空白期間
秋野清瑞
面接
1 面接
「志望動機を教えてください。」
「はい。大学でレポートを書く際に身に付けたパソコンの能力で、臨時職員として県庁の仕事をサポートしたいと思っています。また、大学では地域振興に関して勉強しておりましたので、この観光課での仕事でそのことを生かせたらいいなと思い応募しました。」
「なるほど。林さんは、あ、下の名前はキチさんと読まれるんですね。」
「はい。珍しいとよく言われます。」
「吉さんは・・・・去年大学を卒業されたということでよろしいのでしょうか。」
「はい。去年の3月に卒業しました。」
「履歴書を見ると、その、就職はされずにアルバイトやパートをこの1年してらっしゃるようなのですが、この期間は何をされていたのでしょうか。」
「はい。大学4年の時に、教員になりたいと志しまして、正社員として就職はせずにアルバイトやパートをして通信大学の学費を貯めています。」
「そうなんですね。では、うちで採用になった場合も通信大学に通われながらということでしょうか。」
「そうですね。でもほとんどが教材を元に自宅で勉強して、レポートを送るという形式で単位が取れるという教科ばかりなので、お休みをもらわないといけないようなことはないと思います。」
「そうですか。ところで、この面接を受けられるにあたって、観光課のホームページなどは見られましたか。どういう業務を行っている課か知っていますか。」
「・・・ホームページは見ていません。・・・ただイベントや観光のPRを積極的に行っていることはニュースなどでも拝見しています。」
「大学で地域振興のことを学ばれたと聞きましたが、産業活動報告などは知っていますか。」
「・・・授業で聞いたことがありますが、内容までは覚えていません。」
「そうですか。それでは、最後になりますが、採用になった場合、すぐにでも働いていただくことは可能ですか。」
「はい。大丈夫です。」
「それでは、面接は以上になります。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
スーツの面接官の様子を見ながらおそるおそる立ち上がり、もう一度礼をして部屋を出る。階段を下りて玄関を出ると1月の冷たくて瑞々しい空気が感じられた。深呼吸をすると、心の底からある思いが湧き出してきた。
受かりたくないな。
これはこの面接に限ったことではない。どんな会社を受けても面接のあとはいつもそう思う。
受かりたくない。けれど、その気持ちと相反して、もし今面接官達が「あの子とは何かあわないな」と思ってたちいるかもしれないことを想像するとぐっと胃のあたりが重くなる。
ただ、ひとまず面接は終わったから今日のミッションはここまでであると自分に言い聞かせ、歩いているうちに重みは散った。そして次第にすっきりとした気持ちになり足取りは軽くなるまでの流れをいつも繰り返している。
達成感から少し奮発した昼ごはんを買おうと、あまり馴染みのないパン屋に入ろうとした。すると引き戸の前にガラスにリクルートスーツの自分が映っていた。
立ち止まって、まるで大学4年生の就活中か社会人1年目みたいだなと思ったが、本当は私はそのどちらでもない。私は23歳無職なのである。
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