20 私の挑戦
必死で村元さんを見ていると思い出すことがあった。
家に帰るとすぐに教科書のあるページを開く。
そこには『発達障害』と大きく見出しがついている。もしかすると村元さんの言動は発達障害に関係があるのかもしれないと心あたりがあった。
レポートを書くために何度も読み返したところを私は再度読み返す。うん、やっぱり当てはまるところ当てはまらないところあるが、これで村元さんが何に困っているか、何をやるのが得意なのか大きな特徴はつかめるかもしれない。
詳しく読んでみると、曖昧なものが苦手であること、言葉以外に隠されている相手の感情を読み取ることが苦手であること、たくさんのことを同時並行するのが苦手であることが書いてあった。
さらに次のページを開く。
教師の指導のポイントと題して、発達障害のある生徒に授業をしたり、集団生活の指導をする際のポイントとして、指示を的確に短く伝えることや言語だけではなく視覚的なものも利用して教えることなどが書いてあった。
だが、ここまで読んで、これは村元さんに限ったことではないなと思った。村元さんが発達障害に当てはまるかは置いておいて、ここに書いてあることは誰もが少なからず苦手なことだ。
曖昧な事柄を自分でどういうことか解釈して行うことや言外の意図を察すること、同時並行で業務を行うこと…きっとみんなそういうことに毎日のエネルギーを吸い取られていくのだ。
教科書を開いたとき、村元さんとの仕事の仕方を考えるためだ、と思っていたが、指示を明確にすること、相手が分かりやすい方法で伝えることなど、これは誰かと仕事をする上で常に意識しなければならないことだ。
みんなが仕事しやすい職場を作る。
これは私のサークル時代の目標であった。
私の所属していたボランティアサークルでは、全員で1つのキャンプを企画し、お客さんを読んで実施することが年に数回あった。内部は全体を統括するリーダー、副リーダーがいて、各企画ごとにもディレクターがいた。1つの集団の中にいくつもの組織がある。まるで県庁の島のようだ。
そんな中でわたしはリーダーをすることに燃えていた。全員が活動の中で何かを学び、やりがいを感じるためにはどうしたらいいか。全員が無理をせず、学業と両立するにはどうしたらいいか。そればかり考えていたわたしの卒業論文は「ボランティアの組織経営論」だった。
サークルが終わり大学を卒業し、フリーターになった今、「組織経営」なんて言葉は記憶の片隅に葬りさられていた。
芸人になりたいと思っていた頃、なにか別のサークルに入っていればよかったと思った。組織経営に興味を持っていた時間はわたしにとって何の意味もなかったと思ったが、これを使うのは今だ。
みんなが働きやすい職場を目指す。そのためにまずは村元さんが働きやすい職場を目指そう。
その日わたしはもう1年近く開けることのなかったパソコンの中の『卒論』フォルダを開いた。
ここから私の挑戦が始まるのだ。
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