9 撤退戦2

一発目の【マジックバレット】を撃った俺は次のポイントを目指して走る。

マシンガン等であればけん制しながら下がっていくのが定石だろうが、俺の魔法には弾数の余裕が全くない。


なので、早く次のポイントについて準備をした方が安全になる。

体調を考えると後になればなるほど余裕がなくなると思うし。



2つ目のポイントは先行PTがいた部屋の入口に繋がる通路である。

少し奥に入り茶楽も通路内で待ち受けられるスペースを作る。


通路に入ってしまえば茶楽は受ける攻撃の範囲が減るので、少しは楽になるはずだ。

奥まで引き摺っていければ一本道なので多くの蟻を魔法に巻き込めるが、追い付かれるリスクも増える。


茶楽は蟻を引き連れて走ってきているがやっぱり蟻のが早いな。

そう考えながら、目の前で再度銃を持つ形を手で作り親指でコックを引く動作をし次弾を頭で装填する。


「一度攻撃を防いだら、すぐに体を伏せろ!」


茶楽は俺の言葉に答える事はしなかったが、通路に足を入れると体を反転する。

茶楽が止まったのをチャンスと思ったのか先頭の蟻が鎌を振り回してくるが単方向からの攻撃だ。

茶楽は難なく攻撃をいなして、先ほどの俺の要望通りに体を沈ませる。


攻撃態勢を崩していない相手が目の前にいるのに自分の体を無防備に晒すのは恐怖が強く出るものだ。

それをいとも簡単に行えるのは俺への信頼の証だろう。


俺は茶楽の気持ちを感じながら、2発目のトリガーを人差し指で引く。

先ほどと同様に頭上にある1発の弾丸のみ蟻達に向かって飛んでいく。


茶楽に当たっていない事だけ確認した俺は、間を置かず体を反転させて通路の出口へと急ぐ。

陸自と接触する前に残弾が尽きてしまえばもう手が無いのだから、当初考えたポイント通りに撃つ必要がある。


今の段階で追いつかれても次の弾を打てばいいだけだが、それでは援軍の前に魔法の残弾がなくなり俺たちがやられる!


そう考えながら走り始めたところで、先ほどよりも頭が重くなってくる。

冒険者カードを確認する暇がないが、恐らく魔法を発射するタイミングでMPを消費されているのだろう。



残り4発の弾を打つポイントは想定しているが、最後の弾を撃つ迄俺の体がもつのかという不安が出てきた。


今の頭痛状態だけならともかく眩暈が出てくれば狙いが定まらず茶楽に当ててしまう!


茶楽に伝えるべきかと思ったが、今は少しでも体力を温存して一発でも多く撃つ方が良く、茶楽に伝えたところで対処ができるわけでもないので余計な不安を煽らない方がいいと判断する。


行きとは打って変わって、粗い呼吸と足音を通路内に響かせながら分かれ道の部屋を目指す。




□◆□◆□◆□◆□◆□◆□




長めの通路を抜けて分かれ道のあった部屋に足を踏み入れると直ぐに体を反転させて次弾の用意をする。


直ぐに茶楽も俺に追いつき通路の出口に陣取り蟻を迎え撃とうとしている。


「茶楽! ここは少し時間をかけて少し多くの蟻を巻き込んだ方がいい!」


最初の戦いから壁をよじ登る事はできないと考えているので、狭い一本道なら時間をかけてもこちらの不利にはならないと考えている。


援軍が見込める今は限界まで待つのも一つの手だが、その際にはへの負担が問題になるのでその判断は茶楽に任せる。


「茶楽が魔法を撃つタイミングを判断して体を沈ませろ!」


俺は3発目の弾丸を親指で装填しようとすると、茶楽も軽く頷く動作をし直ぐに蟻の攻撃をいなし始める。




□◆□◆□◆□◆□◆□◆□




暫く茶楽は粘っているが、陸自の応援はまだ来ていない。

茶楽も俺の狙いを気づいてなるべく時間を稼ごうとしていると思う。

しかし、蟻が満員電車のように先頭が後ろからの圧力で押し出されそうになってきている。


流石にこれ以上は危険だ。

魔法で一気に蟻を削るつもりが、失敗して部屋に蟻が押し寄せたら意味がない。


「茶楽もういい! これ以上は押し負けかねない! 次のタイミングで魔法を撃つぞ!」


俺が声をかけると軽く流す程度ではまずいと思ったのか、茶楽は両手のナイフで蟻の鎌を押し返して体を伏せる。


それを見た俺は直ぐに【マジックバレット】を放ち次のポイントへ急ぐ。

通路に入って来ていた蟻は掃除できたと思うが、分かれ道のある部屋の入口側の通路までいかないといけない。

確認をしている余裕はない。


走り出そうとすると頭痛が酷くなってきて思わず目を閉じてしまうようなレベルになってきている上に吐き気も出てきている。


さっき茶楽がかなり稼いでくれた時間をあてにして、そろそろ援軍と接触できないとまずいかもしれない……


俺の【マジックバレット】の残弾は3。

ここまでの状況は想定通りだが、最後まで撃ち切れるのかという疑惑が現実のものとなって来ていた。




□◆□◆□◆□◆□◆□◆□




さきほどの通路で蟻を一気に潰せたのが功を奏したのか、分かれ道の入り口側の通路で振り返ると蟻はまだ近くまで迫ってきていない。


この通路の出口まで引っ張ろうかと思い、足を後ろに出すと何かに足を引っかけ転んでしまう。

今までの経験から体が勝手に受け身をとったが、凸凹していたようで頭も打ってしまう。


「明彦!? だいじょ……ワリィが自分で対処してくれ!」


茶楽は手助けしようとしてくれたのだろうが、蟻と距離があるとはいえ助け起こしたら危険だと判断して防衛行動に切り替えたのだろう。


正しい判断だと思いながら、俺は自分の体を起こしながら床を確認して俺は愕然とする。


(ここは蟻と戦闘をした通路だから、死骸がそのまま放置されているのを失念していた!)


逃げる対処で精一杯で文字通り足元をすくわれてしまった……



茶楽が無理して作ってくれた時間を無駄にした悔しさを、強く奥歯を噛み締める事で飲み込み魔法を撃つ準備に入る。


頭を打ったが長い間頭痛が続いている状況で怪我をしたのか感覚から判断できないが、深い怪我の場合は気づいてしまった故に痛みを認識してしまう危険性もあるので放置する。



「茶楽!」


名前を呼ぶと分かっていると言わんばかりに、すぐさま体を沈ませるので俺も何も言わずに魔法を放つ。


今までと同様に振り返ろうとすると、目の前の景色が正しく認識できなくてなってくる。

(ヤバ……)


足場が悪い場所にいた事も災いして、俺は無様に倒れてしまう。

さっきは受け身を取れたが、今は視界がまともに認識できない影響か無意識の受け身も行われなかった。



「明彦!? チッ……」


連続で倒れる俺をさすがにマズイと思ったのか、茶楽は舌打ちをすると事前に言っていたように俺を片手で抱えて走り出す。


「茶楽……あしもと……きをつけろ」


分かっているかもしれないが、念のために注意をするくらいしか俺にはできなかった。


俺を抱えている事もあるが、この状況では次の部屋で蟻の群れに捕まってしまう……


ヤバい……思考もまとまもにできない……




□◆□◆□◆□◆□◆□◆□




「全力で走ってこい!!」

「オセェンだよ!!」


通路を抜けて掛けられた言葉に茶楽が悪態を吐く。


「散開!! その後味方に当たらないように射撃開始!!」


誰の声かは分からないが、タイミング的には陸自の誰かだろう。

なんとか助かった……




そう思うと緊張が解けたのか、俺の意識は闇に沈んでいく。

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