第20話 柳川トモカ②
次の日。
レンタカーを借りて、トモカをチャイルドシートに座らせた。
トモカは笑っている。
「えーと、これがブレーキで、アクセルで」
蘭が場所の確認をしている。
「なあ、物凄く嫌な予感がするんだけど、君、最後に運転したのいつ?」
「失礼ね。最後に運転したの3ヶ月前よ」
「それ、ペーパードライバーだ。上野でいいじゃん。電車乗ってさ。パンダいないけど」
「嫌よ」
「嫌とかじゃなく、命に関わる問題だ」
「大丈夫だって、これでも事故った事無いんだから」
「そっちの方が奇跡に近いから」
「あっ、蓮君。カーナビセットして」
「はっ、僕!」
「使い方イマイチ分からないのよ。場所も曖昧だから必要でしょう」
「……はあ」
蓮が説明書を読みながら、渋々セットする。
「お姉ちゃん。まだ?」
「ええ、今、出発するわ。レッツゴー」
と、言ったが、急ブレーキが掛かる。
「アクセルとブレーキって、紛らわしいね」
「そんなんで済むか!」
蓮が叫ぶ。
(ああ、母さん……こんな形で地獄に行く事をお許し下さい)
蓮は亡き母に謝った。
そして、何だかんだと動物園に着いた。
「ほら、大丈夫だったでしょう」
「何処がだ! 瑠衣の運転がどれだけ上手いか、身を持って知ったよ」
「失礼ね」
「どっちがだ。ガキにトラウマ作る運転だ」
「そう。トモカ君喜んでいるよ」
「お姉ちゃん。楽しい」
「ほらね」
「絶叫マシーンと間違えているだけだよ。鈍感なガキが」
「そんなに文句があるなら、蓮君が運転してよ」
「僕に免許は無い。そもそも、僕に戸籍が存在しない」
「そうなの?」
「幽閉される時に戸籍が無くなったんだ。と、緋矢伯父さんが言ってた。まあ、実際どうなっているか分からないけどな。何たって柳川だから、海外逃亡しない為の嘘だと思ってる」
「どうして?」
「一財閥にそんな事出来ないから」
「まあ、そうかも」
「だから、僕には免許が無いんだ」
「じゃあ、私が運転するしか無いね」
「あっ」
蓮が制御ブレスレットに目をやる。
(こいつさえ無ければ……)
「早く行こう」
トモカが蘭の手を引っ張る。
「ええ、そうね。あっ、蓮君荷物持って」
「はあ、何で?」
「他にいないでしょう」
(ひょっとして、この為に駆り出されたな)
「一応聞くが、中身は?」
「お弁当箱よ」
「何でこんなデカくて丸くなる!」
蓮の小さな背中いっぱいのリュックが丸く膨らんでいる。
「そりゃ、豪華にしたからね」
「お弁当? お姉ちゃんが作ったの?」
「ええ」
「楽しみ!」
「僕は凄く嫌な予感がしてならないけど」
「さあ、行きましょう!」
「うん!」
トモカがバタバタ走り、先に進んだ。
「ほら、蓮君も早く」
「くそー。力さえ使えたら……」
蓮は今にも押し潰されそうになっていた。
「キリンさんだ」
トモカが指を差す。
(こうしていると本当の親子になった気分だ)
蘭が微笑む。
「トモカ君はキリンさんが好きなの?」
「んとね、キリンさんも好きだけど、ゾウさんが1番」
「へー、蓮君、早く記念写真撮るから、カメラマン」
「へいへい」
「ちゃんと、キリンの頭も写してね」
「無茶苦茶言うな。無理に角度変えたら、君の見たくもない白のパンツが見えるだろう」
蘭は流行りのミニスカを着ている。
「何、見てるんじゃい!」
「見てるじゃなく見えるんだ。日本語を間違えないで欲しい。僕は君のパンツに興味は無い」
「パンツ、パンツ」
トモカが連呼する。
「こら、トモカ君、連呼しないで」
蘭の顔が赤くなった。
「人に見られて嫌なら、長いのはけ、見せているとしか思えん。だからって、何も感じないけど」
「何処のオッサンの発言だよ。ってか、何で何も感じない」
「何度も言わせるな。胸の無い暴力女に僕は女性らしさ感じないから。あたたたっ」
蓮の頬を蘭が引っ張る。
「悪かったわね。女子力が低くって」
「お姉ちゃんとテンって、パパとママみたい」
「なっ」
「違うわよ。蓮君が子供だから、ほっとけないだけで」
「幼児体型に言われたく。あたたたっ、だからつねるな!」
「ママもパパは子供みたいって言ってたよぉ。仲良し!」
「違う! おい、いくら、従兄弟でも許さんぞ」
「仲良しがいけないの?」
トモカが首を横にする。
「それはいい事だが、こいつとは……だから、引っ張るな」
「こいつ呼ばわりするな!」
「だからって暴力で訴えるな。ちょっとは口で言い返せ。一応女だろう」
「一応って、悪かったわね。どうせ私は口達者じゃありませんよ」
「開き直るな!」
喧嘩がエスカレートして流石にトモカも戸惑い、泣いてしまった。
「と、トモカ君」
「キリンさんいるのに、喧嘩しないでよ」
流石に外で泣かれると人目も気になる。
「はあ……後にしようか?」
「そうしましょう。トモカ君、大丈夫よ。蓮君も私も仲良くするから」
「ホント?」
「本当よ。ねえ、蓮君」
「あっ、ああ」
「じゃあ、仲直りのキスをして、パパとママが喧嘩したらいつもやっているよ」
「なっ」
「ちょっとそれは」
「出来ないの?」
「あっ、いや。あのね。蓮君と私は友達であって、パパとママのような関係じゃないのよ」
「じゃあパパとママみたいにいつなるの?」
「うーん。まだ、しばらく先かな」
「一生ならねーよ」
「蓮君。口裏合わせて」
「へいへい」
「ならないの?」
「ええ、なったら、私と蓮君はトモカ君の所に簡単に会えなくなるのよ」
「どうして?」
「ママとパパみたいにトモカ君のような子供を大きくしなきゃいけなくなるからよ」
「随分、話が飛んでいるんだけど」
「蓮君は黙って、トモカ君をを大きくするにも、ママとパパは凄く頑張ったと思うの。2人はトモカ君が大好きだから、ずっと、一緒にいたと思うの」
「うん」
「私も同じように自分の子供におんなじ事するから、どうしても、トモカ君と遊べなくなるの分かる?」
「うん。お姉ちゃんとテンと別れたく無い」
「だから、蓮だ」
「でしょう。私もまだ、トモカ君とお別れしたくないから、パパとママみたいにならないの。分かった?」
「うーんと、分かった!」
「ホントに分かっているのかよ?」
「うん。お姉ちゃんはテンより、僕が好き!」
「うーんと、それは……」
蘭は少し戸惑う。
「名前は間違っているが、内容は間違って無いから、反論しない」
「んで、テンも僕が大好き。僕モテモテ」
「だったら、どんなツンデレだよ!」
「まあまあ、ねえ、時間も時間だし、近くに広場があるから、そこでお昼にしましょう。それからゾウさん見ましょう」
「うん! お姉ちゃんのお弁当楽しみ」
「ああ、やっと軽くなる……」
蓮は早々と広場に向かった。
「テン、僕も」
「蓮だ」
そんな2人の姿を見て蘭は笑う。
(やっぱり、連れて来て良かった)
蘭も歩き出した。
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