3 合否
数日後、県庁から電話がかかってきた。わたしは図書館にいたのであわてて通話OKのスペースまで出て電話を取った。
「もしもし、観光課です。先日は面接にお越しいただきありがとうございました。」面接の時の人とは違う男性の声だった。
「いえいえ、こちらこそ。」
「それで、結果なんですけれども、ぜひ林さんに一緒に働いていただきたいということになりました。」
「本当ですか!ありがとうございます。」
「早速なんですけれども、明後日から来ていただくことは可能でしょうか。」
「はい。大丈夫です。」
「ありがとうございます。それではお願いし…」
「あ、あの、服装ってどのようなものを着ていけばいいんでしょうか。やっぱりスーツなのでしょうか。」
「いえ、他の臨時職員さんもスーツではなく、結構自由な感じでオフィスカジュアルといった感じですかね。まあ、初日はきちっとした感じで来てもらって、周りを見ながら調整していけばいいと思いますよ。」
「はい。わかりました。」
「それでは、明後日…。あ、手続きなどがありますので通帳と印鑑、保険証などの身分証明書を持ってきてください。」
電話を切ると、どっと疲れた。受かってしまった。それに採用が決まり次第すぐとは聞いていたが、まさか明後日からとは思わなかった。
年末にそばを箱詰めする短期バイトをしてから1カ月、無職生活もこれでピリオドか。緊張が走る。
しかし、ほっとする自分もいる。
学生時代に借りていた奨学金の返済がある。平気でひと月分の食費が飛んでいきそうな額をこれから20年ほど毎月支払っていかなければならない。
なによりも職に就くと社会に許された気になり、ほっとした。年末のそば加工のバイトから1カ月のニート生活ともこれでおさらばである。
そのままケータイで「県庁で臨時職員をすることになった。」と母親にメッセージを送る。
大学進学を機に他県で一人暮らしを始めた私は卒業後半年ほど実家に戻り、現在はまた大学時代の県に戻り暮らしている。
両親は小さなころからわたしをとてもよく褒めてくれた。私は両親の声援を背に勉強も部活もがんばってきた。事実、勉強は学年でもいい方だったし、部活はいい成績はあまり出せなかったけれどよい仲間ができ、忍耐力もついた。大学も国立大学に行き、充実した学生生活も送った。
そんな娘がフリーターになったことを両親はどう思っているのだろう。
ケータイが鳴る。メッセージを開く。
「よかったね。でも吉の体が一番だから無理しないでね。」
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