第4話 橘蓮③

 世田谷区の某所。

 2人は事件現場の隣の家にいた。

 犯人はまだ、ここに住んでいるのだ。

「所で、蓮君の能力って何?」

「僕の力は……」

 突風が吹き、鋭い風の刃が向かってくる。

「危ない」

 蓮が素早く反応して、蘭を庇い逃げる。

「蓮君。ありがとう」

「それは終わってから言って」

 蓮が手を広げる。

「蘭ちゃん。久しぶり。事件の後、すぐに引越しするんだもんな。そっちの子は新しい彼氏? 随分と小さい子が好きだね」

 無精ひげを生やした男が、民家の屋根から出てくる。

「僕を子供扱いするな!」

 蓮が怒る。

「異能力者」

 蘭は恐れた。

「どうしたの? 何を怖がっているの? 蘭ちゃん。寂しかったんだよ。久しぶりに遊びに行こう」

「ねえ、教えて、本当に先生が異能力を使ったの? それで、家族を」

「そうだよ。今も、そして、5年前のあの事件も、あいつらが悪いんだよ。僕さ、君より妹さんが好きでね。交際を迫られたら、妹さんが断ってね。つい、力を発動させちゃったんだ。その場にいたお義母さんも騒ぎに気付いて、やってきたから、やっちゃったよ」

「最悪よ」

「そうなるんだ。最近、善悪が分からなくなっているみたいだな」

「対価か」

「対価? ああ、そうかもそう言えば、変なフードの男が現われて、僕から善悪を奪ったな。あの事件があった5年前に」

「ねえ、蓮君、対価って?」

「異能力者が真に力を解放させる為の生贄、能力者の大事な物を奪う事が多いんだ。言っただろう。力が暴走するって、対価を払えば、力が増幅されるんだ」

「詳しいね。坊やも異能力者?」

「むっ、だから僕は子供じゃない!」

 流石に1日に何度も子供扱いされると、蓮も怒る。

「面白い子だ。でも、僕が犯人だって、分かっているみたいだから、消さないと」

 突風が吹く。

「君、逃げるぞ」

 蓮が蘭の手を引く。

「えっ、蓮君戦わないの?」

「正確には戦えない」

「そんなはっきり言っても、どうしてって……それは?」

 蓮は長袖で隠していた左腕に付けられた、鉄で出来た枷を見せる。

「異能力を使えなくする制御の枷だ。同じ物が右腕、両足、あと、お洒落に見せているが、チョーカーも同じ制御装置だ」

「何で、そんな物を?」

「僕に異能力を使わせない為だ。自慢じゃないけど、大概の能力者は1つか2つで足りるんだ。僕はそれじゃ足りないから、5つ付けられている」

「そんなに」

「悪魔。そう呼ぶのもそんな理由からだ」

 人気の無い道を通り、後ろからの攻撃を避けている。

「そんな」

「分かっただろう。僕が幽閉された本当の理由が」

「分かったけど、これをどうにかして」

「使えない僕に?」

「行くって誘ったの蓮君でしょう?」

「行かないといけないだろう。君の変死体を見つけたら寝覚め悪いだろう?」

「私の事を考えていたのね」

「止めても無駄だと思ったから、君みたいなじゃじゃ馬の貧乳が大人しくしているとは思えないもん」

「何ですって!」

 蘭が怒る。

「危ない」

 蘭を庇い転ぶ。

「ううっ、痛い」

 蓮が膝を抱える。

「大丈夫?」

 見ると、膝から血が出てすりむけていた。

「大した事無いけど」

「無理しないでよ」

「見つけた」

 男が笑う。

「さあ、鬼ごっこは終わりだ」

「ねえ、蓮君。その枷、どうやって外せるの?」

「普通に鍵が必要だけど、その鍵を僕が持っている訳ないでしょう?」

 蓮は呆れた。

「それも、そうか」

「まあ、手段が無い事は無いけど」

 蓮が立ち上がる。

「君はここにいて」

「何? 庇っているの。それで、守れると思っているの。そんな細い腕で」

「やってみてよ」

「じゃ、遠慮なく」

 風の刃を飛ばす。

(動きは一定だ。だったら、出来る。僕の計算に間違いはない)

 蓮は向かってくる風の刃に左腕を前に出す。

「バラバラになれ!」

 男が笑う。

 しかし、風の刃は蓮を切り離すどころか、跳ね返り空中に飛び去った。

「何が起こったの?」

 蘭も驚く。

 蓮を見ると、蓮の手に風で出来た刀を持っていた。

「風の力だと」

 男が少し動揺する。

「うん。僕の力」

「でも、使えなかったんじゃ」

 左腕に付けられた枷が粉々に砕け、地面に落ちた。

「1つで出力がこの位か、充分だ」

 蓮が頷く。

「何を頷いている。そんな刀で僕を倒す事なんか……」

 蓮に向かい風の刃が飛ぶ。

「スピード」

 風の刃を切りながら、加速させ真っ直ぐ、男の所に向かい、右肩を突き刺す。

「あっ、お前。何故だ」

「問答無用!」

 そのまま、蓮は壁に突き刺し、男の動きを止める。

「これで、力は半減するな。異能力は利き手が命だから」

 蓮の顔が何処か笑っている。

「蓮君」

 蘭はそれが少し怖かった。

「ほら、力を出してみろよ。さっき僕を襲ったみたいに、なあ」

 蓮は何度も男の頭を打ちつけた。

「そこまでだ。橘蓮」

 長身の中年の男が蘭の後ろからやってきて、そのまま前に進み、蓮の後ろに立つ。

「誰?」

 蘭が呟く。

「まさか、又、陽の光を浴びているとはな。悪魔。しかも、上手い事、枷も壊して、力を使って」

「すみません」

 蓮はゆっくり刀を抜き、そのまま刀を消す。

 男は気を失っており、そのまま、ずるずると身体が崩れる。

 長身の中年男は、そのまま蓮の所に向かい、蓮の左腕に再び枷を付ける。

「外からの力と中からの力を同時に発動させ、上手く壊したか、発信機が付いていて良かったが、帰るぞ」

「はい」

「ちょっと、待って」

 蘭が声を出す。

「いきなり現われて、何もなし。あんたは誰よ!」

 しかも勢いがいい。

「これは失礼。こんな現場に美しい女性が、私の名前は柳川緋矢。この悪魔の伯父だ」

「柳川、緋矢って、柳川財閥の!」

 蘭は目を丸くして驚く。

 世に言う金持ち一族である。

 柳川緋矢は数々の企業を束ねる凄腕の商社マンであった。

「ええ」

「じゃあ、蓮君はそこの血筋なの!」

「ええ、まあ、そうなります。そんな事より、あの男の始末はこちらで処理するとして、あなたは1日も早く蓮の事を忘れる事。では」

 蓮の背中を押しながら、緋矢と蓮は立ち去る。

 蓮は蘭を見ようとはせず、そのまますれ違った。

 5年間解決しなかった事件は、2人が出会って、半日で解決した。



 それから、1週間後。

 再び蓮の家。

「で、君は何でここにいるの?」

「メイドのバイトに受かったのよ。それで、ここで働く事になったの。よろしくね」

 蘭が蓮の目の前にいた。

 フリフリのメイド服を着ている。

 蓮はいたたまれなくなった。

 なぜなら、蘭の胸が貧乳で、女の魅力を感じるのに、蘭にそのオーラが感じられないからだ。

 蓮は胸の小さな女性はあまり好みではない。腐っても男の子を捨てていなかった。

「よろしくね。って、君バカなの? 僕の力、見たでしょう。怖くないの。伯父は正しい事を言っていた。なのに何で」

 それで、メイドとして雇うのだから、伯父もバカである。

 蓮は蘭と緋矢、2人の凡人の考えが理解出来なかった。

「ええ、全然、私、昔から、異能力者だから差別するとか無いから、それに蓮君は何だかんだで、私を助けたでしょう。悪い子に思えないのよ。それで伯父様に嘆願したら、受かったの、何て言うか、この美貌に虜になったのね。美しいって罪だわ」

「伯父が女好きで、むっつりスケベなのは否定しないが、君の何処をどう見たら美しいのか、僕は理解できないよ。貧乳が」

「あっ、そう言えば、蓮君、貧乳って連呼しすぎよ。何で、緊迫した所で、貧乳って言うのよ!」

「ああ、君にもその位の記憶力があったんだ」

「蓮君、バカにし過ぎ!」

「間違って無いし、小さいし」

「五月蝿いな」

 蓮の頬を引っ張る。

「痛い」

「ともかく、私が今日からここのメイドだから、蓮君の性格と食生活を直すわ。いいわね」

「物好きな女。縮めて物女ものじょって、こう言う人の事を言うんだ。僕の知らない事がまだあるな」

「何ですって!」

 蓮の一言で、蘭が怒鳴った。

「やばっ」

 蓮は立ち上がり、逃げ出す。

「待ちなさい!」

 蘭が追いかける。

 しかし、蓮が疲れて、座り込んだ。

「さあ、覚悟なさい」

 蘭は蓮の頭を殴った。

(これが続くのか……)

 蓮は頭を摩りながら嘆いた。

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