5 ダンジョン対策会議1(魔法とMPの件)
「今日の本題の議題は終わったけど、他に何か話しておきたい事持ってる人いる?」
「それじゃ、もう一つ良い?」
俺は手を挙げて先日の戦闘で気になっていた事を共有する。
「魔法辺りについてちょっと話しておきたいんだけど」
「何か分かったの?」
「新しい魔法が使えるようになった」
「「「あ~、アレね」」」
ダンジョン内で目撃をしている側は微妙な顔をしながら声を発する。
「なんかマズイ魔法なの?」
「マズくはネェけど……、当たったら体に風穴空く! 【マジックボルト】の比じゃネェ!」
「蟻の体を突き抜けて壁まで届く魔法の発信源に向かっていくの、かなり怖かったよね」
「イヤ、背中側から撃たれるのもかなりコエェぞ。 タイミング測っても、手元狂ったら死ぬし。 まあ【マジックバレット】無かったら蟻の物量で死んでたンだろうけど」
「……やっぱり、アッキー武器いらないだろ!」
俺の魔法の俺への心境を思い思いに口にする面々。
当時は生きるか死ぬかの場面だったので色々押し込んでいたのだろうけど、思い返すと恐怖がぶり返してきたようだ。
撃つ側も結構神経使ったけど、被弾する可能性のある側はその比ではないのだろう。
「それで、覚え方なんだけど……発想?」
「いや、唯一覚えた人物が疑問形で言われても……」
「確証ないんだよ。 危機的状況でこういうのがないとと思って考えてたら最初の【マジックボルト】と同様に頭に魔法名と使い方が浮かんできたんだから。 ……ところでこの中に魔法使える人っている?」
「「「「「使えない」」」」」
「私は使えます」
宮川樹里香だけは手を上げながらできる事を伝える。
7人いる中で魔法を使えるのは2人か。
職業に依存するせいか、使える人数はかなり少なそうだな。
「使えるのは【マジックボルト】だけ?」
「そうですね。 職業を選択した時に覚えたモノだけです」
「【マジックボルト】では足りないのをどうにかしようと思ったことない?」
「いえ、そもそも今までの環境が魔法自体使い難かったものですので……」
前の所、ブラック企業ならぬブラックPTと呼んでも差し支えない所にいたからしょうがないか。
「じゃあ、宮川さんとは今度魔法色々と試してみようか」
戦力アップという観点と俺の考えが正しいのかという実証の約束をし、新しい魔法を覚えるだけでなく既存の魔法もイメージが大きく作用する事を伝える。
「この辺りはゲームに造詣がある人は理解しにくいだろうけど、どう使えるのかを考える事で幅が大きく異なるっていうのが、この前の探索で分かった事かな」
ゲームだと魔法や特技というのは定められた効果でしか反映できないが、ダンジョンでは自分のイメージ次第で広がりが無限大になると考えられる。
魔法を使える人にとってはここの理解の差が数値に表れない大きな差になるのではないかと、俺は考えている。
「……これもまとめる必要があるな」
「それと、魔法に関連してMPの事なんだけど……0になると死ぬかもしれない」
「「「「「「はい!?」」」」」」
想像してはいたが、やっぱりこれもすんなり受け止めてくれないか。
「他のダンジョンで魔法の使い過ぎで体調不良を訴えた例は無いの?」
「いや、それは聞いたことないけど」
「……タツ、もしかしてアレってそうじゃないの? 魔法使いが体調不良を訴えているけど過度の緊張だと判断されてるやつ」
「その時のMP状態って報告上がってる?」
報告書やL〇NEの個人的なやりとりを探してもらったが、MPの記述はなかったらしい。
慣れてない戦闘が続いた為の緊張の為と処理されてれば細かい情報を取得していないのは仕方がないか。
緊張と処理されるのであれば、俺と違って軽度の症状で止まっているだろうし。
「俺の時で言うとMPが50%くらいから体に悪影響が出てきて、恐らく20%くらいからはまともな戦闘にならないくらいになった」
「アッキーが死ぬかもっていう根拠は? Web小説だと0でもマインドダウンが一般的だろ?」
「試した訳じゃない……というか万が一があるから試せないけれど、ゲームの極一部にMPが0になると死ぬタイプのモノもある」
「そういえば、いくつかそういうのやったことがあるかも」
「後は考え方次第なんだけど、現実的にも精神が肉体に作用を及ぼす事は言われている。 そこからMPを精神力と捉えるなら、体力が0で肉体が死ぬのと同様に精神力が0になった時に精神が死ぬと考える事ができると俺は思う。 マインドダウンで済むんだったらそれのがいいんだけど」
タツは顔を天井に向けて、今までの経験から俺の考えを吟味している。
こういう話になると会議に入ってる人だと、話ができるのタツだけになるんだよな。
「ボクちょっと分からないんだけど、マインドダウンって何?」
「MPが0になって気絶する事。 それだけでは死にはしないけど、1人ならモンスターに気絶中に殺される可能性が高い」
「ンでも、マインドダウンか死ぬかの2択じゃなくて大丈夫な可能性もあるんじゃネェの?」
「確実性を求めるならもう少しデータを取る必要があるけど、俺の魔法を使った体調の悪化をMPの減少が原因と判断と考えるならその2択だ。 あそこまで体調が悪化してマインドダウンにすらならないというのは考えにくい」
「私、これから魔法を使うの怖くなってきました……」
分からないことだらけなんだから、慣れていくしかない。
村上紗季は話が途切れるタイミングを狙って聞こうとしていたんだろうど、話の流れによっては聞けなかったのかもしれない。
ダンジョンリテラシーを身に付ける場所が早く必要だな。
今入院中の方々に退院後頑張ってもらえる様に気合の念を送っていると、タツが俺の言葉の検討を終わったようで、天井に向けていた顔をゆっくりと正面に戻す。
「確かに現状から考えると、マインドダウンより死ぬという可能性の方を考えて動いた方がいいか。 MPが0になる前に悪影響が出る形のは記憶にないからケースを当てはめる事ができないけど、症状から考えると可能性は高い」
タツも結局は俺と同じ結論に到達し、これも早急に他のダンジョン組に連絡をいれるようにすると言ってくれる。
「ところで、MPの回復手段って何か分かってる? 寝たりすると回復するのは分かってるんだけど、ゲームのポーションのように非常時にすぐ効果があるのが知りたい」
「MP自体に今まで注目してなかったから聞いてない…… 確認してみるが、恐らくそれもこれから調査していくことになる」
その後も、少しゲーム等の知識不足について軽く全体で共有した。
自分も把握しきれてない時はつい自分の理解の範疇の言葉を使ってしまうので、自分の周りにいる人が会話に入れるようにしておきたいと思ったからだ。
「始めてから結構時間経ってるけど、他に何かある人いる?」
何気にもうおやつの時間だ。
会議中に食事を運んでもらったりするので、食事を抜いたわけではないがずっと座っていて疲れたような感じもでている。
「ボクが発言しても……いいかな?」
事前に予定されていた参加者じゃないからか、それともみんな疲れが見えてきているのでその申し訳なさか、村上紗季が普段の活発さは押さえて伺うような視線を全員に流しながら手を挙げる。
「気にせず言いたいこと言ってみて」
「和田さんの発言を前提に考えるならダンジョンの重要度がかなり大きくなると思うんだよね。 無職に限定せず人選まともにして欲しいんだけど……」
言葉を聞いた瞬間に、陸自側の全員が高速で顔を背けた。
実害が出ている事は会議にいる全員が認識しているので、何もモノ申せなかったのだろう。
この村上紗季の爆弾発言でダンジョン対策会議は幕を閉じる。
これからの指針が立ったり、俺の考えを全員で共有できたのは収穫だった。
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