6 現状把握

『ぇ? 良く聞こえなかったけど、いつ結果が分かるって?』


一番の難所と考えていたデータ使用の許可が即日に下りてしまったので、会社で連日引き継ぎ対応しているユキに電話した。

まあ頑張って一週間で奇跡が起きたら3日だろうと事前に考えて、そのようにスケジュール引いていたから逆に衝撃何だろうと思う。


仕事の負荷的な意味で。


「あ~、まあ~……実質的にはさっき許可出た」

『どんな奇跡が起こっても3日はかかるって言ったよね!? いくらなんでも僕入れないよ!』

「さすがにそこは分かってる。 参加していた俺たちだってビビるような決まり方だったし」


許可が出る決定打となった人物の事は深く考えない事にした。

突いたら何が出てくるのか分からなさすぎて怖い……


『僕は殆ど動けないから、明彦で要件定義と基本設計してくれない? 確認くらいはするから』

「取り合えずやってみる」


辞めるとなった際に予想外だったのが、ユキの部署から想像以上に辞める人が出た事だ。

約9割が退職の意思を示し、さすがに会社が回らなくなるので人員的な面で急遽対応が必要になった。


花村さんの思いつきはシステム関連が必ず関わっているので、一番ワリを喰っていたというのが大きそうだ。

ユキも結構面倒見いいから、そういう面で不満を抱えながらも今まで残っていた人間が多そうだ。


実際、会社の転職斡旋ではなくフリーランスになる人間に単発の依頼を受けれるか聞いてみたところほぼ全員が快諾したらしい。

収益化の目途がたってないから買い叩いているような額しか出せないのに、そんな回答をもらえるから人徳って大事だと思う。



「温厚なユキもさすがに大反発だったな」

「辞めるってなった際に、負荷が急激に上昇したのはユキだけだからな……」

「ちなみにユウは増えなかったのか?」

「対外的には色々あるけど、社内的には沙織に好きにしろの一言で終わった」

「揉めなかったのか?」

「むしろ当人は喜んでた」


話を聞いている限り、花村さんが好き勝手やってるイメージだったけど、意外と抑えてたのか……

自分の会社なのに思っていた以上に大変だったんだなと10年以上経って初めて気づく。


「ちなみにユキのように一緒に辞めたり、新会社に来たいという話はあった?」

「…………………………………………2人いたかな」


その2人ってユキと月夜だろ!

月夜もユキみたいな話なかったって嘆いていたけど、人当たりの良さと人望って反比例でもするのかな。




電話連絡も終わったので、タイチョーと平課長が待っている部屋に戻る。

ドアを開けると俺たちが座っていた席にコーヒーが置いてあった。


「固い話は終わったので、この後お時間が空いていれば少し話でもしていきませんか?」


俺は当然予定なんてあるわけなく、ユウも念のため1日中空けていたので席について話しを始める。

気軽な話だったが、このメンツ共通の話題というとどうしてもダンジョン関係になっていく。

俺もL〇NEで聞いたくらいの話しかなかったので、気にはなっていた。


「数日張り込んで分かったが、1階にモンスターは生息していない。 その下から階段を伝って出てくるというのが分かった。 今の所交代制で階段付近に詰めているが、その内安全策を取れないかと考えている」


ユウがタイチョーに敬語とかいらないと言ったので、普段のような口調に戻った。

社長が来るという事で、対外向けの対応をしていたらしい。


「意味不明なのが、2階以降の構造が日々変わるという事だ」

「「「ちょっと、何言ってるのか分からないんだけど!?」」」


総ツッコミだった。

構造物の構造が毎日変わるってナニソレ?

俺たちは○○のシレンにでも迷い込んだのか?


「俺は2階に行ってないので分からないが、冒険者達の話では形状もモンスターの種類も変わってきているらしい。 色々と調べたいところだが、形状が変わるタイミングに遭遇してしまっても大丈夫なのか確証が取れないうちには……」

「それなら適当な物を色々な所にばらまいて、翌日の回収状況で判断すればいいのでは?」

「なるほど…… さすが2階への道を最初に切り開いたアッキーは伊達じゃない」


……普通に気づく事だと思うけど。

現場で人命について考えるあまり視野が狭くなりすぎているだけではないだろうか。


「冒険者カードなのだが、俺のを見てもらうと分かるように一般的なゲームにあるようなレベルの概念がない」


そういって、自分のカードを表示状態で机に置いた。

確かにレベルはないが、STRやHP等はしっかりとある。


「ステータス自体は上がっている?」

「俺はクラスチェンジしているが、その時にはステータスの変動はなかった。 戦闘を繰り返しているような奴らはスタータスが上がったりしているようだが理屈はよく分かっていない」

「戦闘をしていないと上がらないという事?」

「いや、張り込みをしていたら体力が上がった人物もいたので、俗に言う経験値でステータスが上がっているかも不明だ」


なるほど、それは理屈が分からないわけだ。


「また、ステータスやスキル自体も人によって異なっているのが判明している。 例えば我々自衛隊は総じて体力等が冒険者に比べて高くなっていた」

「ゲームのように初期値があるのではなく、現実の状況がステータスに反映されているという事か?」

「そうではないかと考えている」


話を聞いて再度タイチョーのスキルを見てみると次のようになっている。

【不動の精神】【威圧】【強靭な肉体】【武器適正(銃)】【武器適正(徒手)】【統率】


なるほど、タイチョーを表す様なスキルだ。


「クラスチェンジで魔術師を選んだ人物がいたが魔法の使い方が自然に分かったらしい。 この辺りも理屈は分からないが……」

「クラスは自由に選べた?」


魔法と聞いてかユウが口を挟んできた。


「いや3つが表示されるので1つを選ぶ形になる。 表示内容も人によって異なるが、適正がある職業が表示されているように思う」

「魔法を外で使うとどうなる?」

「野営地で試してもらったが使えなかった。 恐らく現実ではありえないような能力関係はダンジョン内でしか使えないのではないかと考えている」


特殊能力を持った犯罪が増えるのではないかと思ったが、そんな心配は杞憂だったらしい。


情報格差を補填した後、どうしていくべきか等を話し合った。

話していく中で事務方には色々な事が伝わっていなかったようで、色々と感覚のすり合わせができたのも大きかったと思った。

今後は何か話す際にも伝わりやすくなるんじゃないかという期待が出てきた。




「そろそろ、良い時間か」


時計を見ると、それなりに経過していたのでそろそろお開きか。


「それでは、ダンジョンに行くか!」

「「「そう…………イマナンテ?」」」


ダンジョンに行くかって聞こえたけど、話の流れ的におかしい!

心の中でツッコミを入れていると、ノックの音が聞こえる。


「タイチョー、こっちに行くように言われたんだけど?」


扉に視線を向けるとタツとタマがドアを開けて入ってくる。


「今日は疲れてしまったというなら、女性ドライバーが送っていくが?」


いい時間ってそう言う事か!!

ダンジョンに行くか暴走車で帰るかの二者択一らしい。

準備良すぎないか!?


暴走車の実力を知らない二人はキョトンとしているが、タイチョーの言葉で事情を察したタツは気の毒そうな視線をこっちに向けてくる。

ちなみにドライバーは同乗者ありのドライブができると思ったのか、嬉しそうな雰囲気を出している。


スキル【威圧】なるほど……、全くピッタリなスキルだ……

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