第五話 もう一つの廃神社
「いってぇ……ほんといってぇ……」
吸い込まれた先で尾てい骨を激しく打ちつけられ、その痛みにのたうち回る。
少し涙が出てきた。
「クソ……何なんだよ本当に……え?」
辺りを見回すと、そこは吸い込まれる前にいたあの廃神社にいた。木々の隙間からは茜色の光が差し込み周囲は昼の時と比べて格段に暗くなっている。
ポッケからスマホを取り出して時刻を確認しようとしたが、表示されず、電波も圏外となっていた。
「どうなってんだ……さっきまで電波二本は立ってたのに」
周囲の雰囲気からして多分、夕方……18時ぐらいだろうか。吸い込まれてからそんなに時間が経ったっていうのか?
後考えられる可能性は……ここが異世界だという事。
「白雷! 薫! 狐ノ葉さん!」
大声で呼ぶが、返事は返ってこない。
近くにはいないのか、あるいはこの世界にはいないのか……後者だけは勘弁してほしい。
出来れば動きたくない、動きたくはないが……ずっとここにいたくもないし……痛む尻と重い腰を持ち上げて周囲を散策する事に。
「…………こえぇ……」
夏だというのに寒気がし、何となく白い霧のようなものがうっすらと見える気がするし、自分の立てている音以外は何も聞こえない。
幽霊が出る雰囲気というのはこういう感じなんだろうか。
肝試しをしに来た訳でもないのにどうしてこんな事に……いや、コックリさんをする事自体が既に肝試しだ。
とにかく誰かと合流しないと。俺一人で楓ちゃんを探すなんて無理だ。
なるべく近くに誰かがいることを祈りつつ、スマホのライトで周囲を照らしながら廃神社から離れようとした。
「見つけたぞ」
背後から聞こえてきた鋭い声。さっきまで聞いていた声。
振り向くとそこには狐ノ葉さんが息を切らして立っていた。
「狐ノ葉さん! よかった、貴女もこの世界にいたんですね」
最初に合流出来たのが狐ノ葉さんで良かった。
正直、薫はあんな調子だし白雷は幽霊ダメな雰囲気だったし、一番頼れるのは狐ノ葉さんだから助かった!
心底安心し、彼女に走り寄ろうとした時。
「楓を……返せ!!」
「ッ!?」
異様なまでの寒気を感じ、足を止めると同時に喉元に何かが掠った。
今のは……狐ノ葉さんの爪だ、彼女は今俺を殺そうとした……?
いやそんなまさか。
「こ、狐ノ葉さん?」
「外したか……次は逃さぬ」
やばいマジだ。
本気で俺を殺そうとしてる。
「ま、待ってくれ狐ノ葉さん! 俺だよ! リュウだよ!」
「貴様、楓を何処へやった!?」
狐ノ葉さんの手に五芒星が現れると同時に、俺の足下に突如、五芒星が浮かび上がる。
彼女が俺を殺そうとしているなら、この五芒星の上にいるのはマズイ。
五芒星から離れようと力強く地を蹴り飛び込むと、五芒星のあった場所が一瞬光り、地を焦がした。
「嘘だろ……」
跡を見てゾッとする。
もしあそこにいたら……今ごろ塵だ。
「クソ!」
震える足で無理矢理立ち上がり逃げようとする。
逃げられるのかなんて分からない、けれども今の狐ノ葉さんは普通じゃない。少しでもこの場から離れないと。
「逃さん!!」
先ずは廃神社の境内から出る事を優先に走り出すが、すぐに回り込まれてしまい足下にはまたしても五芒星が。すぐさま範囲から抜け出すと、今度は爪による追撃。急に足に力が入らなくなり尻餅をつくと同時に頭に狐ノ葉さんの爪が掠る。
再び立ち上がり逃げようとするがすぐに回り込まれる。
「狐ノ葉さん! 水無瀬 流だって! 分からないのか!?」
「言わせておけば……貴様が唆したのであろうが!!」
「な、何を言って……危なっ!?」
ギリギリで五芒星の光を躱し続けていく。
何とか生き延びられているが、もうこれ以上は厳しい。
それにしても何かおかしい……会話が成り立ってないような……
「なんか間違えてるって! 俺が何に見えてるんだよアンタは!?」
「ッ…………そうか、ならば……消えよ」
姿が見えなくなったと思った瞬間、俺の足下に突然現れ蹴り飛ばされた。
腹部に激しい痛みがした後、勢いが止まらず体が地面を転がる。
「終いじゃ、外道」
狐ノ葉さんがパンッと音をならし手を合わせた瞬間、周囲から光の柱が五つ現れ、柱同士が線を繋いでいき、巨大な五芒星となる。そしてその中心には俺が……
今まで俺がギリギリで避け続けていた五芒星の陣はただの布石、これが本命だったのだと今更気がつかされた。
「狐ノ、葉……さん……!」
うまく呼吸が出来ない。
声を出すことも……いや、いくら言ったところで無駄か。
「楓よ、これで……ぐっ……」
狐ノ葉さんの表情が歪んだ。
それと同時に地面に浮かび上がる五芒星が歪んだがすぐに元通りになる。
多分、今のタイミングなら逃げられただろう。
でも体は動かないし、立つことすら難しい。
ここで、俺は死ぬのか。
「消えよ……五行陣……!?」
狐ノ葉さんが詠唱らしきものを中断し、空を見上げる。
空に雷鳴が響き、辺りが光に包まれた瞬間、浮かび上がっていた五芒星が消えた。
光の柱があった場所には雷を纏った矢が刺さっていた。
「は、く……らい……」
「間一髪、でしたね」
今、一番会いたかった。
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