8 パンプス

 昼休みが終わってから、吉岡さんと一緒に倉庫へ行った。倉庫は県庁の建物を出た駐車場の隅にあり、チラシや旗など何かと物の多い観光課の専用のだそうだ。吉岡さんは発想用のパンフレットを取りに行くと言っていた。


 積まれた箱の中のパンフレットを確認しながら、吉岡さんは

「林さんっておいくつなんですか?」と言った。今日2度目の「23歳です。」と告げると、吉岡さんはじゃあ私の3つ上ですね、と答えた。


 「え、じゃあハタチなんですか?」と私が驚いて尋ねると、吉岡さんは、そうなんです、と答え、19歳から県庁で臨時職員として働いていると教えてくれた。25,6歳だと思っていたが、その大人っぽさはやはり社会経験の差か、と考えていると吉岡さんが


 「でもよく林さん、こんな時期に臨時になろうと思いましたね。」と言った。

私が何でですかと尋ねると、

「だって、県庁の臨時って1年間で契約終了なんですけど、今年は臨時職員や非常勤に関する制度が変わるので、年度末でみんな辞めなきゃいけないじゃないですか。わたしは去年の年度初めに入ったんで年度末でちょうど1年なんですけど、林さんはあと2か月しか勤められないですよね。こんな条件で入ってくれる人いるのかなって他の臨時さんとも話してたんですよ。」


 吉岡さんはすごく心配してくれているようだったが、私にとってはかえってそれが好都合だった。私はほとんどの仕事を3か月程度で辞めている。最近は3カ月で退職を切り出さなくてもいいように、季節催事や単発のイベント等の短期のバイトを中心に行っていた。


 今回の県庁での臨時も2か月で終了というのに惹かれて応募したのだ。


 けれど、普通の人からするとやはりそれは好ましくないことのようで、今回の募集も結果私しか応募者がいなかったようだった。


 吉岡さんはなぜ私が悪条件の求人に募集したか知りたそうだったが、出会って数時間で言う理由でもないかなと思い結局、「すぐに働けるところがよかったので…」と濁してしまった。


 そうなんですね、と納得した様子の吉岡さんは、じゃあこれを積んでいきましょう!と5箱ほどの段ボールを指さした。なぜパンフレットを取りにいくのに台車が必要なのかと思っていたが、パンフレットは1冊単位ではなく箱単位で持って上がるようだった。


 1箱持ってみると重い。5キロは優にありそうである。何よりパンプスでそれをもって運ぶのがきつい。「初日はキレイめな服装で」という近藤さんの言葉を自分なりに解析し、念のため「臨時職員 服装」で検索した結果、上は白いブラウス、下は黒のチノパン、足元はパンプスに落ち着いた。だがそれが裏目にでた。まあ直前まで悩んだタイトスカートよりは増しかと思いなおし、なんとか台車の上まで運びきった。


 「臨時職員ってこんな体力仕事だと思わなかったですよね。私も面接のときに、うちの課は体力いるけど、大丈夫ですか?って聞かれたんですけど、女だしそこまでじゃないだろうと思ってたんですけど、実際ほぼ体力仕事なんですよ。」


 台車を押しながらそう話す吉岡さんは、青のシャツに黒のスキニー、足元はスニーカーで肩からショルダーバックをかけている。バッグにはマジックペンやガムテープが入っているらしく、さっきの段ボールにもマジックでメモ書きがなされていた。


 吉岡さんは一見テレビ番組の新人ADのようだった。その姿はなんだかかっこよく、私も明日はスニーカーで来ようと思った。


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