9 自転車
無事1日目の仕事を終え、自転車で家を目指す。県庁から家までは自転車で30分くらいかかる。その間に帰り際のことを思い出していた。
17時のチャイムが鳴ると、吉岡さんはすぐに「お疲れ様です」と申し訳なさそうに帰っていった。
門田さんは「林さんも帰っていいからね。」といいつつ、自分はまだパソコンに向かっていた。
昼休みにはチャイムと同時に弁当を出していたのが嘘のように門田さんは席に座り続ける。
正直帰りにくい。しかも帰り方もわからない。誰かに何かを言って帰るのか、何か記入するものがあるのか、さっき帰った吉岡さんの様子を見ておけばよかった。
時計の針が17時10分を示そうとしたとき、門田さんがパソコンをシャットダウンして机の上のものを片付け始めた。
「ごめんねー。待っててくれたんだよね。ありがとう。帰ろっか。」と席を立った門田さんは、
「お先に失礼します!」と3つの島の中で手前の2つの島に聞こえるくらいの声で挨拶したので、私もそれをまねて挨拶をすると、パラパラと「お疲れ様です。」という声が小さく聞こえた。ペコっと頭を下げる人もいた。
こうして思い出してみると、ふと気づいたことがあった。県庁の定時は17時でそれは臨時職員だけでなく、正規職員にも共通なはずだ。誰一人当たり前に帰ろうとしていないかったので全く気づがなかったが、あのチャイムは彼らにとっても仕事終了の合図のはずだった。
そういえばと、12時のチャイムのときも昼ごはんも食べずパソコンに向かっている人がいたことを思い出す。
正直、私は時間外の労働なんてしたくない。帰ってから家でのんびりする時間が好きだし、仕事は大変だからという単純な理由だがそれは人類皆共通ではないのだろうか。
自転車を漕ぎながら、なんだか違う惑星の生命体に会ってきたような気分になった。私のUFOは心地よい風を運びながら河川敷を走っていった。
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