第22話 柳川トモカ④

 インビンシブル。蓮の異能力の名称だ。

 勿論、これは蓮が名付けた。

 1人1つが原則の力で、蓮だけは複数使える。

 風の力だけではなく自在に使い限界が無く、無敵だからと言う事で、インビンシブルとなった。

 変に自信家である蓮らしい名の付け方だった。

 稀に異能力者の中でも更に特殊な力に目覚める事があるが、柳川の人間は更に特殊な異能力者になり易い。

 瑠衣もその1人だが、蓮も更に特殊な異能力者で、複数の力を使えているが、その実、能力は1つしか持っていない。

 複数持つ事が出来るのは、その力をコピーしている為で、複製が蓮の力なのだ。

 生まれもって記憶力がいい蓮に、この複製能力はまさに、鬼に金棒である。

 異能力関係の記事を収集するのも、力の本質を知り、コピーする為の材料であった。本家より引けを取らないのも、蓮の力の特色で、異能力の中でも最強である。

 しかし、複製出来ない力もある。

 複製能力は体質まで変えられない。

 故に体質が特殊な瑠衣のような能力は使えなかった。

 蓮の運動能力が低いのも、複製出来なかった為である。

 最も瑠衣は火を司っているので、瑠衣から複写するのは不可能であったが、コピーしようとしたのは、事実である。

『それが、蓮の力だ。故に周りから恐れられた』

「だから、悪魔なの?」

『そうだ』

「納得いきません。だって蓮君。あんなに可愛いんですよ」

『可愛いは関係無いと思うが』

 蘭の言葉に緋矢は、引き気味であった。

「説明して下さい」

『生まれもって強い力を持つと言うのは、そう言う事だ。力を暴走させ、人まで殺めた。橘蓮は間違いなく悪魔だ』

「それは……周りが、誰も蓮君を理解しなかったからよ。蓮君がひねくれたのもそうよ。蓮君1人責めるのは可笑しいわ」

「僕が責められる? 誰に?」

 蓮君がトモカを背負って何とかやって来る。

「肉親に、悔しく無いの」

「別に」

 蓮は近くのベンチまで何とか行き、トモカを寝かせる。

「ガキのクセに重いんだけど」

「それで、別にって何よ」

「僕は言葉を覚えた辺りで、父と呼ぶ人に同じ事を言われ、見捨てられた。母さんはそんな僕を不憫に思って、橘の家を出たんだ。まあ、それに無理について行ったのが瑠衣だ。母さんは僕を不憫に思っていたが、実際、僕をどう思っていたか分からない。僕を嫌っていたのかも知れない。僕を産む事を本位に思っていなかったから、でも、僕をちゃんと育ててくれたから、僕は母さんに感謝している。でも、そんな母さんを殺めたから、僕は悪魔と呼ばれ、味方もいなくなった」

「味方ならいるでしょう。この私が」

「君が?」

「そうよ」

「物好き」

「何ですって! 生意気な口はこれか」

 蓮の頬をつねる。

「横暴だ」

「五月蝿い。味方になるから、文句言わない!」

「君は何目線で言っているの?」

「いいから黙って、味方と思えばいいの」

「君、後悔するよ」

「絶対しない!」

「死ぬかもよ」

「蓮君は同じ過ちをしない。だって、天才でしょう。天才ならそうならない手段を考えられるでしょう」

「ああ、君、やっぱりバカだったんだ」

「何ですって!」

「でも、ありがとう」

 蓮は小さく呟く。

「蓮君? 今、何て?」

「あっ、トモカが目を覚ました」

 蓮がトモカに視線を向け、誤魔化した。

「……お姉ちゃん。何処に行ってたの?」

「君が原因何だよ」

「えっ、そうだったの!」

「メイド失格だな」

「まだ、馴れて無いの!」

「そー言う問題じゃないから」

「テンもウサギに餌上げに来たの?」

「蓮だ。まあ、そんな所だ」

「んじゃあ、行こう」

 トモカが走り出す。

「覚えて無いの?」

「みたいだ。まあ、その方が幸せだと思う」

「確かに」

「君もトモカの親には言わないでくれないか?」

「どうして?」

「言っただろう。その方が幸せだって、瑠衣もヒナゲシもそれで冷たくする事はしないだろうが、世間の目が冷たくなるから、そんな子供は危険で学校とか入りにくくなるんだ。僕が封じたからしばらく力は発動されないから、普通に暮らせる。僕は普通の生活送らせたいんだ」

「お姉ちゃん。テン。早く」

「だから、蓮だ。わざとだろう?」

「テンはテンだよ。テン競争だよ」

「こら、蓮だ」

 トモカが走り、蓮が追い掛けた。

(そっか、蓮君は自分と同じ目に合わせたく無いんだ。優しい所あるじゃん)

「蓮君。私も混ぜて」

 蘭も走り出した。

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