8 状況認識の擦り合わせ……

和田明彦君と崎村辰美君の状況認識擦り合わせコーナー!!


突然始まったこのコーナーだけど、駆け付けてくれた崎村1曹が「ぇ? 何で生きてんの!?」と言わんばかりの反応をした為に行う事になった。


一度安心感から安堵の気持ちになったのだけど、崎村1曹がいっこうに小銃を下ろしてくれないので、命の危険が再度訪れる事となった。



……マジ、怖いから。

味方だから怖くねぇだろ?って思うなら、一度疑惑を持った顔されながら銃口向けられながら話してみるといいと思う。


言葉誤って鉛玉が出てこないか、気が気でない!

しかも、ここはダンジョン!!


「隊長、残念ながら和田さんは……」

とでも報告されれば誤発射でも俺は二階級特進で、崎村1曹にお咎め無しだ。

招集者に階級システムがあるかは分からないけど。




そんなわけで、お互いの状況認識を (俺の命の為に)擦り合わせるのが先決だとなったわけだ。




Q: 遠吠えのような声が聞こえたのはなぜ?

崎村1曹: モンスターとの遭遇

和田: クマとの戦闘開始


うん、さすがにここは概ね認識違いはない。




Q: 振動や叩きつけられる音は何?

崎村1曹: モンスターに捕まって、壁に叩きつけられている音

和田: ベアクロー繰り出されたり、壁プレスされた音


もうこの時点で、俺死んでね?

結構な時間振動していたと思うんだけど、あれだけの時間叩きつけられてたら、俺の原型ないから!



逆に壁プレスの詳細話したら、崎村1曹はなんでコイツ生きてんだろという顔になる。

動けない事の要因は壁プレスって言って、ある程度納得した顔になる。


クマに壁プレスしてもらってよか……いや、ないわ!


下手したら一発目で死んでる衝撃だったし。

なんとか誤解を解く方で頑張る方がいい。


怖いけど……




Q: 振動や音が止んだのは何故?

崎村1曹: 和田が死んだ OR 瀕死 (クマ元気)

和田: クマを倒した (和田重傷)


そうだよね、思いっきり小銃構えてたし、幽霊でも見たような顔してたから、そこで死んだと思ったよね……


当人からするとスレスレの死闘を乗り越えて、何とか倒して満足に動けなくなってるのに、その扱いは報われない。



ちなみに、倒した方法については何度も聞き返される。

しまいには『手刀』っていう聖剣どこで手に入れたのかと聞かれる。


いや剣の銘じゃないから!

俺の肉体! 俺の手で何とか倒しただけだから!!


証拠として、クマの体内に突っ込んだおかげで血まみれな右腕 (当然俺の一張羅という外用ジャージも血まみれ)を見せるが、どうにも倒した方法には納得しきれないらしい。


これ、クマの死体とかなかったら信じてくれてないよね……

小説やゲームのように、倒したら消える形じゃなくて、心底良かったと思う。




Q: 何かを漁るような音は何?

崎村1曹: 和田の荷物を漁ったり、和田の肉体を…… (以下自粛)

和田: 怪我の治療の為に自分のポーチを漁ってた (薬全滅)


死んだと思ってるなら、崎村1曹のように思っても仕方ないか。

想像はしたくないけど……


俺のポーチを渡すと惨状から一連の筋は通ってると感じたのか、小銃を下ろして崎村1曹のメディカルキットを渡してくれる。




疑惑も解けたので、二度目の安堵の気持ちを感じながら自分で治療をし始める。

全く動けないわけじゃないが、壁プレスの影響で体の動きが鈍い。


崎村1曹が手伝いを申し出てくれたが、この先を見てない事を伝える。




「私が継続して調査しますが、銃声が聞こえたら取り合えず逃げてください」


そう言って、機敏な動作で先に進んでいく。

自分の行動と照らし合わせながら、本職とは違うなとシミジミと感じる。




~ 10分後 ~


「他にモンスターはいませんでしたが、階段がありました」


最初の見立て通り、この道が当たりだったようだ。

他の道の招集者は遭遇しなかったようなので、もしかしたら1階にはモンスターは住んでないのかもしれない。



崎村1曹のおかげで、俺たちの当初の目的は達成した事になる。




「崎村1曹って、袋持ってたりしますか?」

「何かあったときに持ち帰れるように一つはあります」


調査の形なので、なにか発見がある事も想定していてくれて良かった。



「じゃあ、クマの心臓…………………………と本体入りますか?」

「…………本体はさすがに無理です。 さすがにこのサイズ分の発見物があるとは思いませんでしたし、重量面の問題もあります」


まあ、そうだろう。

仮に3mだとすると体重は150kgいっていると考えられる。


さすがに無線も入らないだろうと持ち帰り方に悩む。




「本体も持ち帰らないとマズイと思うんですよ。血の匂いが他のモンスターを呼ぶかもしれませんし、腐れば今後の衛生問題に関わります」

「……確かに」


崎村1曹は少し考えこむ。


「とはいえ、私一人ではどうしても重量的な問題があります。一度外に行って応援と荷車等を用意できないか確認しましょう」



そう言いながら、ナイフを取り出しながらクマに近寄っていく。



「手刀が可能なので大丈夫と思いますが、解体しての持ち運びできるか確認しておきます」


そう言ってナイフで首を落とし……



ガキン!!


「「!?」」


せなかった。


ぇ? 落とせない?



崎村1曹は驚きのあまり俺の方を凝視する。


『本当に手刀で倒したんですか?』

そんな声が聞こえてきそうな視線だった……


実際に手刀は通った!

クマの背中に痕もあるの見えるよね!?




崎村1曹はクマに視線を戻して、今度は更に力を込めてナイフを振り下ろして


ガキッ!!


……おかしいな、俺の目にはナイフが折れたように見えるんだが。


崎村1曹は茫然と欠けたナイフを見つめる。

きっと、死後硬直だな。


素手は効いて、ナイフが折れるなんて自体はそれしかない!




崎村1曹は小銃をクマに向けて構えて、発砲する。


パンッ!


乾いた音を立てて、銃から鉛玉が放たれた。

崎村1曹はクマを確認をした後に、ギギギと音がしそうな感じでこちらを向いた。



「和田さんは人間ですか? 昔とある組織に誘拐されて改造された経験等はありませんか?」


『もう意味わからん』という顔をしながら、俺への経験等の疑いから種族自体の疑いまで発展してしまう事態となった。


クマには銃弾も通らなかったようだ。


死後硬直って怖い。



ボク、フツウノニンゲンダヨ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る