第十四話 決断 壱

「……あれ?」


薫が動こうとした時、空から降り注いだ稲妻は俺達を囲んでいた常世の存在を焼き尽くし、消滅させた。

呆気に取られる俺達の前に、白い影が降り立つ。


「すみません、手柄を取ってしまいましたね」


そう軽口をたたき、振り向き様に白い髪を揺らすのは俺達が探していた人物に他ならない。

白雷だ。彼女があの稲妻で俺達を助けてくれた。


「白雷! 良かった、生きて……」


彼女の姿を見て息を呑んだ。

肌は青白く生気というものが感じられず、懐からは血が出ているのか着物が赤く染まっていた。

倒れそうになった白雷を慌てて抱きとめると、手にはヌルッとした生温かい感覚がする。

血だ。今もそれは流れている。


「どうして……流様が……明日の朝までは起きられない筈……」


それだけ言って彼女は意識を失った。


「お前やっぱりお茶になんか盛って……いやそろはどうでもいい。なんでこんな……薫!」


「分かってる!」


懐から先程とは違う札を取り出すとそれを白雷の血が出ている懐に当てると、札が淡く光り傷を治していく。


「え、何それ!?」


そんなの初めて見たが!?

オーバーテクノロジーじゃないか……札一枚で傷が治せるなんて。


「これは応急処置に過ぎないその場凌ぎのものだよ。それにコストも……やっぱりダメか」


血塗れになった札を捨て、新しい札を使う。

まだ傷が治りきってはいないようで、再び札を血に染める。


「傷の治りが遅すぎる……やっぱりマナ不足か。これじゃいくら札があっても足らない」


「どうすればいい!?どうすればそのマナを供給出来る!?」


「神社にマナが含まれてる御神水があるの。でも……」


騒ぎを聞き付けてか、周囲の茂みから赤い光が浮かび上がる。

まだこれだけの数がいるのか……


「想像以上に数が多い。一旦隠れよう」


薫が空に何かを投げた瞬間、頭上が眩い光に包まれた。


「リュー!私について来て!」


今は迷っている暇は無い。

戸惑いつつも白雷を背負い薫の後を追う。眩しい筈なのに不思議と目を開けられて薫の姿もハッキリと見えている。

周囲の常世の存在は腕で光から目を守るように屈んでいる。


「白雷……頑張れよ」


背にいる白雷を励まし……いや、これは自分にも言い聞かせているのかもしれない。

意識の無い彼女を背負い、常世の存在の包囲を抜けると洞穴が見えてきた。

俺が洞穴に入ると薫は入り口に小石と札を置く。


「それは?」


「簡易的な結界だよ。視覚的には隠せるけど、奴らにマナの感知が出来るなら……気休めにしかならないね……白雷ちゃんはどう?」


「ダメだ、呼吸も荒いし顔色も悪い」


「そっ、か……」


「クソ……なんで帰らなかったんだよ」


依然、白雷の意識は戻っていない。

話には聞いていたけれども、マナが無いとここまで弱ってしまうものなのか……

こんなことならもっと聞いておくべきだった。


「常世の存在の数が今の比じゃ無かったんだと思う。多分、その子は私達の為に……」


「白雷が……?」


なんでだよ、幻獣は……白雷は人間嫌いなんだろ、なのにどうして俺達の為に戦う必要があるんだよ。

仮に特異点が幻界に繋がってなくても神居町から出れば良かっただろ。


「……さっき私が投げた光弾、アレは緊急を知らせるものだからもうすぐ応援が来る。そうすれば結界も強化されるしこの山に入れる人達も来る」


「それまでアイツらに見つからずに降りないとか」


「それまで私が数を減らして……いや、もし増えたらそれじゃ間に合わない……リュー達を連れて……駄目、穏形が……」


外の様子を見ながら、何とか白雷を連れて脱出する方法を模索してくれているようだが、思いつかないようだ。

……いや、ある。薫はそれをしたくないだけだ、俺のせいで。

神矢神社にある御神水の在り処を知っているのはこの中で薫だけ。


……助けたいなら、覚悟を決めろ。


俺は、ある事を薫に頼んだ。


「薫……神社に行ってきてくれないか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る