第七話 幻惑術


「おのれ、尻尾を……楓……すまぬ、お主を……」


目を閉じ、楓ちゃんに今生の別れの言葉を述べる狐ノ葉さん。

やっぱり、まだ幻惑術が解けてない。

白雷の言っていた術者というのはどこにいるのか……そいつを探しつつ、狐ノ葉さんを無力化しておくのなんて難しすぎる。


「狐ノ葉さん、まだこれからですよ。俺達が必ず」


「あぁ、流の声が……すまぬ、儂はもう……」


「……ん?」


今、会話が繋がっ……てはないが、俺の声に反応してくれた?


「あの、狐ノ葉さん?」


「流、儂はここまでじゃ……楓も、白雷も、儂の目の前で……」


会話からして二人は狐ノ葉さんの目の前で殺されてしまったらしい。

……んな訳ないでしょ、白雷なら隣にいるわ。


「え、私殺されたんですか?」


「いやどう見ても生きてるだろ。さっきまでバリバリ戦ってたじゃん」


「おぉ……白雷、お主もそこに……」


やっぱり声聞こえてるな!?

もしかして幻惑術解け掛かってるのか?


「起きてください狐ノ葉さん! 俺達生きてますから! 目を開けてください!」


俺は狐ノ葉さんの側にしゃがみ、彼女の耳を触り始める。


「……ん? 流、か?」


狐ノ葉さんが目を開け、俺を認識してくれた。

首を動かし周囲を見渡し、白雷も認識した。


「主らは……ここは既にあの世か?」


「いえ、まだ人界ですよ」


「……え?」


ガバッと起き上がり、再び周囲をキョロキョロと見渡す。

暫く固まった後……


「お、お主ら……本物か!?」


「まぁ……うおぉ!?」


突然、狐ノ葉さんに顔やら体やら、あちこちを触られる。

急の事に俺は何も言えず、何も出来ず、触られるがままに触られていた。

隣でその様子を見ていた白雷が少し大きめの咳払いをすると、狐ノ葉さんは慌てて俺から離れた。

……もう少し触っていても良かったのに。


「無事で良かった。この世界に引き摺り込まれてすぐに主犯と遭遇しての」


「その主犯は誰なんですか?」


「『猩猩鬼』じゃ。猩猩の姿に白く不気味な面をしており、角が二本生えておる」


猩猩って、確か猿とかゴリラみたいなやつだっけか。そんな感じの奴が白いお面を被ってて、角が二本生えてると。

え、そんなヤバそうな奴と戦ってたの、狐ノ葉さん。


「そのー……猩猩鬼ってなんです?」


「動物霊の集合体のようなものじゃ。初めは何の意思も持たぬただの霊じゃが、何らかの理由で意思と力を得て、互いを食い合う。それを繰り返し、より強大な力を持った動物霊を言う。今回は猩猩であったが、狗や猪、狐に狸と様々じゃ」


「食物連鎖を超えて、まるで蠱毒ですね。そのような事が起きるなんて……」


「ここ最近は特に多い。原因が分からぬから根本を断つのも難しい。しかもコックリさんのような儀式も今世の人界では簡単に調べられてしまうからの」


確かに今の世の中はスマホで色々な事が簡単に調べられる情報社会だ。

コックリさん以外にも『ひとりかくれんぼ』とかのやり方も簡単に調べられる。


「して、すまぬがお主達の状況を教えてもらえぬか? 恥ずべき事じゃが、我を忘れてあまり覚えておらんでの」


俺と白雷はお互いに起きた事を話した。

白雷は廃神社から少し離れた場所に飛ばされていたらしい。

そして狐ノ葉さんのマナを感じて急いで来たようだ。狐ノ葉さんが俺を殺そうとしていた状況に一瞬戸惑ったらしいが、俺の命を優先してくれたとのこと。

マジで助かった……

俺はさっき起きた事、狐ノ葉さんに殺されそうになった事を話す。


「儂は……何と言う事を……薫殿になんと詫びれば……」


相当なショックを受けて、刀を喉に


「どあああああ待って待って待ってくれ狐ノ葉さん! 痛かったけど生きてますから大丈夫ですって!!」


慌てて狐ノ葉さんの腕を掴み、自害を必死に止める。


「そ、そうですよ狐ノ葉様! 流様は人間の中では結構頑丈な方ですのでちょっとやそっとでは死にません!!」


お前がそれ言うのか!?

それ俺が言うセリフだよな!?


「しかし、幻惑術になんの対策もせず、あまつさえ流を殺してしまうところだったのじゃ! 薫殿の婿殿になんて事を……これでは合わせる顔がない!?」


「あの野郎! 合流したら殴ってやる!!」


数十分に及ぶ説得の末、何とか思いとどまってくれて、一安心。

後は楓ちゃんを取り戻し、薫のバカを見つける。

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不可思議の万屋〜麒麟の姫と流れ神の伝説〜 くろべもち @kurobe1024

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