第3話 橘蓮②

 30分後。

「それで、欲しい情報とかある?」

「無い」

 弁当屋がから揚げ弁当を持って来たので、蓮は取りに行って、リビングに戻ってきた所だ。

「無いって」

 蓮はから揚げ弁当に箸をつける。

「あるでしょう。殺害時の状況とか、殺害時間とか」

「そんなの聞いても役に立たない。だって、相手は異能力者なら、常識が通用しないから。それに、ネットや新聞で大体の情報は手に入れて、僕はその情報を頭に入れている。君が持っている情報と相違は無いだろう」

「頭に入れているって、5年も前の事件よ。覚えているの!」

「うん。何か問題でも?」

「凄い。記憶力がいいのね」

「君は僕を何処で知ったのかい?」

「友人から」

「その友人は僕の事を何て言ってた?」

「ああ、神経質で、無愛想で、性格が悪いとか」

「僕を怒らせたいの? 他に何かあるだろう」

「ああ、天才」

「それ、僕は俗に言う天才。特に記憶力がいいんだ」

「自分で天才って言う?」

「凡人には理解できないけど、僕は人より優れている。優れている事を誇らないで、どうするの?」

(意外と自信家だったのね)

 凡人の蘭には理解できなかった。

「そっ、そうね」

(とりあえず、口裏を合わせるか)

 蘭は大人な対応を取る。

「君が今さらそう言う態度を取っても、君の本心でない事位分かるよ。無理しない方がいいよ。似合わないし、あたたたっ」

 蘭はまた、頬を引っ張る。

「本当に性格が曲がっているわね。ついでに食生活も、どうして、サラダをトマト以外全部避ける。あと、ご飯を半分も除けて」

「僕の好みにまで、他人の君が口を出すな」

「そう言うの見るとムカつくのよ。せっかくの食事よ。全部食べなきゃ失礼じゃない」

「で?」

「食べなさい」

「無理。僕はあまり食べられないの。野菜も嫌い」

「子供か!」

「君は僕を子供と思っているんじゃないのかい? さっきから、僕を君付で呼んだり、保護者のように世話しようとしたり、僕はこれでも二十歳だ」

「ウソ。まだ、高校生位の年齢かと思ってた」

「君さ。僕が大学を中退したって、その友人から聞かなかったの?」

「ああ、確かに言っていたかも。飛び級したんじゃないの?」

「君は何処までいっても失礼な女だな。僕は何が何でも二十歳だ」

「はいはい。分かった分かった」

「この失礼な女は。話は戻すが、僕はその記憶力を駆使して、異能力者関係の事件を頭に入れている。君の事件も例外ではない。最も、君の事件の場合、場所が場所だ。情報収集してネットにアップしたけど、それでも捕まらないのだから、日本の警察も地に落ちたと言うか、ネットを信用してないと言うか、異能力者を野放しにし過ぎだな」

「情報提供してたの!」

「面倒な事に巻き込まれたく無いから。あの当時はそんな事思ってた」

「じゃあ、今は思わないの?」

「うん」

「何でよ」

「今、この家に僕しかいないから、僕が壊したのは間違いないが、家族を大事にしていなかった訳じゃないし、母は嫌いじゃなかった。母を危険な目に合わせたくなかったから、解決しても良かったけど、それで、危険な目に合えば母が心配するからしなかったんだ」

(意外といい子じゃない)

 蘭は蓮を見直す。

「さて、犯人暴くか」

「分かるの!」

「うん。灯台下暗し。犯人は隣人の当時、大学生の男だよ」

「えっ。どうして……」

 蘭が驚く。

「ウソよ!」

 そして、強く否定する。

「ウソ? そんなの、ついてどうするの? 僕になんの得があるの?」

「だって、優しいお兄さんだったのよ。私の家庭教師もしてたし」

「そんなの知らないよ。僕の考えはこうだ。第1発見者の証言や状況から、鍵が掛けられて無かったのは、犯人は顔見知りである証拠。何故なら、異能力は原則1人1つしか使えないから、単独犯であるのならなおさら顔見知りが濃厚だ。そうでなければ、リビングで身体をバラバラにするなんて出来ないから。そして、確信したのは、君と隣人が連絡先も知っている程の仲だった事」

「でも、なんで第1発見者が犯人なのよ!」

「じゃあ、逆になんで、第1発見者が、君や君の父親じゃないの?」

「その日は家庭教師で来る予定だったの。私より早く来たのよ。きっと、そうよ」

「分からないな。だったら余計怪しいだろう?」

「何でよ」

「いないと分かっていたら、普通入らず出直すだろう? 隣人なんだ。その位造作も無いはずだ」

「扉が開いていたから、可笑しいと思ったのよ」

「それも考えられるが、初めに言った通り、顔見知りの犯行だ。リビングに案内する場合、扉を閉めるだろう。しかも、田舎でもなんでもない東京で、このご時世鍵を掛けない何て、無用心極まりない。中から鍵を掛けるのは普通だ。だけど、扉は開いていた。もし、物取りなら鍵穴に何だかの痕跡が残っているはず。無いならそれこそ窓にもあっていいはずだ。だけど、それも無い。窓を開けなかったのは、防音も兼ねていたんだと思うんだ。犯行が終わった後、鍵を開けに行きタイミングを見計らって、君に連絡をする。さも、自分が第1見者に見せかける為に、その証拠に警察に連絡する前に君に連絡したはずだ。犯行時間も君は戻る寸前だったと思う。状況を曖昧にする為に、その時間に行ったのだろう。家庭教師だ。君の帰宅時間位、把握しているだろう。そして、人の脳は適当だ。しかも、君はその時、パニックに陥ってるはずだ。優しく接した男が行うなんて思わない。君は無意識にその男を庇ったんじゃないの? 僕に言ったように」

「それは……」

「異能力を隠すのは簡単だ。最も、殺人衝動に駆られた段階で、力に飲まれた事には代わり無いけど、その隣人は力に飲まれ、暴走したんだよ。それは僕と変わらないな」

「力の暴走?」

「よくある話だ。力を持つと少なからずそうなる。例外もいない訳じゃないが、それが、異能力者の運命だよ」

「そんなの悲しいよ」

「それが、異能力者の宿命だ。だから、僕は宿命に飲まれ、人を殺めたんだ」

 蓮は空を見る。

 悲しいとも哀しいとも見えるその目を、蘭はじっと見る。

 否定的な蓮に蘭は否定できなかった。

 蘭にはどう足掻いても分からないからだ。

 それが、能力を持たない者の運命だった。

「それじゃ、犯人に会いに行くか」

「うっ、うん」

「気が進まないなら、それでもいいよ。君が捕まえたいと言ったから仕方なく、行くだけだし」

「行きます!」

「分かった」

 蓮は書斎に入ろうとする。

「何するの?」

「着替える」

 よくよく見ると、ジャージ姿である。

「あっ、ゴメン」

「髪も整えるから、時間が掛かる。何もしないで待ってて」

「何もしないわよ!」


 10分後。

「行こう」

 蓮が書斎から出てきた。

「はやっ」

「何か問題でも?」

「いいえ」

 しかし、ちゃんとしていた。

 とても半年間家を出ていないとは思えない程、ちゃんとしている。

 オタクに思えたが、ファッションにも興味があるようだ。

 帽子を深くかぶり、蘭を見ている。

(かっ、可愛い)

 蘭の胸を打つ。

「君から邪念を感じるけど?」

「邪念って何よ!」

「そのままの意味だけど? 辞書の言葉を復唱しようか?」

「しなくていいから、早く行きましょうね」

「行くから。だから、引っ張るな!」

 また、頬を抓っていた。

「ええ」

 蘭は蓮の手を繋ぐ。

「だから、僕は子供じゃない!」

「いいからいいから」

「むっ」

 蓮は頬を膨らませた。

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