3 木崎茶楽という男
階段付近でチャラ男は装備として渡されたサバイバルナイフを手に持ち階段に近づいていく。
先に他のメンツが先行しているのでそこまで警戒している感じはないが、最初にダンジョンに入った際とは段違いの動きとなっている。
入院していたので陸自に叩き込まれたという線も薄い。
そうなると何故初回あんな態度を取っていたのか気になるが、関わった時間が短すぎて何も思いつかない。
この状況で再度一人で行くというのも無理なので、俺も両手の拳を握りしめながら近づいていく。
装備の確認の時に聞いたけど今回は戦闘の方を重視してナイフが支給されることになった。
クマにナイフが通らなかったので支給見送りも考えられたらしいが、チャラ男が入院し他の地区でも怪我人が出てることを鑑み、攻撃が通らなくても防御には使えるという判断で支給されることになった。
「魔法で味方を攻撃できるんだし、武器の危険性だけを問題視してもな」
という言葉が発せられた時には俺の目は泳いでいた。
支給され始めたのって俺が冒険者カードを取りに行った時より前だよね……
俺がユウに魔法を放ったのが決め手になってないよね?
そう言うわけで予備を含めて武器はナイフ2本支給されているのだけれど、俺には何もなかった。
抗議すると「『手刀』という聖剣より強い武器は存在しない」という意味不明な理由で装備に対しては特別対応となったらしい。
そんな特別対応いらない!
さっきナイフを一本要求した対策か、チャラ男は両手にナイフを持ち階段に足を踏み入れていく。
陸自がいる辺りはライトが設置されてて明るかったが、階段を下りていけば当然光は届かないので俺がチャラ男の後ろからライト照らしている。
絶対片手ナイフで片手ライトのが効率的だろ……
階段はモンスターが上がってくることを想定している事からか人が通れる広さよりは広かったが他の通路よりは狭くなっている。
必然音が反響しやすくなっているのだが、俺たち2人からは殆ど音が発せられていない。
前回の事を考えればあまりにも異常な行軍だ。
「お前……一体何?」
階段を抜ければお互い連携を取らないといけなくなる。
対応を決め切れていない状態で迎えるのには怖すぎるので、ストレートに聞くことにする。
「何って、ベアキラーと同じ冒険者だろ?」
「いい加減ベアキラーはやめろ。 お前だって自称のベアキラーだろう」
「なら、明彦と呼べばいいか? 嫌なら苗字の和田にするか?」
意外にも俺の名前を憶えているらしい。
「まあ名前で良い。 俺も同じようにチャラ男とよ」
「ちげぇよ!!」
これまた前回と異なりなるべく響かないように気を付けた怒声を浴びせてくる。
しかし、名前違ったっけ?
「ぇ、違ったっけ?」
「茶楽だ! 木崎茶楽!! 間違えんなら木崎の方にしろ!」
「分かった、チャラ」
「チャ・ラ・クだ! 途中で止めんならマジで苗字にしろ!」
そういえばそんな名前だった気もする。
たぶん昔から名前で色々あったんろうな。
「スマン、茶楽……でいいんだよな?」
「ああ、そうだ明彦……で何だって?」
呼び方を伝えるだけなのに妙に時間かかった。
「お前なんでそんな動きができる?」
「これが地だからだ」
「つまり前は……」
「演技。 何かあった際人が多い方が対応しやすいだろ? あの時は自衛隊もいんだし、むしろあの時に遭遇しとくべきだと思った」
マジカヨ、思いっきり騙された。
「アホ扱いされればダンジョンじゃなくて後方支援行というのもあるかもしれなかったしな。 後は明彦がいたから尚更あの時に遭遇しとくべきだと思った」
「は? あの時初対面だろ?」
「まあ、直接の面識はないがちょっと知ってんだよ。 お前ダンジョン外でもベアキラーだろ?」
「……なんで知ってんの?」
「お前地元の道場通ってただろ? 俺と明彦は同門で、昔からいる奴らから入門後直ぐに天辺とって卒業していった異常者がいるって何度も聞かされた」
なんか色々と話違うんだけど……
むしろ俺すぐに破門されたよ?
払った費用全部返された上で辞めさせられたし。
「俺が道場にいる時に変な要請きたんだよ」
「要請?」
「道場出身者がクマを素手で倒したから、誰か山や森に行くときの護衛として誰か派遣して欲しいって」
「…………ソリャマタカワッタヨウセイデ」
「さすがに無理となったけど、そんな事できる奴となった際に明彦以外いないとなった」
あの道場実戦派で、実力をつける為になるんだったら受けてたらしい。
でもクマは対象外だったのか。
「なんかスマン。 クマはたまにしか出てなかったんだが」
「1回だけじゃないのかよ!?」
「狩りに行ったんじゃなくて、遊びに行ってたら出てくるんだからしょうがないだろ」
そういえば何回目からか食事がクマ鍋になるって、クマが出たらユウ達喜び始めてたな。
「まあクマ騒動でお前の名前は強烈にインプットされてたし、特徴も聞いてたからすぐに分かった」
「特徴って20年くらい前の話だったはずだから、一致しないだろ?」
「ジャージを変態的に愛していて、禁止されてなければそれ以外を選択しない」
「いや、ジャージは普通に動きやすいだろ」
全く一般的な話を尾ひれ背びれを付けて吹聴しないで貰いたい。
「……結婚式の服装は?」
「フォーマルなジャージだろ」
「ねぇよ!!」
「いや、特注で買えるぞ」
あれ? なんだろう昔のユウ達と同じような諦めたような顔してる。
結婚式の当人たちだってオーダーメイドしたりするんだから普通の事のはずなのに。
「……それでお前のこと知ってたが、さすがに尾ひれとか付きまくってるものだと思って対抗心を出してた。 俺だってあの道場で色々な動物と戦ったりサバイバル訓練とかしたりしてたわけだしな……クマはなかったけど」
あの道場そんな練習法してたのか……そりゃ警戒方法身につくわ。
「じゃあ入院の原因は……」
「ただの俺の対抗心。 おかげで噂が色々付加されたものじゃなくてリアルな話だと理解できた。 アレを素手とか人間じゃねぇよ……」
いや、その噂何かは付与されてるぞ。
少なくとも破門が卒業になってるし。
だが、この話し合いで茶楽がまともそうな思考の持ち主だと分かった。
しかも昔訓練をしていたという事も分かったので仲間として信頼しても大丈夫だろう。
「一応聞くが、これからもそういう偽装をしたりするのか?」
「いや、もうメリットねぇだろ。 結構な事やらかしたのにまだダンジョン組のままだぞ? だったら普通に生き延びる為にやるさ」
裏ではなんとか外せないか自衛隊が悩んでたのを知る由もない茶楽は、仕方なく現状を受け入れることにしたらしい。
これ他のメンツが知ったらどんな反応をするだろうか気になるな。
「他に何かあるか?」
「取り合えずはいい。 信頼できると分かっただけで十分だ」
「クマは外でもココでも倒せないから、お前よりは弱いけどな。 じゃあ、2階に行くか」
俺が頷いたのを確認した後、茶楽は前を向き直して歩いて出す。
程なくして階段が終わり2階へと初めて足を踏み入れる事となる。
朝は拒否していたし、以前は馬鹿にしていた茶楽が予想外の戦力となったのは意外だった。
茶楽の例を考えると、他にも偽装している冒険者がいたりするんだろうか?
こういうの何かで見抜けたりしないものだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます