第13話 柳川瑠衣③

 瑠衣はクスリと笑い高級ホテルの一室に入る。

「蘭ちゃん。元気。むほっ」

「んな訳無いでしょう!」

 蘭が瑠衣の顔面に枕を投げ、枕が上手く当たる。

「こりゃ、厳しい」

 瑠衣は枕を拾い、ベッドに置く。

「早く私を解放させなさい!」

「そいつは出来ないな〜大事な客人だし」

「んじゃ、無理矢理でも脱出する!」

 蘭は特に拘束されている訳ではない。

 それ所か最高級のホテルに客人としてもてなされていた。

「うーん。そいつは難しいよ。ここホテルの最上階だし、いくら客として招待しても、ここは柳川財閥のホテルだから、無理に出ようとしたら、捕まるよ。警察にも手を回せるし、大人しくしてよ。手荒な真似したくないし」

「何よ。それ、私の指の大きさ計ったり、目隠ししたり、何処が穏便よ」

「違う?」

「違う!」

「だったら、仕方ない。俺も男の子だ。手荒な真似する」

 瑠衣は、ゆっくり、蘭に近付く。

「ちょっと、何するのよ」

 蘭は後退りする。

 しかし、壁にぶち当たる。

「蘭ちゃん。俺、蘭ちゃんが……」

 瑠衣がベッドの上に乗り、顔を近付け、キスしようとする。

 近付くと、恐怖よりも怒りが蘭を支配した。

「いい加減にしろ!」

 蘭は瑠衣の股を蹴る。

「うっ、痛いよ〜」

 床に落ち、のたうち回る。

 男の子の急所を上手く当てたようだ。

「蘭ちゃん酷いよ〜」

「酷いのはどっちだ!」

「だからってここは無いから、俺の男の子な部分死ぬ」

「死ね。そして生き返るな」

 さり気なく酷い事を言った。

「ああ、痛い」

 瑠衣は涙を拭いた。

「まあ、いいわ。この状況じゃ、蓮君に助けて貰う方が得策だし、手荒な真似しないんでしょ」

「ああ、保障する」

「じゃあ、いいわ。それで、あんたは何者なの」

「柳川瑠衣だよ」

「嘘ね。蓮君は死んだって言ってたわ」

「そうだったな」

「それで、誰なのよ」

「柳川瑠衣。モデル。1985年8月10日生まれ。血液型B型。身長183センチ。体重67キロ。好きな事は食べる事と女の子と遊ぶ事、と言うか、女子好き。特技は運動神経がいい事」

「そんなのブログに載っていたでしょう。女子遊びって何よそれ、そんな事を聞いているんじゃないの!」

「そう言われると、意外に傷付くんだよな〜柳川家は女子に優しくが家訓だから」

「どんな家訓よ。柳川家はフェミニストを唱っているのかよ」

「そうだけど?」

「そこは否定しないのね」

「当たり前だ。柳川の家訓としては、いい物だ!」

「あっそう。そんなに自分が本物だと言い切るなら、証拠を見せて」

「証拠……って言われてもな〜そうだな。あれしか無いか」

 瑠衣は懐からナイフを出し、刃を出す。

「ちょっと何するのよ」

 流石に蘭も焦る。

「信じて貰えないなら、自傷行為をするまでだ」

 瑠衣は左手で持ったナイフを右手に向かい振り下ろした。

「ちょっと、やめなさい!」

 蘭は急いで瑠衣を止めに向かった。



 瑠衣の地図を頼りに蓮は公園に足を運んでいた。

 何処にでもあるごく普通の公園である。

「ここは」

 蓮は10年振り位に足を運んだ。

 あまりいい思い出が無い、幼少期だったが、この公園もその場所であった。

『おい、誰だ。蓮を苛めた奴は』

 蓮が人に対して心を開かなくなったのは、幼少期のエピソードがあったからである。

 蓮は幼少の時から、異能力が使え、天才であった。

 周りは不気味に思い、蓮を苛めたのだ。

 それを助けたのが、瑠衣であった。

 瑠衣も子供の頃から、力を扱う事が出来たが、人懐っこい性格が功を奏し、友達が沢山いた。

 蓮は天才であったが、人間関係を築くのは凡人以下だ。

 社会を生きるなら、瑠衣の方がずっと、上手かった。

 しかし、蓮を苛めると、瑠衣が許さなかった。

 ドロだらけになっている蓮を見て、瑠衣が怒りを見せた。

『やべっ、瑠衣だ』

 瑠衣より、5歳年下で蓮と同級生だった苛めっ子達は、瑠衣の強さを知っていたので、瑠衣が吼えると、苛めっ子達は逃げ出した。

 力では適わないと分かっていたのだ。

『おい、蓮。少しは抵抗しろよ。異能力使わないのは、いい事だけどさ』

 助けた後で、瑠衣が蓮の所に向かう。

 そして、無抵抗だった蓮に注意する。

『しても、変わらない』

『そう、言うなうよ。気持ちの問題だろう』

『僕は瑠衣とは違う。苛めっ子とも違う。僕は感情的に動かない』

『けどよ』

 瑠衣が困り果てる。

『悔しく無いのか?』

『別に』

『あっそう』

『助けてくれた事には感謝してるけど』

『はいはい。蓮、晩ご飯の買い物をして帰るぞ』

『うん』

 蓮と瑠衣が公園を去った。

「どうして、ここに?」

 蓮が公園の中央に入る。

「そうだ。タイムカプセル」

 蓮はそこに向かった。

『蓮。ここに、宝物を隠そうぜ』

『タイムカプセル? そんなのしても、すぐに掘り返されて、捨てられるだけ』

『夢が無いな。だったら、ゴミでいいよ。チョコレートの包装紙とか、カードのダブりとかさ。それを入れて埋めるんだ。10年後。蓮が20歳になったら、掘り起こそうぜ』

『瑠衣は25歳だよ』

『問題でもあるのか?』

『10年も憶えていられるの?』

 瑠衣の学力を蓮は把握している。

 瑠衣は正直言って、頭はよくない。

『憶えているって、絶対。さあ、埋めようぜ』

『仕方ない。食べているチョコでいいんだろ』

 瑠衣と蓮はタイムカプセルを埋めた。

 それから10年後。

 蓮が掘り起こした。

「最近掘り起こした後、真新しい箱。瑠衣、覚えていたんだ。でも、これは」

 箱を開けて中を見る。

 鍵と別の地図が出てきた。

 鍵は蓮の制御を外す為の鍵で、蘭が持っていた物だった。

「外せって事か」

 蓮は左腕の制御の枷を外す。

「で、次はここか」

 蓮は次の目的地に向かった。

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