5 交渉

「そこをなんとかお考え直しいただけないでしょうか!!」


そう言って土下座をしているのはジャンピング土下座……もとい探索サポート課の平課長だ。

前に見たジャンピング土下座のインパクトが大きすぎて、普通の土下座では何とも思わなくなってしまっている。

キレイな土下座ではあるんだけど上位版を見てしまうと手抜きをしている印象になるな。

使いどころって大事だね。



仲間内でプレゼンを行った日から数日後、陸自と役所の関係者と話をすることになった。

こちら側からは俺とユウの二人が出席している。

ちなみに、クマとの遭遇から1週間も経過すると自分だけで動く事ができるようになってきたのが、個人的には嬉しい。

(月夜も来たがったがトラブルになりかけた前科があるので、却下した)


現場の人物が集まった所に現場で決断できないような事を投げ込んだ所、土下座が発生した。

社外との打合せと思って訪問したら、会社上層部じゃないと決断できないような事を取引先から要求されているようなものだ。

しかも、さっきからユウは俺をダシにして揺さぶってるし……

会社勤めの頃を思い出すと平課長には同情するしかない。


「先ほどから申し上げているように、和田は発足させる新会社に迎えることになっています。

政府が提唱している強制招集基準になっているのは無職ですよね?

現時点はともかく会社を立ち上げた瞬間から和田の参加は自由意志になります。

今回の提案を承諾していただければ、和田は引き続き参加となっております。

しかし、承諾いただけなければ和田を参加させることのメリットが無くなる為、社内での事業企画等を行う予定です」

「……弊所としては引き続き、和田様にはご参加いただきたいと考えております。しかし、私の一存では決められる内容ではなくお時間をいただけないかと」

「先ほども申しましたが、現場では当方が提案している仕組をすぐにでも必要と考えております。……そうですよね?」


ユウが同意を求めると、自衛隊組は首肯する。


「今回の招集発令までの期間は約一週間でした。

今回のような例外的な事例かつ緊急を要する話であればこの期間で決議が可能といいう事ですよね。

ならば時間と言っても数日でご返答いただけるという事でよろしいですか?」

「いえ、それも私では……」


勝手に決定できないので口ごもる平課長。

俺もユウも決定権がない事を理解しているが、了承が取れないと今回の仕組み自体が成り立たなくなるので、気の毒ながら心を鬼にしてプレッシャーをかけていく。

……実際話してるのはユウだけだけど



「現場で冒険者と共に活動をしている陸自としては、今回の話を蹴られるのは大変困ります。」


平行線のやり取りを見ていてしびれを切らしたのか、タイチョーが話に割って入ってきた。


「今後は徐々に我々のサポートも減っていき、冒険者それぞれに任せる形になっていきます。

その事を考えると提案頂いているような信用の置ける情報提供・交換の場の有無というのは生存率を大いに変動させる要因になるでしょう」

「それは、弊所としても理解しております」

「全体の決定権はないでしょうが、そちらの部署や支所としての考えはどうなっていますか?」

「私としましては今回の話同意したいと考えています。所内で今回の話を持ち込んでいないのでハッキリと申せませんが、私と同じ考えだと考えております。

……特に和田様の関わりがありますので」


最後の一言は何だろうか……


「それでは、ダンジョンがあるような支所は平課長の所と同じ考えで良いのでしょうか?」

「電話で話をする時の感触としては同じだと思います。

ベアキラーがいなくなると付ければ間違いなくどこも同意するでしょう」


いや、だから最後の一言は何!! いらないよね!?


「花村さん側としては、正式でなくても書面で許可を貰えれば大丈夫ですか?」

「決定権を持つような人物の名前が入っていれば……」

「分かりました、私から少し話をしてみます。 時間かかる可能性もありますが、お待ちください」


そう言ってタイチョーは部屋から出ていく。

ていうか一体誰と話をしてくるんだろうか。

仕方が無いので、平課長に頭を上げてもらい(今までずっと土下座をしていた)普通に話した。

一応さっきプレッシャーをかけ続けたのを謝ってから、他愛のない話をする。

地元である程度形ができたベンチャー企業の経営者と話す機会がないようで色々聞いていた。

気軽に起業はできるような環境になっていても、若年層の起業成功者は少ないのか興味津々だった。


ちなみに平課長も俺の担当者を同行させなかったけれど、月夜と同じような理由で同行させなかったのだろうか。

二人がいない状態でも結構揉めたのだから、その判断は英断だったと思う。




1時間程経過すると、タイチョーが携帯を手にしたまま部屋に戻ってきた。


「一旦、話だけは付けてきたので皆さんも聞いてください」


そう言って携帯をスピーカーモードにして机に置く。

ぇ? 話を付けてきた??


「防衛大臣だ」


少しすると、老成した声が携帯から流れてくる。

聞き間違えたかな、今大臣って聞こえたような……


「中村3尉から要請を受けたが、私の権限で花村雄太が新設する新会社に業務を正常に行う事に限定して、必要最低限の個人情報との関連づけを行う許可を与える。

詳細については担当窓口を数日中に設置するので、担当者と相談をして欲しい。

疑問などがあれば中村3尉を通してこちらに連絡をするように……中村3尉これでいいか?」

「ありがとうございます。

書面についてはいつになりますか?」

「本日中に私の自筆の署名と省印を押したものをメールで中村3尉に送る!

あの件はくれぐれも漏らすなよ!!」

「反故にしなければ、他言いたしません」


吐き捨てるような言葉を残して、電話は切れた。

俺たちは何が起こったのか分からず顔を見合わす。


「書面はメールが来たら転送しますので、メールアドレスを後でお願いします。

取り合えず大臣から許可は下りたので、これで心置きなく進められますね。

平課長も関わっていただく事になると思いますので、サポートお願いいたします」


いや……中村3尉って一体何者!?

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