第14話 柳川瑠衣④
「ちょっと、あんた、自分の命を何だと思っているのよ!」
蘭が何とか、瑠衣の自傷行為を止めた。
「命。全くそーだな」
「本当よ」
蘭はナイフを取り上げ、ナイフの刃をしまう。
「確かにそうだが、俺は1度死んでいるんだ。半年前に、そして、生きている理由は俺がそれなんだよな。何で俺だけ生きているんだよ。姉さんはあいつに殺されたのに」
瑠衣は唇を噛み締める。
「瑠衣……許せないの?」
「ああ、だから壊したい。あいつを」
「瑠衣……だからって自傷行為をするのは間違っているでしょう。あなたが、本物なのは分かったわ」
「信じてくれるのか!」
「と、言うか、私始めから本物か判断出来ないでしょう。会った事無かったんだし」
「あっ、そーいや、そうだったな」
「だから、そんな事もうしないで」
「そうだな。だが、いや、だからこそ知って貰いたい。俺が今、ここにいる理由を」
瑠衣は蘭が机に置いたナイフを素早く取り、自分の首筋を切った。
「ちょっと」
蘭は止めようとしたが、止められず、瑠衣の血が飛び散り、瑠衣が倒れた。
キャンプ場に足を運んでいた。
普通の川と山があるキャンプ場である。
「昔、遊びに行ったな」
蓮が11歳の時の話しだ。
蓮と瑠衣と蓮の母、琥珀と遊びに来ていた。
『蓮。魚釣れたか?』
瑠衣がテントを組み立て終え、川に向かう。
『何?』
ポテチを食べながら本を読んでいた。
『サボるな!』
瑠衣が叫ぶ。
『サボってはいない。魚が釣れるまで、時間を潰しているだけ』
『それをサボりって言わないか?』
『釣りとは、実に効率が悪い。待ち時間が無駄だ。道具を支えていれば、手が空く、余裕で読書が出来るじゃん』
『おいおい、もっと、キャンプを楽しめよ』
『2人が無理矢理連れて来たんだろう。僕を巻き込ませて』
大体、蓮は琥珀と瑠衣の無茶苦茶に付き合わされる、いわゆる巻き込まれ体質だった。
今も昔も差ほど、立場は変わっていなかった。
『いいじゃん。たまには自然の中で食事をするのもさ。って、蓮、釣れているぞ』
『えっ』
蓮が急いで、道具を握る。
『重い』
しかし、蓮の力が弱く、魚の勢いに負けている。
『蓮。加勢するぞ』
瑠衣が蓮の身体を支える。
『これ、主じゃないの? ゲームにあるじゃん』
蓮がゲームの世界の話をする。
『主? 聞いた事無いぞ』
『でも、重いよ。手が痺れる』
『頑張れ』
『瑠衣が、嫌、叔父さんがもっと力を入れれば、いいんだよ』
『お、オジサンじゃない!』
蓮の言葉に瑠衣が過剰反応して、とてつもない力を発揮し、魚を釣り上げる。
蓮の身長の半分程の大きさの鮭が釣れた。
『すげぇ』
蓮が興味深く見る。
ゴチン
『あっ、いた』
蓮の頭を瑠衣が殴る。
『俺はオジサンじゃない』
確かに叔父ではあったが、叔父さんと言われるのを瑠衣は嫌った。
『殴る事ないだろう。お陰で、デカイの釣れたんだし』
『そう言う問題じゃ……確かに大きいな。美味そう』
瑠衣が鮭を軽々と持ち上げる。
『姉さんに料理して貰おうぜ』
『うん』
蓮と瑠衣は川を去った。
9年後。
蓮は1人で釣り場を歩いていた。
「確か、この辺りだったな」
蓮は当時の釣り場を散策する。
「あった」
川の中に箱があった。
蓮はそれを取り出し、箱を開ける。
「又、鍵と地図」
鍵は蓮の右足の制御の枷を外す物だった。
「で、次は」
蓮は次の場所に向かった。
蘭は瑠衣の所に向かう。
「瑠衣。何を考えているのよ」
「いったたた」
瑠衣は起き上がり、首筋に手を当てる。
「当たり前でしょう。何考えて、って大丈夫なの?」
「ああ、この位なら、血もすぐに止まるし、すぐ治るよ」
瑠衣は手を放し平然と話す。
「何、言っているの……本当だ」
蘭が瑠衣の傷口を見て驚く。
「異能力の中にも特殊な能力があるんだ。やたら、能力が高いのもそうだが、俺の場合は力こそ弱いが、その代わりに異常なまでの回復力が備わっているんだ。まあ、脳や心臓が急所なのは変わらないし、年を取れば能力自体が衰えるから、回復力も弱くなるんだがな」
瑠衣は悲しい顔をする。
「火の鳥。俺の力はそう呼ばれているんだ」
瑠衣はナイフを片付ける。
「火の鳥?」
「ああ、不死鳥とかも希に言われるが、力の本質は見ての通りの異常なまでの回復力と運動能力だ。エリアス能力とは本来、外界にある自然エネルギーと精神力を混ぜ合わせて、力を放出させるんだ。比率で言うなら、外界のエネルギーが7か8、精神力が2か3だな。俺の場合は全てが逆だ。力その物が体の中にあり、精神力と繋がっている。回復に繋がっているから、血液に特にエネルギーがあるらしい。勿論、外界に力を放出する事も出来るが、そんな巨大な力は扱えない。精々チャッカマンがいい位だな」
「だから、生きていたの?」
「ああ、頭や心臓は無傷だったからな。まあ、それでも全身に回った毒で、1回心肺停止になったよ。そもそも覚醒が必要でね。火の鳥は覚醒が面倒で、死にかけ無いと力が発揮されないんだ。俺の場合は本当に三途の川渡ったけどな」
「でも、この間は随分と力を出していなかった?」
「カラクリは姉さんの指輪だよ。姉さんは俺の力を見抜いたらしくってな。力を隠す為に力を与えたんだと思う」
瑠衣は赤い指輪を外して蘭に見せる。
禍々しさは感じない、キレイな赤い石がはめ込まれている。
「こいつは火を吸収し、エネルギーを増幅させ、姉さんの力を扱う。同じく火の能力者だった姉さんは、聖なる炎を使うんだ。そうでもしなけりゃあれだけの威力は出せないよ」
「それで……理由は分かった。じゃあ、何で蓮君にそんな事するの? 瑠衣は蓮君の解者じゃ無かったの?」
「それは昔の話だ。許せるかよ。大事な人殺されているのに。俺は蓮の為に理解者になった訳じゃない。蓮の母親。俺の姉さんの為に理解者になっていた。蓮は俺から大好きな姉さんを奪ったんだよ。許せる訳無いだろう」
今までギラギラ輝かせた瑠衣の眼が虚ろになる。
今の瑠衣なら、人も簡単に殺せそうだった。
(瑠衣は蓮君に復讐しようとしてる)
蘭には止める術を持ち合わせていなかった。
「悪い。タバコ吸ってくるわ」
瑠衣が部屋を出る。
(蓮君。来ちゃダメ)
蘭は蓮の無事を祈った。
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