始する。

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