第11話 柳川瑠衣①

 半年前。

 蓮には心が無かった。

 誰かに操られていたからだ。

 それを止めたのが、蓮の母親の橘琥珀であり、叔父の柳川瑠衣である。

 場所は柳川が個人で使う研究室。蓮の他に瑠衣と、そして、蓮の母親琥珀がいた。

「蓮。目を覚まして」

 琥珀は蓮を止めようとする。

「僕は至って普通だ。僕は全て分かったから」

 琥珀はファイヤーウォールで、蓮を止めていたが、蓮は楽々と解除する。

「おい、姉さんの言う事聞け!」

 瑠衣も苛立つ。

「君は相変わらず、邪魔だね。だから、今すぐ消えてくれない?」

 蓮は何かに操られながら、瑠衣の所に向かい、口にガスを飲ませた。

「蓮。何した……」

 瑠衣の鼻から血が出たのは、その後だった。

 瑠衣は生ぬるい感触がする鼻下を触る。

 べったりと血が付いた。

「蓮! ガハッ」

 口からも血を吐き、瑠衣は口を抑える。

 とめどなく流れる血は目からも流れ出た。

「毒を飲ませた。もう死ぬよね?」

 感情の無い蓮が言う。

 瑠衣はゆっくりと身体が崩れ、苦しみもがき出す。

「君は苦しみながら死ぬといい」

 苦しみに悶絶する瑠衣を見て嘲笑う。

「蓮、どうして、止めて、早く解毒剤を」

 蓮の母、琥珀が涙まじりに言う。

「解毒剤? そんなの無いよ。必要無い。僕は破壊者。だから、僕には何もいらない。親も理解者も、だから、壊す」

「そんな。私は止める。蓮を」

 琥珀はファイヤーウォールを出し、蓮を囲む。

「無駄な事」

 蓮は弾く。

「でも、止める」

 蓮を止める琥珀の戦いが始まった。

(冗談じゃね)

 瑠衣は苦しみながら、じっと、2人を見た。

 一方的に琥珀がやられている。

(何だよこれ……。俺は何も出来ないのか?)

 力が暴走した蓮が風の異能力を使い、刃徹底的に敵を殺そうとした。

 琥珀が言うに、暴走しているが、蓮は操られている。

 誰に?

 蓮の父。刹那にだ。

 刹那は蓮の身体を乗っ取り、蓮を暴走させた。

(だがよ)

 だが、それでも、蓮はあらがってもいいものだ。

(なのに、あいつの意識が感じられないじゃないか!)

 瑠衣の怒りは頂点に達した。

(ざけんな。ふざけるな!)

 その間に琥珀は蓮の攻撃を受け、倒れたていた。

 琥珀の身体から、とめどなく血が流れ出ており、動かない。

 蓮の攻撃で身体を貫かれ、それが致命傷だった。

 夥しい量の血が流れ血の海と化した。

(姉さん!)

「ざけんな。いい加減にしろ! 蓮! 何やっているんだ!?」

 瑠衣はふらふらと、起き上がる。

「ん? まだ、生きていたか」

「黙れ、蓮。いい加減、目を覚ませ!」

 瑠衣は蓮に向かい走る。

(身体が悲鳴を……)

 瑠衣はそれでも動きを止めない。

「この僕とまだ、やるんだ」

 蓮は立ち向かうが、瑠衣は目の前から消え、次には別の場所にいた。

(テレポート? 違う。これは)

「目を覚ませ! バカ蓮!」

 赤い瞳の瑠衣がいきなり現れ、蓮の頬を拳で殴った。

 蓮はそのまま、飛ばされ、壁に身体をぶつける。

「姉さん……」

 瑠衣は琥珀の所に行こうとしたが、身体を崩す。

「ゴホゴホ」

 血を出す。

「姉さん。姉さん……」

 手を伸ばすが琥珀に届かない。

 そして、ゆっくりと目を瞑り、動かなくなった。

 蓮が意識を戻したのは、そのすぐである。

「母さん。瑠衣」

 ようやく、蓮も状況を飲み込む。

 しかし、その時には全てが終わっていた。

 自分が何をしたのか、分かっていた。

「瑠衣……」

 蓮は急いで瑠衣の所に向かう。

 しかし、瑠衣は既に息をしていなかった。

「そんな。僕は……うわぁぁぁ」

 蓮はその場に身体を崩し、泣き出した。

 瑠衣の心臓は既に止まっている。

「そんな、嫌だ。目を開けてよ。死んじゃ嫌だ」

 蓮は頭を抱え、大きな声で叫んだ。

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