第7話 浅野蘭②

 船首に行きから、青い海を見ていた。

「うわぁぁぁ。キレイ」

「ああ」

「あれ、RUI君じゃないか」

 瑠衣をモデルとしての名前で呼ぶ、小太りなオジサンの声がする。

 瑠衣はすぐに声がした方を見て、笑顔を見せた。

「あっ、その声は雑誌記者の小久保さん。この間はどうも」

「いいや。憶えてくれてたか。ありがとう。しかし、そっちの可愛い子ちゃん。どうしたんだい?」

「可愛い子。嬉しい」

 蘭が喜ぶ。

 蓮に散々貶され、久しぶりに聞いた言葉だからだ。

「また、新しいこれかい?」

 小久保は小指を上に上げる。

 どうやら、彼女だと思われているようだ。

「違いますよ。彼女は俺にチケットを譲ってくれた恩人ですよ」

「どっちにしてもあまり不穏な動きをみせちゃダメだぞ」

「大丈夫ですよ」

「なら、いいんだがな」

 小久保と瑠衣がしばらく密会し、瑠衣は蘭の所に戻った。

「悪い。待たせた」

「いいえ」

「しかし、この豪華客船。やっぱりVIPが多いな」

 企業の社長や投資家、政治家等、セレブが大勢集結していた。

 この豪華客船で、オークションが行われるのだ。

「蘭ちゃんもお金持ちなの?」

「ええ、まあ。父が資産家何です」

「へー」

「瑠衣は?」

「俺は事務所の社長からコネで貰ったんだが、無くしたんだ」

 瑠衣は落ち込んでいた。

(コネで貰える物なの?)

 蘭は疑問視したが、聞かなかった。

「次は食堂行こうぜ」

 瑠衣は蘭の手を引っ張った。

「へー。美味そうだな」

 瑠衣がよだれを垂らしていた。

「まだ、準備中だよ」

 蘭が言う。

「うん」

 瑠衣は物寂しそうにバイキング料理を見ていた。

「あっ、RUIさんだ」

 女子スタッフの1人が声を掛ける。

「あのー、職務中ですが、握手して下さい」

 女子スタッフが右手を出す。

「可愛い子だね。いいよ」

 瑠衣も右手を出し、手を握り、更に左手でも握る。

「嬉しい。サインもいいですか?」

「いいけど、ペンと書く物ある?」

「あっ、用意します」

 上手い事色紙とサインペンを用意して、瑠衣が左手で、サインペンを持ち、右手に色紙を持って、サインを書こうとする。

「名前は?」

「直美です」

「直美ちゃんね。はい。どうぞ」

 書き終え直美に色紙を渡した。

「ありがとうございます。RUIさん。お食事は1時間後ですよ。それでは」

 直美は一礼して、仕事に戻った。

「まだ、1時間もあるの? 蘭ちゃん、次行こうか」

「ええ」

(やっと、次に進めるわ)

 直美にファンサービスをしている時、退屈で仕方なかったのだ。


 次は大ホールにやってくる。

「ここがオークション会場ね」

「腹減った」

「もう少しでしょう」

「うん」

 本当に空腹のようだ。

 モデルとして活躍していても、意外に子供で、蘭は少し驚いていた。

「あら、あなた、なかなかカッコイイボーイさんね?」

 美人セレブが瑠衣の目の前にやって来る。

「いいえ、俺はモデルのRUIです。しかし、あなたのような美人さんが、俺に声を掛けていただき光栄です」

 瑠衣はそっと手を握っていた。

「あら、モデルさんなの? こんな素敵なモデルさんがいらっしゃるなんて」

「そうですか? 嬉しいです。よければお名前を」

「瞳です」

「瞳さんですか。いやー。お美しい」

「ありがとう」

(この人、フェミニストなのね)

 蘭は瑠衣がどの女性でも優しく接するので、少し引いてしまった。



 1時間後。

「うん。うめぇ」

 食堂で立食パーティが始まった。

 瑠衣は左で箸を持ち、色々な料理を口に入れた。

「蘭ちゃん食べないの?」

「食べているけど、瑠衣はそんなに食べて平気なの?」

「ああ、全然」

 胃袋がどうなっているのか分からない程、瑠衣は量を食べていた。

 お酒も進んでいるようで、瑠衣の顔が少し赤くなっていた。

「こんな美味い料理が食べ放題なんだ。乗ってよかったよ」

「そう言えば、瑠衣もオークションの参加するんですか?」

「いや、俺の収入じゃ、オークションで商品買う程のお金は無いよ。でも、やっぱり乗れてよかった。最初は場違いかと思ったけど、こんな可愛い女の子に出会えたし、蘭ちゃん。この出会いに乾杯しない?」

「嬉しいけど、瑠衣、少し酔ってますか?」

「何で」

「私を褒めるから」

「何で? 蘭ちゃんは充分可愛いよ。いつもどんな扱いを受けているか知らないけど、俺は蘭ちゃんみたいな女の子、大好きだよ」

「冗談でも嬉しい」

「だから、冗談じゃないから」

「本当に見習って欲しいです。知り合いは酷いんですよ。私の事ちっぱいって言って」

「そりゃ酷いな」

「女性の魅力が感じないとか言って」

 蘭は瑠衣に蓮の愚痴を言い続けた。

 瑠衣はご飯を食べながら頷いている。

(この人、悪い人じゃなくって本当に良かった)

 蘭は安心していた。


 食事を終えた瑠衣と蘭は部屋に戻った。

 裏では今、オークションをやっているが、関係ない。

「瑠衣、大丈夫?」

「ああ、少し飲みすぎただけだから」

 瑠衣は具合を悪くしていた。

「食べすぎじゃないの?」

「この量は普通だ。少ない位だ。ううっ」

(どんだけ、食べるのよ)

 蘭が想像を絶するほど瑠衣は食欲が旺盛な男であった。

 ただ、少し、酒に弱く、ここが船の上だったので、気分を悪くしたのだ。

「ゴメンな。オークションとか見たくなかったか?」

「うん。少しは興味あるけど」

「見に行っていいよ」

「いいの?」

「うん」

「じゃあお言葉に甘えて」

 蘭が部屋を出ようとした時、船が大きく揺れ、電気が薄暗くなった。

「何?」

 蘭と瑠衣が驚く。

「蘭ちゃん」

「瑠衣はここにいて、様子を見てくるから」

 蘭は瑠衣が止める前に、飛び出して行った。

「ああ、さて、どうすっかな」

 瑠衣は頭をかいた。

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