第二話 結成、不可思議万屋
「あの……あれは?」
「あぁ……」
俺達は神矢神社に着いた……着いた筈だ。
だが門を潜り、鳥居の前には大の字で出迎える巫女が一人。
彼女が叫ぶ。
「リュー! 白雷ちゃん! ようこそ私とリューの結納式に!!!」
参道の真ん中で自信満々な表情で両手を広げて神矢家次期当主の薫が出迎える。
周囲の巫女さんや神主さんには何故か拍手が。
「なんか場所間違えたっぽいな。帰るか」
「え、でもここは間違いなく神矢神社では」
「あんな頭のネジが液体になってるような奴がトップな神社なんて碌な事が」
「あああああああ待ってよリュううううううう」
神社から離れようとした瞬間、背後から薫に突進され、抱きつかれその場に倒れてしまう。
「待ってよリュー……冗談言ってないけど待ってよリュー……」
「やめろお前めっちゃ暑苦しい! てか鼻血が出ちゃってるんだけど!?」
「吸ってあげるから」
「やめろ気持ち悪りぃ!!」
無駄に力が強くて引き剥がす事が出来ない。しかも蛇のようにウネウネと動いていてその感触が余計に気持ち悪い!
俺と薫のそんな様子を白雷は引き気味に見ていた。
出来れば見ていないで助けて欲しかった。
……………………
「はい、という訳でよく来たね二人とも」
「どういう訳だよ」
社務所の一室。
さっきの境内での出来事がまるで無かったかのように座っている。
俺はさっき頭ぶつけてタンコブが出来てるのに。
「それで、来てくれたってことは、答えを決めてくれた?」
薫の問いに俺は頷く。
「俺で良ければ、やらせてほしい」
俺の答えを聞いた時、いつも騒がしい薫の雰囲気が一瞬柔らかくなり微笑んだかのように見えた。
けれどもすぐに
「本当!? いや〜良かった良かった、断られたらまぁ頑張るしかないかーって思ってたんだよ。これで解決に一歩近づいたよ〜!」
薫が小さく拍手をしながら笑顔で喜ぶ。いつもの騒がしい薫に戻っていた。
白雷が来てからぐらいだろうか、最近コイツの様子が変わったような、そんな気がする。
「あと、白雷なんだが」
「勿論、大丈夫だよ。寧ろ願ったり叶ったりだね。マナも私達で用意出来るから安心してね。後はまぁ隠形術だけ、外に出る時はお願いね」
「感謝致します。隠形術の件、心得ております」
白雷は畳に両手をつき、ゆっくりと頭を下げる。
あまり考えてはいなかったが、万が一断られてしまったらどうしようかと思っていた。
「よーっし、じゃあついに『不可思議万屋』結成だね」
フカシギヨロズヤ?
初めて聞く単語に俺と白雷は顔を見合わせ首を傾げた。
「なんだそりゃ?」
「この世界で起きてる神秘的だったり怪奇的だったり、そういった問題を抱えてる人達が沢山いるんだ。以前はある機関からの依頼だったけどそれ以外にも……特にこの日本にはそういった事が何故か多くてね、そういった人達の力になって欲しいんだ」
「成る程、それで万屋なのですね」
「そそ、そういう相談や依頼は神矢神社に限らず色んな所で対応してるんだけど、やっぱり人手が足りなくてね……厄介なのは『陰の奇』による被害かな。これが曲者」
以前、果穂さんがそんなような事を言っていたのを思い出す。口調こそ変わらないものの、真剣な表情で話す薫を見て深刻な問題であることを察する。
「その、『陰の奇』って何なんだ?」
猪の時も結局はよく分からないまま終わってしまっていたから聞けていなかったけれども、今なら大丈夫だろう。
前から疑問に思っていた『陰の奇』について薫に尋ねた。
「そうだね……よくないものの総称。例えば悪霊、アレは怨みとか負の感情を強く持った魂が留まってマナを吸収して具現化したものなんだ」
「悪霊……」
テレビの心霊番組で見た事がある。以前、見ていた時は嘘くさいと鼻で笑っていたが、今じゃそんな事は出来ない。
悪霊とかの心霊系にはマナが付き物だということを知った今、否定なんて出来ない。
「と、まぁ『陰の奇』については怪奇現象全般を私達がそう呼んでるだけって事だね〜」
「それで不可思議なのか」
「うん、良いでしょ? 不可思議万屋」
「まぁ……うん」
……名前はまだしも、薫の説明でこれからどういう事を依頼されるのか、大体は理解できた。後は実際にやってみるだけだ。
「よーし、じゃあ早速依頼来てるから始めてみようか!」
「あぁ、頼む」
「よろしくお願いします」
「オッケェイ! それじゃあちょっと待っててね」
薫が両手を合わせ謝る仕草をした後、部屋を出て行く。多分、依頼書か手紙かそういうものを取りに行ったんだろう。
「頑張りましょう、流様」
「おう」
これから俺達の、その……不可思議万屋の仕事が始まる。
鬼が出るか蛇が出るか、想像はつかないがきっとやれるとそう信じている。
「お待たせ〜」
部屋を出て数十秒しか経っていないのにもう薫が戻ってきた。だがアイツの手には何も持っていない、という事は依頼主が直接来てるという事か。
「どうぞお入りください」
「うむ、失礼する」
薫が部屋に入るよう勧めると、それに反応した少し低い女性の声が部屋の外の廊下からした。
依頼主はどんな人なのだろうと想像を膨らませていると、彼女が入ってきた。
その女性は菖蒲の刺繍が入った青い着物姿で金色の長そうな髪を纏めて簪で留め、頭には狐のような耳が生えていた。
「こちら、今回の依頼主の狐ノ葉様だよ」
不可思議が不可思議を背負って来ていた。
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