第2話 橘蓮①
浅野蘭。大学4年生。
就職が既に決まっている3月のある日。
友人の稲穂と会話していた。
「へー。そんな天才児がいるの?」
浅野蘭は父親のコネで就職が決まり、残りの学生生活をエンジョイしていた。
容姿であるが、胸はぺったんこ。世に言う貧乳。顔はよくも悪くも無いが、自称美女である。
「そうなの。私の彼氏がテスト対策ノートを作って、出席日数を稼ぐ事して、自分は大学には殆ど行っていなかったみたいだけどね。先生方もその子の天才ぶりを恐れていたみたいで、あまり味方も友達もいなかったみたい」
稲穂も同じで、蘭も稲穂もいい所のお嬢様であった。
稲穂は蘭とは違い胸の大きい女性で、顔も美人である。
「そんな天才がねぇ、会いたいな。ねえ、その子何処にいるの?」
蘭は好奇心で稲穂に聞いてくる。
「さあ、彼氏が言うに。大学辞めたみたいよ。それに、あまり会わない方がいいみたいね」
「何で?」
「悪魔って恐れられているからよ」
「悪魔?」
「そう。よく分からないけど、その子、異能力者なんだって」
「へーそう」
蘭が急に真剣な顔になる。
「そうみたい。だから、あまり近付きたがらないみたいなの」
「それでも、私はその人に会いたい。居場所を教えて!」
蘭が食いつく。
「どうしたの? 蘭?」
「いいから、教えて!」
「うーん。調べてみるけど、期待しないでね」
「ありがとう。稲穂」
蘭は微笑んだ。
それから1ヶ月後の昼間。
蘭は蓮の家に足を運んでいた。
「流石、政治家の娘ね」
メモを見ながら、稲穂の情報網に感心する。
「さて」
蘭はチャイムを鳴らす。
『はい』
インターホンから無愛想な声がした。
「すみません。浅野蘭と言います」
『で? 君。宅配業者でも何でも無いよね? 僕になんの用? 出来る事なら、帰ってくれない?』
「で? じゃなく、橘蓮さんにお話があって」
ガチャ
扉が開き、黒髪に黒い瞳の少年と呼ぶに相応しい男が出てきた。
(可愛い)
蘭の率直な感想である。
少し目つきが悪いがそれを差し引いても、蘭にとって、蓮は愛くるしかった。
「僕がその橘蓮だけど、話し?」
「そうよ」
「あんま、気が進まないけど、とりあえず入ったら?」
あっさり中まで通してくれた。
蓮はリビングに連れて行く。
(やっぱり可愛い)
背中を見て余計感じた、小さい容姿は抱き締めるにうって付けた。
「蓮君。あのー、甘いの大丈夫? これ、ケーキですが」
蓮にケーキの箱を渡す。
「ありがとう。何か飲む?」
リビングまで行き、蘭を座らせ、無愛想に聞く。
「お構いなく」
「そう」
そう言ったら、何も出してくれなかった。
(まあ、いいんだけどね)
そんな蓮はアイスコーヒーを持ってきて、ストローを差す。
ケーキを皿の上に乗せ、フォークを刺して食べる。
「話しは何?」
蓮は蘭の正面に座る。
「その前に、蓮君が異能力者だと聞きましたが本当?」
「その話をするなら、帰ってくれる? 僕は滅茶苦茶に巻き込まれたくないし、力も2度と使いたくないんだ」
蓮は宅配弁当のビラを見ている。
完全に蘭への興味を無くして、昼ご飯のチョイスを始めていた。
「話しを聞いて」
「興味ない」
「母を殺した相手を、捕まえて欲しいの」
「そう。僕には関係ない」
(性格悪い)
可愛いのは容姿だけで、中身はへそ曲がりである。
稲穂が場所を教える時、気難しい男だと、忠告していたのを思い出す。
しかし、それで引く蘭ではない。
「ねえ、お昼作ろうか?」
「いい。普通に帰ってくれない」
蓮は既に丸を付けていた鳥のから揚げ弁当に決める。
「へー、から揚げが好きなの?」
蘭が横から顔を覗く。
「なんだ。君は。邪魔しないでくれないか」
蓮は少し怒っていた。
「だって、気になるから」
「君は僕を利用したいだけでしょう。構わないでくれる」
蓮はメニューを持って逃げる。
「あっ、待って」
蘭はそれを追いかける。
10分程、家の中を走り回る。
10分後蓮がバテて座り込んだ。
「蓮君。大丈夫?」
蘭が一応心配する。
そんな速度を上げて走ってもいなかった。
蓮の体力が極端に無いのだ。
「君は僕にとっての疫病神だ。どうでもいいが帰ってくれ」
「じゃあ、話を聞いてくれる?」
「君はどうしても引かないんだね」
「うん!」
はっきり返事をした。
「そう。仕方ない。話してくれ」
蓮はイスに座り、アイスコーヒーで喉を潤す。
「あのね」
蘭も座る。
「簡潔に話してくれる。長いのは嫌だから」
「さっきから、思っていたけど、友達いないでしょう?」
「友達とは何処から何処までが友達の定義なんだ? 確かに僕には友達はいないが、形の無いものを僕は信用していないんだ」
「寂しい子」
「僕の事を詮索するなら、帰ってくれても構わないのだが、君がどうしても話がしたいと言ったから、わざわざ時間を作ってやったんだ。そこん所を忘れないでくれない?」
(本当に性格が悪いわね。まあ、いいわ)
確かに話をするのが先決である。又、臍を曲げても困る。
「5年前の世田谷母子惨殺事件を知っていますか?」
「ああ、あれか。待って」
蓮は立ち上がり、隣の部屋に入り、5分もしないで戻ってきた。
スクラップブックを持ってきて、蘭に見せる。
「これだろう?」
「そうです」
『親子をバラバラに殺害し逃走。室内は荒らされていたが、通り魔殺人とも強盗目的の殺人ともとれた。第一発見者の証言では扉は開いていたらしいが、鍵は壊された痕跡もなく、窓から侵入した形跡もない。被害者は浅野蘭菊(43歳)とその娘の菊(12歳)の親子2人。血痕からリビングで殺害されていた。瞬間移動を使う風の異能力者の犯行か? どちらにしても、証拠が少なく、事件は迷宮入り』
「その時家にいなかった私と父は助かりました。でも、母と妹は……」
「そう。第1発見者は当時隣に住んでいた大学生か」
「はい。私はその人の連絡があって、すぐに私もやってきましたが、あんな簡単に人をバラバラにして、証拠が無くって、犯人は捕まらないんです」
「ふうん」
蓮はスクラップブックを閉じる。
完全に興味が無くなったようだ。
「で、気が済んだ?」
「気が済んだって。私は……」
「僕は話を聞くとは言ったが、解決するとは一言も言って無いけど?」
「解決してよ」
「して、僕はなんの特になるの?」
「お金が入るよ。2百万。情報料だけど、さっき形の無い物は信用できないと言ったでしょう。お金は?」
「お金は興味が無い。僕は幽閉されている身だ。お金があっても大した使い道が無いと思うけど? 例え、使い道があっても、僕はお金に困っていない」
「どうして?」
「この家は、僕の肉親が買った物だ。家賃は必要ない」
「周りにある本も、肉親が購入したの?」
「いや、これは僕が購入した物だ。幽閉されていても、家の中で行う事に制限は殆ど無い。3日に1度お手伝いさんが、様子見がてら掃除や食事を用意しにきているのはウザいが、僕がこの家の中で、株の取引をしてお金を稼いでも、それで本を購入しても、お菓子を大人買いしても何も言わない。光熱費も肉親が払っているし、僕がお金に困るファクターは何処にもない。返って気楽な幽閉生活を送っている位だ」
蓮は電話をかけ、から揚げ弁当を頼んだ。
「外に出たいとは思わないの?」
「全然、僕は人間が嫌いなんだ。いや、生き物の殆どを嫌っている。そんな僕にこの事件を解決させてなんになるの?」
「それは」
「分かったら、帰ってくれる?」
「お願い。叶えてよ。家族をバラバラにされて、平気な訳ないじゃん。早く解決したいの。あなたには分からないかも知れないけど、家族の無念を晴らしたいの!」
「ふうん」
「ふうんって、何も思わないの?」
「僕もその犯人と変わらないから。僕も母と叔父を殺した。そんな僕に解決させるのは、可笑しな話じゃない? 僕は自らの手で家族を殺めたんだよ。周りの複雑な体裁もあったから、事故と扱われ、豚箱じゃなく幽閉された。分かる? そんな人に君は無理強いしようとしているんだよ。君はそれでもいいの?」
「それは」
「悪い事は言わない考え直したら?」
「そんな事しない。蓮君は違う。だから、お願いします」
「……面倒。いたたたっ」
蓮の頬を蘭は引っ張る。
「下手に出たら、生意気なのよ。年下でしょう。言う事聞きなさい!」
「そうやって手を出して、屈服させるのは良くない事だぞ」
「じゃあ、やりなさい!」
「分かった。やります。但しこれっきりだからな」
「そうよ。それで、いいのよ。素直に言う事聞いていれば、こんな事になら無かったのよ」
「この暴力女が」
薄っすらとピンクになった頬を摩る。
「今度は殴られたい?」
「いいえ」
首をぶんぶん振った。
「それでいいのよ。そうそう。最初から、そうすればよかったのよ」
蘭は座り直す。
(はあ、面倒な女が来たな)
蓮は蘭を嫌がった。
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