10 再診断と引き継ぎ
「そこをなんとか!!」
冒険者カードを取りに行った翌週、俺は健康状態を確認の為に病院に来ている。
冒険者カードも手に入れたので、もしかしたら俗に言う無双状態になるのではないかと以前と心を入れ替えてダンジョンへ行くために、診断結果に異を唱えている。
先日と同じ中年で痩身の男性である。
洒落た眼鏡をかけ理知的な雰囲気だが、高圧的な感じはなくこちらに合わせて話をしてくれるので看護師にもてたりするのだろう。
「そうは言ってもねぇ~……」
「患者の為を思うなら当然の判断ではないでしょうか!?」
「気持ちは分からないではないが……」
しかし、そんな俺の思いと別に首を縦に振ってくれない医師。
どう俺を説得したものか考えているようだ。
以前とは違う俺の心を入れ替えた前向きな気持ちをどうにかして受けれても
「さすがに私も罪状貰いたくないですので、症状を偽って報告書を作成する事はできません。 再度ダンジョン探索頑張ってください」
らえなかった。
はい、本当はダンジョン行かないように俺が愚図っていました。
「人として、死地に患者を送るのは間違っていると思いませんか?」
「これはなるべく言わないようにしようと思っていましたが……、もし愚図った場合には連絡するようにあなたの友人の番号貰っています」
ユウ……先に手を打っていたな……
お前は自分たちの事でゴタついてるんだから俺の事は気にしないでいいんだよ!
「電話しましょうか?」
理知的な医師の顔の裏に悪魔のような姿が見えてきた。
「ただいま」
「「アッキー、おかえり~」」
我が家へ帰ったあいさつをすると、中から返事が来る。
会社に行っている面子が帰ってきたわけではなく、最終的にフリーランスになる2人をシステム作成として先立ってきてもらっているからだ。
この2人だけは無理やり話を通したらしいが、ユキは無理だったので結構大変な状況だ。
まあ、昔はユキと一緒に作ってたし、この2人も最古参のメンバーなので途中から一緒に作っていた。
知らない仲ではないのでやりやすくて助かっている。
当然ながら現在は俺よりも何倍もシステム作成に詳しくなっているので俺がついていけてない部分も多々あるけど……。
今は基本設計までは終わったので、画面だけ遷移する形を作っている。
俺だけはなぜか説明資料作成だけど、明日からはダンジョンに戻るからその引き継ぎも2人にしないといけない。
「にしても、2人とももうちょっと手を抜いていいんだぞ。 まだ有給期間だろ?」
2人ともまだ形だけは在籍で有休消化となっている。
聞いた感じでは一ヵ月ちょっとあるらしいので、あんまり積極的に使ってなかったらしいので、せっかくできた休みに働いてもらってるの気が引ける。
というか法的な部分も気になる……
「そっちの事考えるなら早めに作らなきゃっしょ」
「そそ。まあユキの助けが全然できなかった申し訳なさもあるんだけど……」
社内の作業という部分では大いに力になっていたけれども、副社長の花村さんに睨まれたせいで社内の発言力が無かった。
なんとかしようとしてもできなかったのだと思う。
ちなみに、その原因になったのは俺。
会社立ち上げ時に俺が入社できなかったことに猛抗議したのが始まりとなっている。
俺たちの事情に巻き込んでしまい申し訳なくもあり、俺の為に怒ってくれたありがたさもある2人だ。
そう言う事情で実力はあっても社内で役職を上げられなかったので、報酬の支払いは現在の給料より増額を約束しているらしい。
ちなみにその話聞いた時に俺の給料の話もしてみたら「ぇ? 明彦ってお金何かに使うの?」とのお言葉をいただいた。
一般的には騒動物の発言だが、食住は払ってもらってるし服もジャージを状況別に何着も用意しているので困らない。
たまに何か足らない物があったら誰かから差し入れが来る環境。
使うとこありませんでした。
……この前の減給の話ってなんだったんだろうね。
ついでにダンジョン探索等で俺に収入が発生する場合は全て新会社の運転資金になるようにタイチョーと既に話がついているらしい。
……アレ? オレソノハナシキイテナイ
「あ、事前の予想通り俺明日からダンジョン再開だから資料作成もお願い」
「ん~、分かった」
「何か気になることある場合、ユキに聞いた方がいい? それとも陸自の方に入れる?」
「急じゃなければ、俺へのメールにしといて。 急だったらユキで……なるべくならやめてあげてほしいけど」
「確かに、今は専念させてあげたいよね……」
現在ユキは無茶振りされてるらしい。
社外から会社の先行きについてモノ申してきたらしい。
言ってることは正論だけど、花村さんとの付き合い優先して問題点を放置していた連中に今更何か言われたくない。
結果ユキはデスマーチ状態になったが、何とかこの2人だけは逃がしてくれた。
ちなみに2人は申し訳なさがあるようで、毎日差し入れや必要な物の買い出しの為に会社に顔出しているらしい。
ユキのとこじゃなくてもユウと月夜も黒字経営で続く提案を作成しているらしい。
唯一の黒字部署がゴッソリ抜けるので相当四苦八苦しているらしい。
そんな中で、俺へのサポート (偽装防止対策)は忘れずにやるという親友の友情には涙が出る。
「3人とも間違いなく死んでるから、ヤバそうだったら俺の方で調整するから言ってよ」
このシステム関係での問題であればタイチョーも配慮してくれるはずだ。
なんせ役所も陸自も現場は激押ししてるんだから。
その事を象徴するように隣の部屋には赤い牛がトレードマークの飲み物とカップラーメンが大量に置かれている。
地元の役所と現場の差し入れである。
それぞれ160サイズのダンボール5箱分ある。
終わるまで寝るな宣言にしか思えなかったので、貰った時に確認した。
アッキー: 大量の贈り物が来たんだけどあれ何? デスマーチしろって事?
タイチョー: タツのイチオシ
タツ: ぇ? システム開発のお供じゃないの?
アッキー: そのソースってデスマーチ物のアニメやラノベじゃないよな!?
タツ: どうだったかな……、異世界転生系のアニメの一幕だったような
アッキー: それ過労死で転生してるだろ!?
と送り主もデスマーチ希望ではなかったので無理をしすぎない程度にやってもらってる。
ユキのとこだと直ぐになくなる量なので、ついでに会社へは可能かL〇NEで聞いたらトラック1台分の物資が届いたので社内が騒然としたらしい。
……一般的な程度を考えて欲しい。
予期しない事に配達は陸自の隊員がやったので、退職話が出て以降行われていた社内でのユキ達への嫌がらせはその日を境に消えたらしい。
まあ、丁度陰険な事をやっている社員がリアルにシバかれたらしいからな……
ひとしきり仕事も終わったら、俺の家で簡単な壮行会をやってくれた。
旧来の知人のありがたさが身に沁みて目の前が歪んでくる。
そういえば、あの親友たちは俺の為の会って結局してくれなかった気がする……
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