11 疲弊する人々

社会的には男女平等を押し進めているようだが、組織の中では様々な所で男尊女卑のような形態から脱出していない。

少なくとも俺の短い会社員生活ではそのように映った。


反面一般社会においては大いに進んでおり、痴漢やら男女関係やらの問題については男の立場の方が弱くなる。

というか、ニュース等で『30代後半無職の男性と女子高生』と見て真っ先に思いつくのは男側が何か性的な事で迫ることだ。



なので、現在目の前の普段にこやかな雰囲気を出している陸自隊員が真顔で


「あ、110じゃなくてかけるのは朝アッキー……じゃなくて和田さんが見た人だから安心して」


と言われてマジで返答をミスれない状況になっている。

さりげなく名前も苗字に言い直されて心の距離を置かれてるし!

更に朝見たってメッチャ仲良さそうに駄弁ってた警官だろ!?

そんなのタマの意見が素通りするにきまってる!!


二重の意味で頭が痛い……

この面が影響して検査受けたら手遅れですとか言われないだろうな……



頭の中で愚痴を言いながら言い訳を考えようとしても『30代後半無職と女子高生』から受けるインパクトが強烈すぎてそれを覆す様な言葉は一向に思いつかない。


ちなみに俺とカオちゃんの間にやましい事は一切ない!

まあ、若干ややこしい関係になってしまってるけど。



件の女子高生はタマから距離を取って俺の腕を掴んでる。

ちょっと痛いくらい握り込んで来てるので結構怒ってるっぽい。

人見知りで表情が普段から若干厳しめだから付き合いのない人には気づきにくいだろうけど……



「ところで和田さんはどんなビデオが好きなんですか?」

「……それはいったいどういう意味で?」

「まあ、その……現実に満たされないことを少女にしたのではないかと」

「ねぇよ!!」

「それでは援助」

「いい加減にして!! アッキーおじさんにそんなお金……というかお金自体あるわけないでしょ?」


犯罪者として決めてかかるタマに溜まりかねてかカオちゃんが声を上げる。

うん、カオちゃんの言う事は事実なんだけど学生にそれを言われるのは物凄くツライ。


今の言葉でカオちゃんが起こっている事にタマも気づいたようだけれど、俺に洗脳されてると思ったのかカオちゃんを諭そうとしている。

火に油を注ぐ形になってカオちゃんの握る力が更に強くなっている。

結構痛いけど、言うに言う得なくツライ。



事情を正確に知っているもう一人に助けてもらおうと視線を向けると目を閉じて壁に持たれている。

……もしかして月夜さん寝てらっしゃいますか?


「あの~、月夜さん?」

「………………ん? 何?」

「お疲れの所申し訳ないのですが、俺とカオちゃんの関係をタマさんにご説明いただけないでしょうか?」


寝起きのせいかボーっとした感じで月夜は一言呟く。


「実質的なパパ」

「待って!! タマ電話するの待って!!! 俺たちはまだ冷静に話し合える!! まずは携帯を置いて認識のすり合わせをしよう!!」


即座に携帯へ指を走らせるタマを何とか静止させる。

天の助けと期待した第三者で女性の月夜に意見を求めたら、誤解を加速させるような事を言われた。

……起きてて話聞いてたわけじゃないんだよな?



「ん~? ユウに娘がいるの言ったことなかったっけ?」


欠伸をしながら月夜は補足を加え始める。


「多分聞いてないと思う。 結婚してるとは聞いてたから子供もいるだろうなとは思ってたけど」

「その娘がそこにいるカーリね。 ユウは忙しくて子育ての余裕ないし、母親は……今の会社の事情から察して。 そこで暇だったアッキーがカーリの面倒見てるのが実情。 実際カーリはアッキーの家に今も住んでるし」


月夜がちゃんと説明をするとタマはようやく納得してくれたようで雰囲気が元に戻っていく。


「カーリ、制服だから生徒手帳持ってるでしょ?」


月夜に聞かれたカオちゃんはブレザーの胸ポケットから生徒手帳を出してタマに渡す。

生徒手帳には、花村夏織はなむらかおりと書かれているのでこれで疑いは晴れるだろう。


「アッキー何かして欲しいことない? あ、食べさせてあげよっか?」


疑いが晴れて気まずくなったのか、タマはそんなことを言ってくる。

今ので精神的に削られすぎて食欲もなくなったので、残りを代わりに食べてもらう事にして俺たちは病院に向かう。


……女子高生トラブルが他にあって欲しく無いので、タマの方からL〇NEに流してもらうようにお願いした。

男が自分で書くと胡散臭い事この上ないし。




□◆□◆□◆□◆□◆□◆□




「これで検査は終わりです。 結果が出るまで暫く待って下さい」


前回と同様に陸自連絡による超優先措置で検査をやってもらった。

というか普通なら時間的に明日来てくださいの所を無理にブッコんだような形になる。


結果は当日に分かるようだけど、時間がかかるので俺たち3人はレストラン的な場所を探して彷徨う。


「月夜……そっちって何徹してる?」


野営地で見た感じや病院でのどこか上の空の感じで、実は月夜結構ヤバいんじゃないかと感じてる。


「……さあ?」


もうこの返答でかなりヤバいところまできてるだろ。

悲しいかな俺たちも40近くなってしまっている。

無理もかなり効かなく、ダイレクトに体に表れてしまうはずだ。


連絡役として野営地に残ってるタマに連絡して、緊急で月夜の検査をして貰えないか相談すると直ぐに手配をしてくれるように掛け合ってくれる。

スゲェな。




□◆□◆□◆□◆□◆□◆□




月夜の検査後、俺の検査結果も出たのでまとめて説明を受けることにする。

俺の方は傷はともかくとして脳への影響とかはないので大丈夫との事らしい。


完治するまでは激しい運動ダンジョン調査は控えないといけない!!

ぇ? 喜んでなんてないよ?



ついでに月夜の方はと言うと入院が決定しました。

過労に加えて栄養などの面もあって数日入院になった。


明日の朝から入院して体の調子を整えてもらおう。

ついでにユウもこの後回収して強制入院としよう。

どうせ同じような状況だろうし陸自に連絡すれば検査も明日の朝突っ込めるだろう。


月夜は嫌がったけど、どうせ進まないなら一旦離れた方がいいだろう。

カオちゃんも月夜の説得をしてくれたおかげもあって月夜が折れる。



ちょっとユキと会社を辞める為の方向性を考えないといけないかな。

場合によってはあの2人も巻き込んで……


あれ? ダンジョン潜らなくてもなんかやることが山積みになってる?




検査結果を聞いた上で月夜に運転させるわけにはいかなかったので、俺が運転する事にする。


夜も遅くなったし会社でユウを回収した後には、4人で外食にするか。

無一文な男がそんな事を思いながら、今日も電気が消えないだろう会社に向けて車を走らせる。

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