2.「クラスのアイドル、ではなくアイドルのいるクラス」

 一条かもめに出会ったのは5月の初めだった。


 透明人間を描いた創作物は世にたくさんあるが、かもめが更に厄介なのは「所有物もすべて透明化させてしまう」特性だ。今彼女が持ち歩いているであろう、カバンも財布もスマホもオレには見えない。もちろんオレ以外の人間にも見えない。


 ということは―――社会化された人間が日々当たり前のように行っている「お金を支払って商品を受け取る」なんてこともできない。仮に彼女がものすごい富豪だったとしても、そのお金が見えなければ意味をなさない。

 貨幣のやりとりによって助け合って生きていくことが前提の現代日本では、彼女は一人では生きられないのだ。



 オレと出会ったとき、彼女は既に丸2日間も何も食べていないと言っていた。


「どんなに腹が減っていてもモノを盗んではいけない。」

「売れ残ったおにぎり1つくらい、なくなっても誰も困らないでしょ?」

「オレはコンビニでバイトしているから分かるんだが、お店ってのはいくつ商品を仕入れて、いくつ商品が売れたのかを厳密に数えているんだ。数が合わなかったら当然万引きされたとバレる。オマエが犯人として捕まることはないかも知れないが、オーナーや店長は心を痛めるんだ。」


 オレとかもめがした契約はこれだけだった。

 それさえ守ってくれれば、当面の食事はオレが世話してやる―――


 ということで、彼女がさっきコンビニで買った朝食もオレの出費だし、透明人間を連れて満員電車に乗るワケにもいかないからオレ達は徒歩で学校に向かっているのだ。


 ◇


「オマエも授業を受けていった方がイイんじゃないか? 透明化が治ったときに授業についていけなくなるぞ。」

 かもめはオレと同じ高校2年生とのことだ。

「いやいや、学校によって授業の進みはちがうから意味ないでしょ。私は昼休みまで校内をブラブラしているよ。」

 学校に着いたら、そう言ってかもめはどこかに行ってしまった。まぁ、そう言うだろうなとは思っていた。


 我が家は母親が在宅業をしているためマンションに置いていくワケには行かず、昼食の問題もあるためこうして学校に連れてきている。

 透明人間が学校をうろついて何やってるのか気になって一度「待っている間は何してるんだ?」と訊いてみたら、『Splatoon2』のヒーローモードを全ブキでクリアしたと言っていた。よっぽどの物好きしかやらないやりこみ要素を学校でやってんじゃねえ。



 ちょっと寝坊したため、教室にはもう人が8割くらい揃っている。何人かの女子に挨拶されたので、返事をして席に座る。


 ふと、ちゃんと言いつけ通りに歯を磨いたか気になったのでLINEでメッセージを送る。

 「父親かよ」なんてアイツには言われたが、透明化の一番のネックは「病院に行けない」ことだ。栄養状態は最優先で気にしなくてはならないし、歯医者さんの立場になってみれば、透明人間の虫歯の治療ほどやりたくないことはないだろう。


「お? 準稀じゅんき、カノジョでも出来たのかー?」

 そんなメッセージを打ち込んでいたら、朝練終わりらしい野球部の足立あだちがスマホの画面を盗み見て茶化してきた。


「やっぱ髪を伸ばしてワックスとか使っちゃう男はモテるよなー、な? 熊?」

 伸ばしたと言っても5~6cmだぞ。坊主頭にコンプレックスでもあるのか足立。

 足立に声をかけられた同じく野球部の小熊こぐま(通称:くま)はこちらを一瞥すると「どうでもいい」とさっさと自分の席についてしまった。

 しょうがない。足立みたいな例外もいるが、野球部の連中は基本的にオレを嫌っている。そんな関係でも同じ閉鎖空間で生活しなくちゃいけないのが、学校という場所なのだ。


「カノジョとかじゃねえよ。妹みたいなもんだ。」

 ウソは言っていない。かもめはカノジョじゃないし、恋愛感情も抱いていない。悪いヤツではないと思うし、尊敬できるところも多いが、アイツに対する感情は「コイツが泣くようなことがあったらイヤだな」というものなので妹に対するものに近い。


秋由あきよしくんってカノジョいないの不思議だよねー。」

「見た目は悪くないのにねー。」

 前の席の女子達がキャッキャッと会話に入ってきたら、足立がオレの株を下げることに執心してきた。

「いや、準稀は超面倒くせえからオススメできないよ? 面白い漫画を見つけたから昨日の夜に全巻一気読みしたぜーって言ったら、長時間の読書は視力の低下につながるから1日1時間程度に留めておけとか言ってくるヤツだよ?」


 安心しろ、足立。女子の「カノジョいないの不思議ー」ってのは、男子で言うところの「オマエが日本代表の監督だったら1番バッターは誰にする?」くらいの日常会話だ。決して脈があるワケではないんだ。勘違いしてはいけないんだ。ちなみにオレだったら1番を秋山翔吾、2番を山田哲人にする。


「オレの家には世界一かわいい妹がいるからな。他の女になんて興味は湧かん!」


 オレがそう言うと、会話に混じっていなかった人達も一斉に吹き出した。これがオレの教室でのポジションだ。「妹が好きすぎる残念なシスコン野郎」としておけば、男にも女にも無害だと思ってもらえるからな。それに、ウソではないし。ウチの妹、世界一かわいいし。

 しかし、ふと小熊の方を見ると、ヤツは1ミリも笑っていなくて目が合うとすぐに逸らされた。


 クラスの話題がコイバナからウチの妹の話にシフトすると、今度は「写真を見せて」「紹介して」とやんややんや収拾がつかなくなってしまった。その時、


「もう、やめなよー、そろそろ先生が来るよー。」


 すんと体に落ち着くタイミングで誰かが放ったその言葉で、自然にみんな「そうだねー」と落ち着いて席に戻っていった。騒ぎまくる高校生の一団がたった一言で落ち着いてしまう、こんなことができるのは一人しかいない。


 右を向くと、菱川がこちらをチラリと見て微笑み、人差し指を口元に持ってくる。「黙っててね」ということか。

 その仕草でときめかない男子高校生はいないだろう。汐乃の笑顔が天使のそれだとしたら、菱川のその笑顔は小悪魔のようなゾクゾクする美しさだった。



 菱川ひしかわ なぎさ――――

 少しだけ明るめのふわふわの髪を肩口で揃えているミディアムボブの美少女で、オレのクラスメイトにして、天下無双のアイドルだ。

 この場合の「アイドル」というのは「クラスのアイドル」とか「学園のアイドル」みたいな比喩ではない。ステージに立って歌って踊り、ドラマに映画にTVCMに引っ張りだこで、グラビアでは水着姿も披露している現役ばりばりの芸能人である。


 ありとあらゆる分野に秀でていて、最近では雑誌に連載されているエッセイなんかも話題になっていたが、彼女の原点は「演技」にあるらしい。小学4年生のころに主演したテレビドラマは社会現象にもなり、「天才子役」として日本中に顔を覚えられた―――という情報は、芸能情報に疎いオレに汐乃が熱弁して教えてくれたコピー&ペーストだ。


 1年生のころは同じ学校に菱川が通っているだなんて知らなかったし、話題にも聞いたことがなかったので、2年生で同じクラスになったときは驚いた。しかし、すぐに納得した。彼女は自然とクラスに溶け込んでいるんだ。

 芸能人が同じクラスにいたら、普通は周りに人だかりができるか、逆に近寄りがたく思われて距離をとられるかだと思うのだが……クラスの中での彼女は完璧に「普通の女子高生」なので、自然と女子グループの中の一員に入って、自然と会話に加わり、さっきみたいな男子の馬鹿話には自然にクスクス笑う。このクラスにいる限り、彼女が国民的アイドルなんてことはみんな忘れてしまうのだ。


 「天才子役」―――漢字にすればたった4文字の言葉なので、彼女を形容する表現としてはすっかり手垢がついていたと思うのだが。クラスの中で適切なポジションを保っている彼女を見て、初めてオレはそのすごさを実感した。


 ◇


 昼休み、学校の中でも特に人が来ない廊下の端っこでかもめと合流する。

 三食世話をするという契約をしたものの、高校生が週3のバイトをするだけで彼女の食費を賄うのは難しい。朝食はコンビニで買ったが、昼食は母に頼んで弁当を多めに作ってもらい、それを分けることにしている。なので、オレは朝食も多めに頼んでしっかり毎朝食べているのだ。


 母からすると、最近やたら食欲旺盛になったくらいの感覚だろう。


 かもめが用意した透明のタッパーに弁当の中身を分けていく。

「やったー、唐揚げあるぞー。」

「朝もチキン食っていたろ、オマエ。煮物も食べなさい。味が苦手な野菜は、好きな唐揚げと一緒に口に入れてしまえばイイんだ。」


 タッパーに分けた先から「彼女の所有物」と認識されて、どんどん透明になっていくオカズ達。

 先週は5:5の比率で分けていたから、いくら多めに作ってもらった弁当とは言え二人とも食べ足りなかったのだが……今週は2:8の比率でかもめに多めに分けてやることにした。オレの足りない分は、この後ここに来る人が埋めてくれるので。



 座り直した際に金属の棒のような感触が手に触れた。

「オマエ、バット持ち歩いてるのか?」

「うん、盗んだんじゃないよ? もらったやつだよ。」

「それは疑っちゃいないが、なんでこんなの持ち歩いているんだ?」

「夜道で変質者に襲われたときにブキとして使おうかと。」

「変質者もわざわざ透明人間を狙ってこないだろ……」


 そこまで言ったところで、かもめが声のトーンを下げる。

「しっ、来たよ。」

「あぁ、じゃあ黙って弁当を食べててくれ。」


 ◇


「お待たせー。自販機が混んでてちょっと遅れちゃった。」

 菱川なぎさが左手に250mlのパックのお茶を持って現れた。一人で、オレのところに、オレに会うために、やってきたのだ国民的美少女が!


「ハイ、約束のお弁当。」

 そして、ランチバッグから弁当箱を2つ取り出し、片方をこちらに渡してくる。100円ショップで買ったと思われる使い捨ての容器だが、なかなかオシャレなやつだ。「食べ終わったら容器ごと捨てちゃってイイから」と言われたが、捨てるのももったいないな。


「って、秋由くん、もうそんなに食べてるの? 私が作ってきたの結構な量あるけど、食べきれるかなぁ……」

「大丈夫だ、胃袋2コあるからな!」

「何それっ、意味わかんないよ。」

 フフッと笑う菱川。

 胃袋が2コあるというのはウソではない。オレの胃袋と、オレの後ろで黙々と母親が作った弁当を食べているであろうかもめの胃袋だ。……って?


「待て、これって菱川んちのおばさんが作ったんじゃなくて、菱川本人が作ったのか?」

「そーだよ。だって、私一人暮らしですもん。」

 マジかよ。

 交換条件として菱川に弁当を頼んだのはこちらに切実な事情があったからなのだが、国民的アイドルに手作り弁当を要求するだなんて、なんつー罰当たりなことをしてしまったんだ。


「いやいやっ、秋由くんは気にしなくていいよ。私はいつも自分の分のお弁当を作ってるから、二人分作るのも全然大変じゃないからね。それだけのことをしてもらっているんだし、遠慮せずに食べてよ。」

 そう言って、菱川もお揃いの弁当箱(使い捨て)から野菜の肉巻きを上品に食していた。オレも食べてみたがとても美味い。菱川の作る料理は、家庭の味がするというか、オレ好みの味付けだ。

 歌もダンスもこなし、演技の天才で、言うまでもなく美少女で、勉強もしっかり出来て、料理も上手いとは、完璧超人なのかコイツは。そう言えば、オレの分だから弁当箱は使い捨てなのかと思いきや、菱川自身の弁当箱も使い捨てなんだな。


「つか、菱川。よく一人で抜け出せたな。いつも一緒にいるクラスの女子達に、どこ行くのか訊かれなかったのか?」

「あー、うん。」

 菱川はちょっと言いにくそうにする。


「秋由くん、私のことを“かわいい”って思う?」

「……まぁ、モテるんだろうなとは思うよ。」

 それも生半可な「モテる」ではない、日本中から愛されるスーパーアイドルだ。

 子役のころから人気者だったこともあって、菱川の人気は決して同年代の男子だけから支持されたものではない。日本中のおじちゃん・おばちゃん・おじいちゃん・おばあちゃんからも「なぎさちゃん」と呼ばれて「娘にしたい芸能人1位」「孫にしたい芸能人1位」に選ばれ、男性からも「恋人にしたい芸能人1位」「お嫁さんにしたい芸能人1位」に選ばれ続けるだけでなく、同性である同年代の女のコ達からも「友達になりたい芸能人1位」「お姉ちゃんにしたい芸能人1位」「妹にしたい芸能人1位」に選ばれる全方位的な人気者なのだ。


「でも、私……顔のパーツ自体はそんなに良くはないんだよ。」

「……」

 国民的美少女が何を言いますか、と俺以外ならツッコんじゃっただろうな。

「顔だけなら同じグループの菜々香の方が美人でしょ?」

「……」

 それはまぁ、うんそう思う。とは言わなかった。

「私はね、雰囲気でモテてるの。」

「は?」

「“美少女というキャラクター”を全身で演じている、というか。」


 「天才子役」という4文字の言葉を思い出した。


「つまり、菱川は自分は美少女じゃないけど、美少女を演じることで周りからは美少女に見られているって思っているのか?」

「うん。」

 そんなことで日本中が騙されるものだろうか?

 そもそも、一体何の話だこれ。


「だからね、“美少女というキャラクター”を演じるのをやめて、“そこら中にいる目立たない女のコ”を演じた途端にものなんだよ。」

 自嘲気味に言った彼女の顔はどこか儚げで、美しさよりも危うさを印象深くさせるものだった。放っておけない―――そう思ってしまったほどに。


「菱川、一つ前提が間違っているぞ。」

「ハイ?」

「オマエは最初に、私のことを“かわいい”って思うかって訊いたな。」

「うん。」

「今の話はオマエのことを“かわいい”と思っているヤツにしか通用しない話だ。だが、オレには世界一かわいい妹がいるからな! オマエが“美少女というキャラクター”なんてものを演じようが、オレの妹のほうがかわいい!」


 ちょっとの沈黙の後、菱川がぷっと吹き出した。

「アハハハハハッ! それがフォローのつもりなの? そうだね、秋由くんは私にあんま興味ないんだろうなーとは思ってたよ。だから、安心してこんなこと任せられるんだけどさ。」


 オレはウソは言っていない。

 オレの妹はかわいい。国民的アイドル:菱川なぎさよりもかわいいと思うのは本当だ。でも、菱川のこともかわいいとは思っている。興味がないなんてことはない。そこを言わないのはウソではない。



「昨日の夜、8時半から10時までマンションの周りを警戒して見回っていたんだが、ずっと張り込んでいる人とか車とかはなかったな。」

 本題に入る。

 オレと菱川はこの4月からクラスメイトだったが、こんな風に二人きりで(本当は後ろにかもめがいるけど)話すようになったのは今週からだ。先週の事件を解決した一人としてオレがネットニュースで取り上げられたことを知った菱川が、相談したいことがあると声をかけてきたのだ。


 きっかけは1ヶ月前―――

 インターネットの個人サイトに「大人気アイドルN.Hの自宅が発覚!」と菱川の住むマンションの写真と住所が載ったのだ。事務所がすぐに対応して大きく拡散される前にそのサイトは消されたため、そんなことはニュースにもならず、オレも知らなかった。


 しかし、大きく拡散されなくてもそれを見た人はいるし、そもそも最初にその情報を書き込んだ者がいる。先週あたりから誰かに尾行されている気がすると菱川は怖くなったという。

 マネージャーに自宅まで送ってもらえるときは問題ないのだが、タクシーで夜遅く帰ってくる場合は住所バレを気にしてちょっと離れたところに降りてマンションまで歩いているので、その道がすごく怖いと相談してきたのだ。


 気にしすぎかも知れない。だが、ストーカーか何かに狙われているのだとしたら放っておくワケにはいかない。昼食に弁当を分けてもらう代わりに、可能な限りオレが夜にマンションの周りを見回ってやることにした。


「本当にゴメンね。こんなこと頼んじゃって。」

「こっちは時間が余っているんだから、気にするな。夜にジョギングするついでにやっていると思えば一石二鳥だ。弁当ももらえるんだから一石三鳥だ。今日はフライドチキン祭りだ。」

「その場合の鳥は、鶏じゃないと思うよ。」

 クスクス笑う菱川はやっぱりかわいい。


「ただ、前も言ったが今日はバイトだから見回りできないぞ。」

「うん。マネージャーに送ってもらうように頼んだから大丈夫。ありがとう。」

 その代わりなんだけどーと、ちょっと言い出しにくそうに菱川は新たな頼み事を言ってきた。

「今日は学校終わったらスタジオに直接行くんだけどさ、そこで私が誰かに尾行されていないか後ろから同じ道をついてきて見てくれないかな?」

「そのスタジオってここからどれくらいかかるんだ? バイトに間に合うなら構わないぞ。」

 聞くと電車で二駅くらいの距離だったので、時間的には余裕だった。


 ◇


 「じゃあ、お願いね。また放課後ー」と、弁当を食べ終えた菱川は手を振って一足先に教室に戻っていった。



「私、あの人キライ。」


 菱川の姿が見えなくなるや否や、かもめが言い放った。


「そういやオマエ、顔が良い女は嫌いだとか言ってたm…ぶおっ!」

 まったく身構えていないところを横っ腹を蹴っ飛ばされた。いかに男女で筋力の量に差があるとは言っても、身構えていないところを全力で攻撃されたら苦しい。透明人間と暴力の組み合わせはヤバイぞ。


「別に、美人を妬んで言ってるんじゃないよ。私がイヤなのは男に媚びるあの態度だよ。」

「菱川はそんなタイプじゃないと思うけどな。」

「ほら、本人は全然気づいてない! アンタさあ、あんな風に頼られていることで“自分だけは彼女の特別な存在なんだ”って勘違いしてない?」


 図星だった。


「ああやって男の庇護欲が刺激されると、オレにだけ弱みを見せてくれたとか、オレが助けてやらなくちゃって思っちゃうんだよ。でも、イケるかもしれないという絶妙な場所で留まって、告白してきたりはできない適切な距離を保って男のスケベ心を利用するのがあの女のやり方だよ。」


 “美少女というキャラクター”を演じていると言った彼女。

 “そこら中にいる目立たない女のコ”を演じていると言った彼女。

 教室の中では“普通の女子高生”になりきっている彼女。


「あの人は“演技”って言ったけど、私から言わせてもらえばアレは“擬態”だね。」

「………」

「しかも、なんだよ! パーツ自体はそんなに良くないって! 演技なんてしなくてもムチャクチャ整った顔しているのに、まだ高望みするのか! いつまでも絵が上手くなりたいとか言っているTwitterの神絵師かよ!」

「ホントに美人を妬んでいないのか?」

 人の横っ腹を蹴っ飛ばしておいて。


「とにかく。だから今回は、私は手伝わないよ。」

「それで構わん。これはオレが勝手に請け負った話だからな。

 ……そういや、今日はどうする? オレがバイト終わるの待ってから帰るか、先に帰るなら鍵を貸すぞ。」

「こっそり玄関のドアを開けたところで妹ちゃんに見つかったりでもしたら厄介だからね。イイよ。確かこの辺にレトロゲーの店があったから、そこでも眺めているよ。」

 お金が使えないから買えないものを何時間も眺めるだけで楽しいのかとは思ったが、まぁウキウキしたトーンだったので放っておこう。


「あ、でも車には気を付けろよ。あの辺はかなり往来が激しいからな。」

「父親を通りこして、おじいちゃんみたいな心配し始めたな!」

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