第16話 柳川瑠衣⑥

 蓮はホテルの前に立っていた。

「ここは緋矢伯父さんの運営しているホテルだ。どうやら、ここがゴールみたいだね」

 蓮がホテルに入ると黒服の男がわらわら出てきた。

 そこには墓地で出会ったあの大男もいた。

「ここから先には行かせない」

「それ、さっきも、言ったよね。まあ、いいけど、又、返り討ちにするから」

 蓮は黒服の男達に向かって行った。



 ご飯を食べ始め、それから、30分後。

 料理をあらかた食べ終わっていた。

「ふう、食べた〜ご馳走様でした」

 瑠衣が手を合わせる。

「うん。美味しかった〜それより、瑠衣。電話鳴っているよ」

 置いてあった携帯電話のバイブが鳴り続けていた。

「蓮だな。蘭ちゃん。出てよ」

 瑠衣は携帯電話を投げる。

「いいの?」

 蘭が怪訝な顔をしてキャッチする。

「何か問題あるの?」

「いや、だって私、一応捕らわれているし」

「俺は蓮には言ったかも知れないが、蘭ちゃんには言って無いはずだよ。客人としてもてなすって言ったし」

「そー言えば」

「蘭ちゃんは連絡取ろうとしないし、誘拐犯になるなんて、俺嫌だもん。だから、出てよ」

 瑠衣が優しく微笑む。

(本当に悪い人には見えない)

「もしもし」

 蘭は言われた通り電話を取った。

『蘭なのか?』

「うん……」

『どうして、大丈夫か?』

「うん」

『そうか、あいつはいるか?』

「うん。ねえ、他の話を……」

『代わってくれ?』

 蘭が言いかけたが蓮が強く言う。

「……分かった」

 瑠衣に渋々携帯電話を渡す。

 瑠衣は受け取ると、すぐに部屋出た。

(どうか、何も起こりませんように)

 蘭の祈った。


 ホテル近くの広場。

 瑠衣は蓮と向かい合う。

「久しぶりだな。蓮」

「この野郎!」

 蓮が殴りかかろうとしたが、瑠衣は軽く避け、瑠衣に足を引っ掛け転ばせる。

「俺殺すつもりで、能力使えば? 前みたいに。殴る何て似合わないんだしさ。その為に枷も外したんだし」

「五月蝿い」

 蓮は起き上がる。

「しかし、よく、来られたな。見張りいただろう?」

「眠って貰った」

「そうか、特殊部隊も大した事ねーな。こんな奴1人に負ける何て。それともあれか? 全員不意打ちして殺したのか? どちらにしても、兄貴には伝えないとな」

「殺して無い」

「あっそう。特殊部隊の生死何て、初めから興味ねーよ。姉さんで無いからな」

「瑠衣に成りすました偽物が」

「まだ、俺の正体に気付いて無いのか、まあ、いいけど」

 瑠衣はナイフを出した。

「さあ、来いよ」

「くっ」

 瑠衣は蓮の腹部を蹴った。

 蓮は飛ばされ、花壇のレンガに背中をぶつけた。

「蓮。何、躊躇っているんだ? あの時はなんの躊躇いもなく姉さんを斬っただろう。今回も、そのつもりで、やれよ!」

「出来る訳無いだろう」

「制御の枷が全て外れていないからか?」

「違う」

「蘭ちゃんが人質に取られているからか?」

「違う。僕は」

「どうでもいいとか思って無いだろうな!」

 瑠衣はもう1度蹴りつけ、そのまま倒す。

「思っていない」

「だったら、来いよ。あの子がどうなってもいいのか?」

「分かった」

 蓮は風の剣を出そうとするが、風は集める事が出来ず、形を作らず消え去った。

「そうか、それが、今の限界か。まあ、いいわ」

 瑠衣はナイフを片付け、ベンチに座りタバコをくわえた。

「何故、攻撃しない」

「しても面白く無いだろう。鍵は2つしか無いんだ。全開じゃない蓮と戦っても、何も面白くない。最も、入口の特殊部隊だけで、異能力が使えなくなるんだから、昔に比べて弱くなったんだな」

「どうでもいい事だ。僕に力は必要ない」

「それじゃ、俺が楽しくないだろうが、それより、あの子可愛いな。何処で見つけたんだ?」

「見つけた……違う。勝手にやって来た」

「通りで、俺に見向きもしない訳だ。彼女、蓮にぞっこんだもんな」

「どうでもいい。蘭は無事なのか!」

「さあ、自分で確認すればいいだろう。ガキじゃあるまいし。約束通り、俺を見つけたんだ。返してやるよ。このホテルの最上階にいる。楽しかったぜ蓮」

 瑠衣はタバコを灰皿に入れ、立ち上がり、鍵を投げ蓮の目の前に落とす。

「又、遊ぼうぜ」

 瑠衣は蓮を置いて、ホテルを去った。


「蘭!」

 蓮が慌てて部屋に入る。

 蘭はベッドの上で横になっていた。

「うーん。五月蠅いよ。蓮君……あれ、蓮君」

 目をこすり、欠伸をする。

 眠っていただけであった。

「あれ、じゃないから、寝ていたけど、体大丈夫なのか?」

「うん。あまりに気持ちいいベッドだったから寝ちゃた」

「そうか、指を見せろ」

「うっ、うん」

 言われた通りにする。

 細い指が10本ちゃんとあった。

「良かった〜」

 蓮は安心して、ベッドに横になる。

「どうしたの?」

「何でもねーよ」

 少し蓮が照れていた。

「それより、蓮君、あの人本当に柳川瑠衣でしょう?」

「だろうな」

「知っていたの?」

「まあ、今日1日あいつの無茶苦茶に付き合ったから、君に手も出していないしな。瑠衣は火の鳥の力を持っているんだな」

「うん。そうみたい」

「柳川の血か」

 蓮が呟く。

「血?」

「うん、柳川家は何故か、異能力者になり易いんだ。僕、瑠衣、母さん、緋矢叔父さん、爺ちゃん、曾爺ちゃん……火の異能力者は希少だが、爺ちゃんと僕以外はみんなその能力者だ」

「それだけでも凄い」

「うん。まだある。僕を含めたその能力者は高い能力者でもある。僕が潜在的に強い風を発生させるのもそうだし、瑠衣の赤い指輪は母さんの力のコピーだ」

「ああ、青の炎ね。敵以外は無力な」

「元々あれは、母さんが作った指輪何だ。瑠衣の能力をカバーする為に作られたが、恐らく、母さんは瑠衣の力に気付いて、覚醒をしない為に与えたのかも知れない」

「何で?」

「瑠衣の力がそれだけ特殊だから、僕や母さん。緋矢叔父さん。柳川の人間も異能力の根本からは外れていない」

「ああ、精神エネルギーがどうのって奴?」

「どうのは無いから、まあ、そうなんだけど、瑠衣みたいな力を持った人は、5千人分の一」

「何だ。結構いるよ?」

「日本で今、いるだろう。異能力者5千人の中の1人だ」

「えっ、つまり……」

「世界に見ても数10人いるか、その位しかいないんだ。それだけ、瑠衣の力は特殊で、言ってしまえば、謎も多く、研究材料になり易いんだ。例え、もう少しいたとしても、医者が欲しがる力だ。どの道、実験材料になるのは必至だ。幸い、瑠衣が柳川の姓で、母さんの力があるから、今は安全だが、いつマウスにされるか分かったもんじゃないよ。まっ、どうなろうと、僕の知った事じゃないが」

「そんな事言わないの! 嬉しいんじゃないの?」

 蓮の頬を引っ張る。

「恩人に暴力するな」

「何よ。瑠衣は私に素直に接してくれたよ」

「あれは、柳川家家訓に基づく、フェミニストだろう。僕はあくまでも橘の人間だ。橘家にそんな家訓は無い」

「知らないだけじゃないの。全く」

「どうでもいいが、いつまでここにいるつもり? 君が無事なら、いつまでもここにいるつもりは無いんだけど」

 蓮は既に歩き出し、部屋を出ようとしていた。

「あっ、待って、蓮君」

 蘭も追いかけた。

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