第八話 白露
「ふあ〜ぁ……」
カーテンから差し込む光に気づき、眠い目を擦りながら起き上がる。昨日は色々な事があったせいか、異様に眠い。
昨夜は一先ず家事を知らない彼女にも出来そうな事を教えた。本当に何も知らない様子だったから頑なに拒んでいたのだろう。
白雷は起きているのだろうか。
そう思い襖を叩くが返事はない。まだ寝ているのだろうか?
「開けるぞ白雷」
返事は聞かずに襖を開ける。だがそこに白雷はいなかった。もう出て行ったのかと思ったがカーテンを開けると布団が干してあった。という事はどこかへ出掛けているのだろうか。
あの姿で外出するのは外見的に危ない気もする。肌の露出こそ無いものの、チラッと見える無防備な肩にそこそこ強調された胸……
「何を考えてるんだ俺はぁっ!」
両頬を叩き頭を激しく動かして煩悩を振り払おうとする。
まだ一日しか経ってないのにどうするんだ、しっかりしろ水瀬 流。
格好もだが一番は角と耳と尻尾だろ。変なやつがこんな田舎にいるとは思えないが万が一ついて行ったら……でも基本的に人間嫌いだから大丈夫かもしれない。
台所を見ると空になったジャムの瓶とパンを置いていたであろう皿が綺麗に洗われて置かれていた。洗剤はおそらく使われていないだろうがそこはまぁいいだろう。
問題はジャムが入っていた瓶が空になっている事だ。昨夜の時点で半分ぐらいはあった筈なのに何でもう空になってるの?どれだけ塗ったのあの麒麟?
俺は一先ず家周りの掃除をしようとバケツを持ち川へ向かう。昨日は色々ありすぎて何も出来なかった為、まだ家の周りは荒れていた。考えただけで気が沈むが仕方ない。
川に着いて水を汲んでいると近くの林から風を切るような音がした気がした。
どうしても気になってしまった為、水が入り重くなったバケツを持って林に入る。
奥に進んでいくと段々と音が近づいてくる。するとちょうど光が差し込んだ開けた場所があった。音はそこから鳴ってきている。ちょうど近くに俺が一人隠れられるような大きさの木があったので一先ずそこに隠れた。
特にやましい事を見る訳では無いのにどうして俺は隠れているのだろうか?
そんな疑問が浮かんだが気にせずゆっくりと木陰から見ると……
「ふー……」
そこにはただ一人、白雷がいた。
彼女の手には青い刀身の刀が握られており、それらを振り鍛錬をしていたようだ。それが風を切る音の正体だった。
声を掛けようと思ったが、刀を振る彼女の姿を見て声を掛けられなかった。
一つ一つの動きにキレがあり、素人の俺から見ても彼女の剣舞は美しかった。刀を振るう度に揺れる白い髪、刀が青いせいなのか、振られた場所に青い光が残って見える。
暫く見ていると、白雷は姿勢を低くして刀を腰の辺りに構える。
あの構えには時代劇で見覚えがある。鞘は無いが多分、居合の構えだ。
そして次の瞬間
「はぁっ!!」
掛け声と共に一回転し周囲を斬り払うと同時に強い風が彼女を中心に吹き、周りの木々が揺れた。
「うぉっ!?」
俺も突然の事に腕で顔を覆い、声を出してしまった。だが白雷はそれに気づいていないのか、反応せず深く深呼吸をすると刀を消した。
「もう出てきてもいいですよ。流様」
名前を呼ばれ体がビクっと動いた。
なんだよバレてたのか。
「気づいてたのかよ」
「はい。耳はそこそこ良い方ですから」
幻獣基準ならな。
特に木の枝を踏みつけた訳じゃないし、剣舞に集中してたから気づいていないと思っていたが……
「まぁその……盗み見してたのは謝る」
「いえ、見ててもそんなに面白いものでもないでしょうし、減るものでもありませんから」
「それなら、まぁ……でも綺麗だったぞ」
俺の言葉に白雷はキョトンとしたがすぐに微笑んだ。
「ありがとうございます。人間に言われても何とも感じないと思いましたが、嬉しいものですね」
まただ。また身体が震えた。だが今のはさっきのとは違う感覚だった。
それが何なのか、俺には分からない。
「あ、態々水まで持ってきてくださったんですね」
そう言ってボーっとしていた俺から水の入ったバケツを取るとそれを頭から掛けた。
当然、俺にも水が少し掛かり、そのお陰か我に返った。
その後、白雷は体をブルブルと動かし水を飛ばす。
当然俺にも水が掛かった。
「さ、戻りましょう。ジャムが待ってます」
一瞬ヨダレが見えた気がしたが、すぐに引っ込ませその場から去っていった。
あれ?俺放置?誰かのせいで水掛かってビショビショなんだけど放置?
「はぁ……」
剣舞への感嘆か、水が掛かった事か、自然とため息が出る。
林の中にあったぽっかりと開けた空間、ただ一人残された俺は空を見上げた。
「水、汲み直さないとな……」
空のバケツを広い、川へと向かった。
その後家に戻った俺が白雷にジャムが無いと言われたのは言うまでも無い。
ジャムなら一人で全部使っただろーが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます