2 真偽ベアキラーコンビ誕生

食堂でタツの指さす方向に目を向けるとそこには、自衛隊はどこにもいなかった。


「お~い、ベアキラー聞いてる?」


なんか雑音が聞こえるけど、そこにはいるべき人物が見当たらないので確認する。


「誰もいないけど?」

「ここ! ベアキラーの視界に俺入ってるだろ!!」

「……陸自隊員誰もいないけど?」

「なんでうちの隊員だと思った? 余ってるのはそこのチャ……木崎だけだ」


今、チャラって言いかけなかった?

もしかして陸自内でもそういう呼び方定着してる?


「でも、病み上がりの人間を現場に連れていくわけには……」

「アッキーも一応病み上がりだろ」

「できればプロの方の方が……」

「木崎はプロの冒険者だ」

「そうか……ではソロで」

「それ、さっき力説してた言葉全否定にならない?」

「はて? 何の事?」


全力でとぼける俺。


「そんな嫌がらずに一緒に行こうぜ、ベアキラー」


というかチャラ男、お前はなんでそんなに友好的に話しかけてくる?

なんか企んでそうで気になる。


とはいえ、開けた場所があるようなら死角を無くすように背中合わせができるのは死亡率を下げる為に重要。

どんなに鍛えても人間の体の構造的に攻撃は体の正面になるので、敵を全て前面にするか分担するというチームワークが大切だ。


「あ~、分かったよ。 よろしくな」


仕方なしにPT組むことを了承する俺。

チャラ男とこんな事をする日が来るとは思わなかった。


「ベアキラーコンビの誕生か。 PT名だけは凄そうな名前だ」


ぇ? 何そのPT名!?

ていうかPT名だけって、絶対チャラ男が足を引っ張ると思ってるだろ!



「ベアキラー、朝食べてないならここで食べてけば? 俺ら無料で食べれることになってる」

「いや、俺は食べて来たからいい。 そっちは……まだ途中かじゃあ正式に組んだことをタイチョーに報告してくる。 戻るまでに食べ終わって置けよ?」

「のんびり食べたいんだけど」

「じゃあノンビリ行ってくる」

「こっちとしてはさっさと食べて、さっさと行って欲しいんだけど?」


タツがなんか言ってたけど、あんまり気乗りしない事だから足取りも重くなのはしょうがない。

そう思いながら食堂の出口に向かって歩いていく。





「この前来たせいか、あんまりダンジョン久しぶりって気がしないな~」


1階は安全って分かってるせいか、最初に訪れた時とは変わり気楽に歩きながら独り言を漏らす。

しかし、その独り言に応じる言葉は返ってこない。


チャラ男は前に瞬殺されたみたいだし、その事が尾を引いて緊張している……

というわけでなくそもそも同行者がいない!


食堂で言ったタイチョーへの報告は口からの出まかせで、食堂を出た後は競歩でダンジョンまで向かった。

チャラ男と組むなんて死亡率が上がりそうでゴメンだ!

後で色々と文句を言われそうだが命には代えられない!!


死角を潰したりするために人手があった方がいいのは事実だけど、そもそも連携が取れないならその意味はない。

というかチャラ男のあの感じ、人前で友好的に振る舞ってダンジョン内で刺そうとしているようにも思える。


さすがに入院経験もあるのだから、一人ではダンジョンに来たりしないだろうと考えて陸自のキャンプ地から逃げてきた。

今日は上手くいったけど、明日から毎日逃げる事考えないといけないかもしれない……



ちなみにダンジョンに来る途中でドライブ道連れにした西原さんの事を思い出した。

しかし、戻るとチャラ男との鉢合わせが気になったのでタマに『西原さんの事は任せた!!』と念を送っておいた。


どこぞの主人公とは違って特殊能力ではないので、タマに無事届いたかは不明。

しかし、陸自隊員はタイチョーによって受信能力は高いはずだから、受け取れているはず。




前回は警戒しまくりで行動していた部分を気楽に歩いていき、クマと戦った辺りまで来ると人影が見える。

あれが地下からのバリケードになってるのか。


昼担当の人は暗いダンジョン内にいて外に出るともう日も落ちるという形だよな。

早く電気通って欲しいね。

俺としても明るい方が助かるし。



「あ、おはよう……で合ってる? アッキーもといベアキラー」

「おはようで合ってるけど、その言い直しいらなくない!?」


暗い場所にいると時間感覚も自信持てなくなるようだ。

ちなみに最初に挨拶してきたのは、冒険者カードの時の叫びに駆けつけてきた陸自隊員だ。


あの時の事思い出していじりたくなったんだろう。

L〇NEに俺の知り合いが増えてるのが影響してよりいじりやすくなってると思われる。



「それにしても、ベアキラーコンビか意外だな」

「いやだって……今なんて? 俺一人で来たよ?」

「ぇ? 後ろにベアキラーの片割れいるけど?」


その言葉と同時に肩に手が置かれる。

ゆっくりと首を回して後ろを見るとそこにはチャラ男が立っている。


「一緒に行くって言ったのに置いていこうとするなんて、酷くないか?」

「お前いつから俺の後ろにいた?」

「キャンプ地出たくらいから。 朝食も結局あまり食べれなかったから夜奢れよ」


つまり俺の狙いに気づいて、すぐに出たという事か。

そしてずっと後ろについてきた、……チャラ男が?


「二人でPTでいいんだよな?」

「陸自の隊長ともコンビでいくで話がついてるから、それでいい。 だよな?」


チャラ男が確認してくるので俺は頷く。

2階は初めてという事もあって、あまり奥に行かず直ぐ帰れるように言われた。


「じゃあ、階段下りたらすぐ戻ってきていい?」

「……それでいいと思うんだったらいいけど?」

「ユウが何言うか知らないけど、それでいいなら」


なんでまだ会社立ち上がってないのに、管理されてんだろ……無給で。

当然ながらユウもユキもL〇NEメンバーに入っているので、直接会ってなくても陸自の面々は皆話をしてたりする。


「ユウ?」


この中で一人だけメンバー外のチャラ男が疑問の声を上げたが、無視する。

軽く装備を貰ってから階段に向かう。


昼は戻らない場合レーションらしいけど、本とかだと美味しいって話を見た覚えがない。

チャラ男が夜の奢りを要求してきた理由が分かった。

確かに朝抜いたら後は夜しか食の楽しみは無いな……


その気持ちはよく分かる。

なんせ、俺もドライブ中のリバース対策で朝食抜いてきたから!!

どうせついて来るなら食堂で食べてきたかった……



さっき、チャラ男見た時に確認したがアイツの服は陸自の服に軍靴だった。

それで後ろにつかれて気づけない?

少し前まで要注意人物扱いされて奴が、訓練も無しにそんな歩行できるようになるか?

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