第21話 柳川トモカ③

 広場のベンチにお弁当を広げる。

「で、これは何?」

「お重よ」

「そりゃ、分かる。中味だよ」

「知らないの? 今、流行りのキャラ弁よ。あれ、作るの大変なのよ」

 動物の形等していて、ここを意識して作った。

「いや、だったら、普通でいいだろう。何でわざわざこれにする」

「トモカ君が喜ぶでしょう」

「ぷっぷっだ」

 車の形をしているおにぎりに、確かに喜んでいた。

「大体文句が多いのよ」

「そりゃ、多くなるだろう。何でお重だ」

「それしか無かったのよ」

「どんな家だよ」

 普通のお弁当箱が無い家が蓮には理解できなかった。

「ともかく、味でしょう」

「まあ」

「いただきま〜す」

 トモカは待ちきれず、おむすびで作った車をさっそく食べる。

「お姉ちゃん。美味しい」

「だって、ほら、蓮君も」

「うん」

 一応食べる。

「美味しい?」

「普通」

「何ですって!」

「また、喧嘩?」

 蘭が吠えると、トモカが心配する。

「いえ、大丈夫よ。どんどん食べて」

「うん」

「蓮君も」

「分かった」

 何だかんだと蓮も食べた。



 昼食後、動物園巡りが再開された。

 ゾウを見て、サイやサル等も見た。

 が、2時間で蓮が完全にへばり、ベンチに座り込む。

「ダメ。動けねー」

「もう、体力無さ過ぎ」

「そりゃそうだろう。半年以上家から出て無いんだから」

「それも、そうね。トモカ君がいいなら、2人で行く?」

「うん!」

「じゃあ、私達はふれ合い広場で遊んでいるから」

「分かった。行ってらっしゃーい」

 蓮がぐったりしながら、手を振った。



「ウサギ、可愛い」

 ウサギに人参を与えていた。

「蓮君も触れ合えばいいのに」

 蘭もウサギにキャベツを与える。

「あっ」

 蘭の携帯電話が鳴る。

「トモカ君、ここにいてね」

 蘭はふれ合い広場から離れた。


 蓮はアイスを食べつつ、携帯電話で話していた。

『橘蓮。力を使っていないだろうな』

 声の主は柳川緋矢であった。

「制御の枷を外して無いんだ。無理だ」

『そうか、なら良かった』

「どう言うつもりだ。幽閉しているんじゃないのか? あいつをバイトに起用したり、僕を外に出す事を許したり」

『全て、瑠衣が私に頼んだ事だ。幽閉の意味もあまり分かっていないみたいだしな』

「やっぱし、不甲斐ない男だな」

『それについては同感だ。それにあいつは自分の事ではそれ程怒りを示していないしな』

「やっぱり、母さんか」

『ああ、そうだ』

「そうか、僕がやったから、仕方ないが、少しは自分の事にも怒ってくれた方がいいが」

『分かっているならいい。それより……』

 バッチン! ゴロゴロ!

「雷!」

 蓮が思わず立ち上がる。

 雲一つ無い晴れた空に、近くで雷が落ちたのだ。

『どうした。橘蓮!』

「あれは、異能力だ」

『異能力だと、状況を説明しろ』

「近くで雷が鳴ったんだ」

『そうか、橘蓮。今すぐ現場に向かえ!』

「僕は……」

『躊躇っている暇は無いだろう。近くにいれば私が出向くが今、ここにいるのはお前だけだ。違うか?』

「分かりました」

『だが、報告はするんだ』

「はい。電話は切らないで置きます」

『ああ、無理はすんなよ』

「……うん」

 蓮は雷が落ちた所に向かった。



「あれ? お姉ちゃんは?」

 トモカが山羊と遊んでいる途中で、蘭の姿が無い事に気付く。

 キョロキョロ探して蘭を探す。

「いない」

 一気に不安になる。

 ふれ合い広場を抜け出し、探し出すが見つからない。

「何処にいるの。お姉ちゃん。お姉ちゃん。うわぁぁぁん」

 トモカは座り込みが泣き出す。

 どんどん不安はエスカレートし、すると、雷がトモカの上に落ちた。

 しかし、トモカは平気だった。

 トモカが雷を発生し、落としたのだ。


「はあ、はあ、疲れた」

 蓮がバテていた。

 そこに蘭が現れる。

「何で、君がここに?」

「友達から電話が掛かって来たのよ。んで、雷が落ちたから気になって」

「あのガキは?」

「トモカ君はふれ合い広場で遊んでいると思うけど」

「1人にさせたのか?」

「ええ、電話かけるって言って……」

「マジで胸騒ぎがする」

 蓮が走った。

「ちょっと、蓮君」

 蘭も追い掛けた。


「うわぁぁぁん」

「やっぱり」

 蓮の予感は的中した。

 トモカの体が帯電して、青白い光を放っていた。

「伯父さん。トモカも能力者です。雷の力だ」

 蓮は冷静に緋矢に電話で報告していた。

『やはりそうか』

「ちょっと、異能力ってどう言う事、私にも分かるように説明して」

「柳川の血。トモカも例外じゃ無かったって事」

『橘蓮。インビンシブルの能力で、止められるか?』

「僕に力を使えと言いたいの? 嫌っている伯父さんが」

『それしか、方法が無いだろう。これは、迅速に行う必要がある。私とて、現場に向っているが、それでは間に合わない。悔しいが力を借りるしか無いだろう。出来るか?』

「出来ない事はない。分かったやります」

『ありがとう。制御の枷は蘭さんが1つだけ外せる。鍵を持っているはずだ』

「メイドだから、持たせたの?」

『まあ、そんな所だ』

「僕がメイドを襲わないとも限らないだろう」

『大丈夫だ。メイドは腕の立つ者を選んだから、異能力が無ければ負けるはずはない』

「……通信教育で体鍛えるか」

 蓮は蘭の方を向く。

「僕があいつを止める。だから制御の枷を外してくれ」

「話は聞いてたから、分かったわ。でも、能力は1人1つが原則でしょ。大丈夫?」

 蘭は既に鍵を用意し、蓮の左腕の制御の枷を外した。

「君には、まだ話して無かったか、詳しい事はこれで伯父さんに聞いて、時間が無いから」

 蓮は蘭に携帯電話を渡す。

「分かったわ。気を付けてね」

「君、何言っているの? 僕に不可能は無い」

 蓮はそう言って、トモカの所に向かった。


 蓮はトモカの肩に優しく手を当てる。

「トモカ。落ち着け」

「だって、お姉ちゃんいなくなったんだもん」

(原因はやっぱり、あいつか)

 蘭と近くで会った事を思い出す。

 適当にトモカに言って電話したのだろう。

 トモカにそれが伝わらかったようだ。

「僕、独り嫌だ」

「大丈夫。僕がいるだろう?」

「……テン」

「蓮だ。ともかく、もう泣くな。男の子だろう」

「男の子? うん!」

「ほら、落ち着け」

「うん」

 トモカが泣き止み、徐々に帯電しなくなった。

 そして、疲れたのか眠ってしまった。

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