8 追いすがるベアキラー
冒険者カードから映し出されているホログラフに表示されている、職業名に期待を胸に抱いて指を乗せる。
指を職業名に乗せると同時にカードから強い光が発生し俺の体を包み込む。
強い日差しの中に身を置いたように全身の細胞が光に反応しているのを感じるが、真夏のような不快感を感じる事はない。
全身の細胞に働きかけて、俺の中の才能を刺激しているのか外側から遺伝子への上書きをしているのではないかと更に期待が膨らむ。
まだ数秒と経っていないのだろうが、自分に何か変化があったのか気になりカードを確認しようとする。
しかし、俺の気持ちに反してホログラフは消え去っていて、カードを押しても反応しない。
仕方が無いので、待つことにする。
暫くすると肌への刺激が弱まってきて、徐々に周囲の景色も目に入ってくるようになる。
体感的には1時間くらいだけれども、タツ達が暇そうにしていないので数分程度のできごとだったんだろう。
ユウ達も光に包まれているようで周囲は明るい。
周囲を目で確認するよりも、さっきから自分の変化が気になるので自分の冒険者カードを連打してホログラフを立ち上げようとする。
20回ほど押した際にようやく立ち上がったので、どんな変化があったのか最初に冒険者カードの中身を見た時よりも目を見開いて確認をしていく。
一通り目を通すと変化があったのはスキル部分でステータスは変化していないと分かった。
「劇的な変化ってないものだな」
「やっぱり、大きい変化を期待するよな」
「光に包み込まれるからね~」
残念な気持ちが大きくて、つい気持ちが口に出てしまった。
陸自の2人も当初同じ気持ちだったのか俺の言葉に返答してくる。
「でも、職業にあったスキルがちょっと追加されてるだろ?」
タツの言うように選んだ職業に該当するようなスキルが追加されている。
「確かにあるけど……なんというか反応の大きさと結果が合ってないがっかり感はどうしても……」
「「分かる!!」」
噛み締めたような声で力強く頷く陸自隊員二人。
同士がいた事で俺の脱力したような気持ちも少しづつ治まってくる。
「選んだ職業情報控えたいから、見せて欲しいかな」
他の二人の確認が終わったタイミングでタマが言ってくる。
順番はタマの近くにいるユウ、平課長そして俺の順になった。
「まあ、社会的な部分そのままみたいな職業だけど」
俺も気になるので近くに行くと、ホログラフに表示されたいるのは【商人】だった。
ゲームのイメージだと社長とはズレているような感じだけど、会社はお金稼いでるから確かに商人の中になるのかも思う。
起業の第一理由は金だし。
イメージ的にト〇ネコみたいなのが商人像として浮かんでしまう。
タマは念のため言葉ではなく職業とスキルを画面を見てメモっていく。
「私も、一般社会そのままですが」
次の平課長がホログラフを見える状態にする。
選んだのは【役人】だった。
マジでそのままだ!!
ユウのように考える余地もなく職業名そのままだった!!
「せっかくなのに、他二つに惹かれる余地なかったんですか……?」
「もしかしたらダンジョン外でも有効な事があれば、有利になるかなと」
たまらず質問をしてみると、今後の可能性を考えての答えが返ってくる。
あれ? もしかして興味をベースに選んだの俺だけだったりするのか……?
いやいや、興味だけでなく適正も考えるとこの職業になるから二人と同じだ。
「俺も一般そのままだけど」
「まあそうで…………す~?」
タマがメモ取り終わったタイミングでホログラフを見せると、語尾のイントネーションがおかしい返事がきた。
「タツ! タツ! 私、目が疲れちゃったみたいだからメモ交代して」
「いや……俺も……目が疲れているみたいだ……」
そう言って頭を振る陸自組。
やっぱり光源があっても弱いので、メモを取るのは辛いのだろうか。
残念ながら目薬は持参していないのでどうしようかと思っていると
「まあアッキーらしいか、【学者】は」
「「「んなわけあるかっ!!」」」
ユウが感想を言ったが、残りのメンバーからの総ツッコミが入った。
「ぇ? なにが??」
「ぇ!? アッキーなんで疑問が出るの?? 選択おかしいでしょ!?」
「言いたい事は分かるけど、アッキーなら【学者】おかしくないと思う。 ベアキラーの印象が強いと確かに違和感しかないだろうけど」
何が問題なのか理解してない所に、苦笑しながら間に入ってくれる旧知の友。
こういう時は付き合いの差が出るなぁ。
「見た目とは裏腹に結構考えたり、色んな事に興味持ったりするタイプだから性格的な面では合ってるんだよ。 後、魔法ってのも大きいか」
「全く仰る通りで」
俺の選択した理由を正確に読み取って答える親友。
一緒に来てくれてよかった。
「見た目とか、実績の部分から言いたい事はあるだろうけど、職業選択自由なんだしアッキー責めないでよ」
ユウの説明でも納得しきれないようだけど、選択自由と言った手前しぶしぶ追及を諦めてくれる。
「えっと、増えたのは【マジックボルト】と【隠し通路発見】、【鉱石発見】っと。 ……あれ? なにこれ?」
「ぇ? 他の人にはないの?」
不満そうな感じで、メモッていたタマが王冠マークを指さして疑問を口にする。
俺の王冠の位置を見ながら他の人達は自分の画面を見直す。
「……私もあります」
結果あったのは俺と平課長だけだった。
先にクラスチェンジした他の冒険者達にもなかったらしい。
「私達にも見えるようにオープン状態でお願いね~。 あ! ゆっくりね!!」
さっきの一件で物凄く警戒されたようで、細かい指示が飛ぶ。
平課長とタイミングを合わせて、王冠アイコンをタッチするとポップアップでウィンドウが開く。
書かれているのは……
************************************
【称号】
ベアキラーと呼ばれし者
************************************
……
…………
………………
「えっと、目薬めぐすり……」
ごそごそとポケットを漁っていると、4人分の手が肩に置かれる。
皆がどんな顔をしているのか見るまでも伝わってきて、俺の動きが止まる。
「「「「ダンジョン公認のベアキラー♪」」」」
「そんなのありえないだろ~~~~~~~~!!!!」
全員の声をかき消すように叫んだ俺の声は、ダンジョン1階に響き渡り地下2階へ続く階段付近に詰めていた陸自2人が駆け付けるほどだったらしい……
声に反応して地下2階からモンスターが出てきたらどうするという説教をした後に、事情を話すと肩を震わせる。
一度は沈黙したベアキラー騒動だけど、ダンジョン公認のベアキラーという事で一般化しそうだと感じ目の端から雫がこぼれる。
ダンジョン、俺はこんな驚きは望んでない…………
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