4 ダンジョン地下2階
木崎は以前に一度突入したことがあるが、俺は初めてのダンジョン2階となる。
ベアキラーだとか、右手が聖剣 (拳?)だとか言われているがこの地区では一番遅いダンジョン突入となった。
通路の出口付近でほんのりと光があった事には俺は驚く。
通路出口付近で警戒モードになった木崎に続いて俺は地下2階に足を踏み入れると、手元のライトが不要になったのでポーチにしまい両手をフリーにする。
シャラン……ザッザッ……シャララン
周囲に目を凝らすとダンジョン1階と同様に岩壁で囲われているが、ところどころに発行する鉱石がある。
その鉱石のおかげで明るさが保たれているようだ。
手を鉱石に近づけて見るが明るさは合っても、温かみが感じられることはなくどういう原理で明るさが保たれているのか不思議だ。
茶楽の話では前回の地下2階は森となっておりクマが出現したらしい。
洞窟型ダンジョンで森って……とは思ったもののその辺りは今更だ。
光源は正確には分からないらしいが、頭上から木漏れ日のように光が漏れていてライト不要だったらしい。
地下1階と地下2階で環境隔離が激しすぎる。
「明彦!!」
念のために光る鉱石を採取しようと思ったけれど、ガッチリ埋め込まれていたので素手では無理だ。
ツルハシの持ち合わせは無いので、付近の石を少しポーチに入れる。
こういう道具も地下1階に置いてもらおうかと考える。
解明には現地の研究が大切だ。
地下1階までと異なり付近を警戒はしつつも茶楽に話を聞きながら歩を進める。
シャラン……ザッ
「ベアキラー! いい加減にしろ!!」
ザッ……シャララン
「だから、その名前で呼ぶなって言っただろ!!」
「だったら無視すんなよ! 戦闘中だぞ」
「その小道なら1対1になるから良いかと思って、2階に入ってからの事を思い起こしていた」
「舐めてんのか!? チッ!」
キン!
回想から少し歩いた所に小道があったので「武器」を装備している茶楽に先行して貰ったら戦闘が発生した。
さっきから茶楽が攻撃を受け流したり、弾いたりする音やステップの音が響いている。
茶楽と戦闘しているのは人の1/3くらいのサイズの黒い蟻だ。
小さいとはいえ外よりははるかに大きく人で言う手の部分が鎌になっている。
「素手の俺にどうしろって言うんだ?」
小道に入る前にひと悶着あったけど、逃げ場もないのに素手でそんなの受けれるわけないだろ……
外の蟻と同様の特性があるのか、厄介なことに集団で行動している。
茶楽と向かい合ってる蟻の後ろに何匹も控えている。
外の蟻は壁を這うので念のためにそういう蟻が出たら魔法で撃ち落とそうと思っていた。
しかし、サイズが大きい為か壁を伝ってくる気配がないので地下2階突入時から振返ってなにか気づきがないか思案に耽っていた。
その場その場の対応だけでなく、しっかりと考えていく事が重要だ。
援護として魔法を放つことも考えたけれど、ユウで (強制的に)実験した感じだと命中精度にかなり不安がある。
密集した状態で放つにはフレンドりファイアの危険が高すぎて無理と判断している。
「明彦の事だから、右手からなんか飛ばすくらいするだろ!」
「人間の手からそんなものでるか!!」
「お前は名作漫画を見てないのか!?」
「漫画を現実に持ち込むな!」
あれ? このセリフって俺が誰かに言わせるような事なのに、なんで俺が言ってんだ?
自分で言っておいて何だけど、ダンジョンの中って現実って言っていいのか?
現実は現実なんだろうけど、俺たちの概念上の現実とは絶対違うよな……
「ここなら漫画の世界を持ち込めてもおかしくないだろ!」
今自分が考えていた事なので否定できない。
茶楽はそんな事を言いながらも、小刻みにステップを踏みながら攻撃が来たらナイフでしのいでいる。
たまに攻撃しているがあんまり効いているそぶりが無く、このままでは茶楽の方がマズイか……
「攻撃ではなくてあくまで援護ならば、できる事はある」
「そういうのは早く言え!!」
「ただ、精度に難があるのでお前に当たる可能性がある」
「……俺の体に穴が空いたりしねぇ? っと……会話中は配慮しろ! 女王に嫌われんぞ?」
茶楽は会話しながらも蟻の攻撃をしのぎ続ける。
蟻は両手の鎌を交互に振り回してきているが、シャランという音を両手のナイフから奏でて上手く受け流している。
1対1状態だから鍔迫り合いも一つの手だが、蟻の集団は渋滞状態なので相手との距離をなるべく取って置かないと危険という判断だろう。
「以前の実験より単発の威力落とすから大丈夫だ! タブン」
「おい! 今ボソっとなんて言った? 被害デケェなら数押しされる危険を取ってでも下がって二人で相手した方がましだぞ!」
「大丈夫だ! 実験では軽い怪我で済んでる」
「……人体実験してんのかよ。 明彦のあのパワーを聞いて実験引き受けるとか……そいつマゾかよ?」
被験者 (ユウ)の意思を無視してやったけれど、嘘はついてない!
了解も出たので、前と同じように体の中心から指先に魔力を流し固める。
ただし、前回より一つ一つの礫を小さくする事を考える。
ダメージではなく衝撃を与えたいし、前回の大きさではフレンドリファイアになった際に小さいとはいえ味方にダメージが入ってしまう。
指先から魔力流れ出ていき、その先で前回と同じように礫を作られる。
更にそれを5分割する事を頭で意識して指先に力を入れるとイメージ通りに塊に切れ目が入り、少しづつ独立した小さな塊になっていく。
ここはぶっつけだったが成功だ!
それぞれの礫が5分割されかなり小さくなった。
砂粒程ではないが、小さなビーズくらいの大きさになっている。
これなら、万が一茶楽に当たってもダメージにならないはずだ。
「明彦! まだか!?」
受け流し続けるというのは高い緊張状態を維持の上、相手の動作への集中もしないといけない。
更に蟻は集団なので後続の動きも意識するという全体把握もかかせないので、茶楽は精神的に高付加状態が続いている。
「次の蟻の攻撃の時に魔法で上体を反らさせるから、腹をナイフで刻め!」
「分かった!!」
最初に5つの指先から5個の礫を作り、更にそれぞれを5個に分割して計25個これをぶち込む!
そう心で思ったところで、蟻が鎌で攻撃するために状態を少し上げる動作が目に入る。
「マジックボルト!!」
俺の叫びと同時に全25個の魔法の礫が蟻に向かって走っていく。
俺は蟻の顎から胸、それと鎌の部分を狙ったが当たったのは18個程で2個程茶楽にヒットしてしまった。
残り5個は蟻の後ろに飛んで行った。
だが、狙い通り蟻の状態を反らして隙を発生させることができる。
「オラァ!」
そして、過去に訓練を受けている茶楽が小さくともその隙を逃すはずがなく両手のナイフで切り刻んでいく。
何度か攻撃が必要になるかと思ったが、急所にナイフが入ったようで先頭の蟻は崩れる。
俺が刻めと言った意味を茶楽は理解していたようで、ナイフが蟻に持っていかれないように注意していた。
後続も相手にするので、食い込まされてナイフ持っていかれると俺たちの武器がなくなってしまう。
細かく言わなくても理解をしてくれる、この地域の冒険者の中で茶楽はやっぱり一番いい人材だと再確認する。
「被弾したが、大丈夫か?」
「問題ない! 同じ要領で一気に行くぞ!」
一匹倒したことで対応法が確立されたので、戦意を滾らせる茶楽。
今の倒した勢いを途切れさせないように一気に後続に攻めかける!
木崎茶楽
最初の時は一緒に組んでたまるかと思った冒険者。
だが、今は頼もしい相棒と化している。
タイチョー、タツ
俺が言ったように仲間の存在って大事だろ?
俺は茶楽がPTメンバーと聞いた際にソロを熱望した事を棚に上げて、そんな事を心の裡で思いながら、茶楽の援護に徹する。
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