7 [SS]とある課長の苦悩
「課長、何かあるなら早く言ってくれません?」
私が呼んで目の前に立っている女性は上から目線でそう言ってくる。
こう言うと目の前の女性の肩書は部長とかに思うかもしれないが、ただの平で私の部下である。
探索サポート課
名前だけ聞けば役所はいつから血税を使ってふざけたことをしだしたんだ!
となるが、現在では毎日ニュースでも名前が流れる事になり役所に来られる方にも認知されるようになっている。
……個人的には未だにふざけた課だと思うが。
「実は陸自からクレームのようなものがあったのだが」
「……私なにもしてませんよ?」
なぜ詳細を聞く前にそのような言葉が出るのだろう。
この課の問題児であり、和田さんへの前科もある西原はやましいことがあるのではないかと疑いたくなる。
「西原さんに直接来てるわけではないんだけれども、君の担当している冒険者についてなんだけど」
「えっと、誰のことでしょう」
西原は素行の問題児でもあるが、実は冒険者を登録した人数ではTOPだったりするので、誰の事か純粋にピンとこないのだろう。
地域で送り込んでいるダンジョン組の6割が西原の実績となると、単なる担当振り分けの運ということもないだろう。
普段……というか、適当でいいと思った相手はには今のやり取りの感じだが、人前では間延びした話し方をする。
まだ若いというのも相まってか話を聞いてもらいやすいのだろう。
「和田さんは当然だが、後は木崎茶楽、村上紗季、宮川樹里香の4人の調査をちゃんとやったのかというクレームが入ってるんだけど」
「やりました! まとめる時間が無かったから課長には元資料送って総括の説明してるじゃないですか。 っていうか、その4人接点なさそうなんですけど何で上がってるんですか?」
確かに貰ったけれど、全部に目を通せるわけないだろ……
「今4人でPT組んでるそうだ。 そして、全員なんらかの武術経験があるそうでそれは事前に分からなかったのかということを問われてる」
「犯罪歴ならともかく、個人の経歴をどう調べろと?」
「協会とか等に問い合わせれば段位とかは教えてくれるだろう」
「そういう指示は受けていませんよね? 課長の問題では?」
「……なら、村上紗季さんの実家はどう考えた? 彼女の実家は薙刀の道場だという話だろう」
「本人、今は人が少ないので親に任して教えてないって言ってましたし」
「今"は"って言ってたんだったら、以前は教えるほどの実力があるって分かるだろう!!」
溜まらず私が声を張り上げると、西原は煩そうに顔をしかめる。
指示だけでなく状況も加味して臨機応変に動いて欲しい。
今の時代困ったら携帯で上司とも気軽に連絡を取れるのだから。
「課長、会議室とかではなく無関係の人がいる所で大声とかなんらかのハラスメントじゃないですか?」
ボスンッ!
言葉と共に振りぬかれる脚
鈍い音と共に脚の軌道上を滑空していく机 (5代目みかん箱)
粉雪……とまでは言わないが周囲を舞い散る書類たち (個人情報バリバリ掲載)
課が発足して既に机が5代目という事で察せられるが、そこそこの頻度でこのやりとりが行われている。
そんな部下がハラスメントとかのたまうとか、私の理解の範疇を超えている。
初代は一般的な事務机だったが、西原への最初の指示の際に資材へと変貌 (PC含む)を遂げた。
あの時にクラウドの重要性を理解した。
ローカルで何かするとかもう化石の発想だ!
「さっきも言いましたけど、当初の指示で背景情報が重視されていて実力は加味されてなかったじゃないですか! 方針の転換を正式に通達しない上でクレーム上げるとか私より陸自に文句言うべきじゃないですか?」
確かに当初は実力は重視されてなかった。
とういか、実力がある人間がいるなんて思ってもみなかったというのが実の所だろう。
そこで和田さんという規格外に始まり有力者が数人発見されたので、欲が出たというのが正直の所だろう。
「申し訳ない。 冷静に考えるとその点に関しては私が間違えていた」
中村3尉から電話があって、その件を言われたのでしっかり吟味せずに西原に当たってしまったのは私のミスなので素直に謝る。
所内の振る舞いから、西原が関わる事は本人のミスと思いこんでしまう。
……実際に間違っている事も少なく無いのだろうけれど。
「それじゃ、これからは武術の経験がある人に声をかければいいって事ですか?」
「それと人柄を重視して欲しいらしい。 和田さんの事から過去の経歴は今に及ぼさない可能性もあると考えてそこはそんなに気にしないとも言っていた」
人柄を重視という所で何か思う所があるのか、西原は視線を右上に動かし何事かを考える。
「……人柄っていいますけど、村上紗季さん以外の3人って結構ズレててまともと言い難い部分があると私は感じてますけど」
「円滑な人間関係は求めないけど、最低限味方に危害を加えない人材を希望している」
「そのレベルの話を人柄の枠組みに含めて良いのか気にはなりますけど……実際にそう言う事が起こってるという事ですか?」
西原の担当外なので、問題人物と上がっている荒木翔太と鴨田友香の資料を渡し、ベアキラーPTが発足することになった原因を話す。
ダンジョン出張の帰りに似たような話を西原は車内で聞いていたらしく、事情が呑み込めたようだ。
「問題人物の資料としてはそれが全てだが、どんな人柄がアウトかは直接見に行って欲しい」
「っていうか、コレ私じゃなくて全体に言った方が良くないですか?」
「誠に遺憾ながら、陸自からのごしめ……いや、スカウトのエースである西原に陸自からのご指名が入った」
本音が出たら西原が脚を上げるのが見えた為、慌てて言い直す。
前の課の上司が西原の蹴りで骨折した (非労災認定)らしいので言葉には気を付けないといけない!
……西原をどうにか現場出向とかにできないだろうか。
ダンジョン内の方が適任だと思う。
後、私の心労的にも。
奇しくも平課長と和田明彦は西原という職員に同じ印象を持っている。
陸自に絶大な信頼を持つ和田明彦と、西原の直接の上司であり陸自とも顔見知りの2人が提案すれば、西原を1人の冒険者として確実な戦力を送り込むことが可能だった。
しかし、当人たちはお互いに同じことを思っているのを知らない為に起こりえなかった未来となったのは西原にとっての幸運だろう。
「そうなると私の他の業務はどうなるんですか?」
「担当冒険者の対応以外は基本引き継いで、スカウト専任になる。 職場に来る必要がない時は直行直帰してもいいが、日時報告はメール等で毎日上げてくれ」
むしろ来ないでくれ!
「職場のデータとか触りたい時どうすればいいんですか?」
「今日の帰りまでに仕事用のタブレット端末を設定してもらうことになってるから、データだけ専用のクラウドストレージに上げてもらえれば見ることができる」
「仕事の用の携帯は前にもらってますし、それなら来ない日が出るかもしれません」
YES!
転属してから今日までは、職場にくるのに憂鬱な日が多かったが明日からは晴れ晴れとして仕事に来れそうだ!
妻よ娘よ、今まで家で陰鬱な空気を出して申し訳ない!
だがそれも昨日までだ。
私の想像通り平和な日々が続いた。
そう数日間だけは……
西原と話した数日後から器物損壊で謝罪行脚が始まる事になり、違う方面での西原のストレスが発生する事となる。
結局西原に関連するストレスが減少する事はこの数日間以外なかった。
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