5 ようやくダンジョン調査もできました
20を数えたあたりでようやく後続の進軍が終わった。
蟻なので無尽蔵にいたらどうしようと思ったけれど、外で見るような大軍勢にはなっていなかったようだ。
今回の戦闘で分かったのが魔法と一言で言っても形が定まっていないという事だ。
ゲームだと魔法の現象は一定だけど、ダンジョンでは自分の考えの通りに動かすことができた。
だから深く考える事でやれる事が変わってくる事が分かったのは大きな収穫だ。
「いったん戻って休ませろ」
という茶楽の提案もあり次の部屋にはいかず一旦戻る事にする。
前衛で緊張を解く間もない連戦だったので、疲労が限界のように見える。
念のために戻る時は茶楽を先に通して俺が殿となって戻っていく。
フラフラとまでは言わないが、歩く事だけを考えて周囲への注意が殆どないので気力で体を動かしている状態だと思う。
小道には蟻の死骸が並んでいるが積み上がりきってはいないので、上を歩けば通れそうだ。
万が一先行しているPTが逃げ戻ってきてもだろう。
「結構大変だったな」
「俺はあれ以上来てたらさすがに無理だった……」
前の部屋の壁際にぐったりと座り込んでから、茶楽は返してくる。
どんなに鍛えても人間は疲労に勝てない。
長時間戦うにはON/OFFを上手く切り替えていないと無理な話なので、茶楽がぐったりとしてしまうのは仕方がない。
俺はさっきの小道への入り口付近を警戒しながら周囲を散策することにする。
光っている鉱石以外にも気になる事があったが、さっきは細かく調べられなかったので今回は落ち着いて調べることにする。
細かい鉱石をポーチに放り込みながら俺は当初気になっていたものを探し続ける。
「明彦は何を探してんだ?」
俺が探索に熱中して暫くたったころ、茶楽がそう声をかけてきた。
「さっき鉱石をじっくり見れなかったし、ダンジョン前から気になっていた事をすこしな」
「何を気にしてんだ?」
「茶楽ならどの辺りか知ってるかな。 陸自が蒔いた空薬莢探してるんだけど」
俺が前に気になっていた点としてあげたダンジョンの構造が変わる調査として空薬莢が蒔かれる事になった。
ちなみに最初はレーションがその役目になっていたけれど、速攻俺が突っ込んで空薬莢に変えてもらった。
陸自としても不評の一品なので処分したかったらしい。
「入口付近とその少し先だから、この部屋なら撒かれてるんじゃね? 後で冒険者にも持たされて適当に置いてくるように指示があったらしい」
伝聞系なのは実際に茶楽が入院後の話だからだろうな。
「ただ、アレって見つからないっていうので話ついてなかったか?」
「一旦はそういう話になってるけれど、俺個人としてはまだ気になっている事があるんだが……茶楽は蟻が出てくる地下2階って空薬莢置くようになってから前に出た事あるか知ってるか?」
「……聞いてはねぇな。 俺が知らないだけってこともあっけど、前に出てたら何かあんのか?」
「仮説が証明されるってとこか、まあ陸自に後で説明するから気になるならついてくれば?」
どうせ暇だしなと言って茶楽は陸自との説明に参加することになる。
個人的にも細かい事を知っておいて欲しいので助かる。
「ところでお前のクラスって何なんだ? 魔法使うっておかしくね?」
「いや、普通に【学者】だと使えるけど?」
「いや!? 何が普通なんだ!?」
元々の知人意外には100%クラス否定されてます。
泣いていいかな……
「何がって職業比べたら、【学者】しかなかった」
「お前なら【武闘家】とかあったんじゃねぇの?」
「【武闘家】、【剣士】、【学者】」
「やっぱ【武闘家】あんじゃん! そのラインナップで【学者】とかなくね!?」
「魔法と知識欲から【学者】一択……」
「あ~、もういいや……ジャージと一緒で他人には分からない領域があんだな」
陸自とは違って、簡単に納得してくれたけれど釈然としない……
ここにユウがいれば理論的な説明をしてくれて違ったのだろうかと思うが、あの時皆完全に納得はしてなかったから無理か。
「そういや茶楽の方はクラスなんだ?」
「俺は【遊び人】だけど?」
「いや!? そっちも人の事突っ込めるクラスじゃなくない?」
「クラスチェンジした後、陸自はピッタリだとほほ笑んでたから問題ないんじゃね?」
確かに前の状態を考えるならピッタリだけど、戦闘を考えるとそれはどうなんだろうかと思わなくもない。
思わなくもないが……それを言うと趣味に走った俺にブーメランなので口には出すまい。
後、陸自がほほ笑んでいたのは安堵じゃなかろうか。
下手に戦闘的なクラスになったら諫めるのに苦労しそうだと、陸自の面々は不安がっていそうだし。
「ちなみに他のクラス候補は?」
「【武闘家】、【盗賊】」
「いや、やっぱお前も人の事言えないだろ!」
「実際問題【武闘家】にしようかと思ったけれど、【遊び人】の『様々な事に関わっているので回避能力がかなり高い』というのに惹かれた。 クマとかいんだから回避って重要だろ?」
クラス名からは想像できない程、しっかりと考えていた。
もしかして皆、何かになりたいよりも理由付けをしてクラス選択してるのかな。
「説明されると確かにな。 俺も何も分からないダンジョンの事を少しでも深く理解できれば危険度が下げられると思ったし」
「いや、無理やり後付けの理由考えんなくていい」
それは本当に理由の一つなんだけどな……
茶楽の体力も回復したようで腰を上げて軽く体をほぐし始める。
「それじゃ、そろそろ行くか」
話し合いが終わった後、俺たちは蟻の屍の上を歩いていく。
再び気持ち悪い感触はなく、整備されていない道を歩ているような感触だ。
さっきの戦闘中はグニュッとした感触が靴を通して伝わってきたが、時間が経って硬直したのだろう。
というか、茶楽は途中からあの感触と不安定の足場の上で戦闘してたのか。
……回避力すげぇな、クラスの恩恵もあるのか?
蟻の屍を超えた先には部屋があったがそこには蟻はいない。
というか、そこにいた蟻は俺たちの方に流れてきたんだろう。
部屋には先に進む道が二つに分かれているので、どっちに行くべきか俺たちは考えることになる。
それなりに倒したし採取もしたから、そろそろ帰ってもよくないか?
俺の頭の中に第三の選択肢への囁きが響いた。
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