閑話 鳳苑路心音の気持ち
◆ 鳳苑路心音 ◆
私、
ジャンルを問わず、全ての事に関して真剣に取り組む姿は、とても素敵な事だと思う。
だから私は、勉強に一生懸命取り組んでいた橘麗華に一目惚れした。
私が積極的に話しかけていたおかげで、橘麗華——れいちゃんともだいぶ距離感が縮まり、親友とも呼べる間柄になれたと思う。
そんなある日、れいちゃんがとってもイライラしている日があった。なんでも、クラスの男の子とテストで勝負をしたらしい。
「れいちゃーん。」
「ふふふふふ、奴隷にしてやるわ。」
「れ・い・ちゃーーん。」
「奴隷、ふふふふ、私専用の椅子にでもしてやろうかしら。」
「れ、れいちゃん……」
「はっ!な、何?」
「あ、ううん。なんでもないよ…」
余程自信があったのだろう。その日は終始こんな感じだった。
結果は3点差で負けたらしい。
有り得ない、と思った。
私はまだ、れいちゃん以上に勉強を一生懸命にしている人を知らない。だかられいちゃんが負けるとは、微塵も思わなかった。
それからだ。私が佐藤楓くんを目で追うようになったのは。
単純に気になっただけだし、目で追っていた期間もそれほど長くないが、私はその間に努力の痕跡を見つけてしまった。
佐藤楓くんの手に、大きなペンだこがあった。
初め思ったのは、「痛そう」というなんとも当たり前の感想だが、それにしたってペンだこが大きすぎるため、そう思わざるを得なかったのだ。
そして次第に、凄いと思うようになった。
何度も言うが、私は頑張っている人が好きだ。
だから、こんなに大きなペンだこができるまで一生懸命勉強した佐藤楓くんに、私は興味を持ったので話しかけたいと思った。
でも、直ぐに体力テストがあるということで、その時は叶わなかった。
思えばこの時既に、好きになるまで時間の問題だったのかもしれない。
◇
私はその時、男の子の50メートル走を見ていた。
「皆速いなぁ」くらいにしか思っていなかったが、1人だけ、ずば抜けて速い男の子がいた。
佐藤楓くんだ!
佐藤楓くんの服装は長袖ハーフパンツの、学校指定ジャージだったので、足の筋肉がよく見えた。
鍛えこまれた足の筋肉を見て、私はまた佐藤楓くんに興味を持つ。
こんな所まで努力の跡が見えるなんて思わなかったから。
もう、我慢の限界。
「れいちゃん!私、佐藤楓くんと友達になりたい!」
私は今まで、こんなに努力してきた男の子を見たことがあっただろうか。
心臓の鼓動が収まらない。こんなことは初めて。
後かられいちゃんも合流して3人で話していると、れいちゃんが楓くんの前髪を手で退かし、顔を覗き込んだ。
その瞬間、一気に顔が赤くなってどこかへ行ってしまった。
その理由は、私もすぐに分かった。
「あ、あの!私、ちょっとお花をつみに行ってくるぅ〜〜!!!」
まともに顔も見れないまま、その場を後にした。
「はぁ、はぁ、はぁ」
しばらくはれいちゃんを探したが、何処にもいなかった。きっとどこかに隠れたのだろう。
「うぅ〜…」
まさか、あんなにイケメンだとは思わなかった。
あの顔を間近で見てしまったことで、余計にドキドキする。
れいちゃんのことは好きだ。楓くんも、もちろん好きだ。でも、れいちゃんの「好き」と楓くんの「好き」は、多分ジャンルが違う。
このドキドキは、きっと……
初めての気分にふわふわしながら、れいちゃんと合流した。
れいちゃんの顔を伺っていると、れいちゃんと目が合った。
れいちゃんの顔は、それはもう面白いことになっている。恋する乙女って顔をしている。でも、私も同じような顔をしているに違いない。
「くくく」
「ふふふ」
私達はお互いに笑い合った。
れいちゃんもきっと、そうなのだろう。
私は初めての感覚に高揚して、シャトルランも普段よりいい結果を出せた。
楓くんも凄い結果を出していたが、私はさほど驚くことは無かった。
凄い結果を出すことくらい、あの足を見れば分かりきっていたこと。それに楓くんはまだまだ余裕そうだ。あまり目立ちたくないんだろう。
楓くんが誰とも話すことなく、体育館を後にしようとしていたので、私は声をかけるために走り出した。
それとほぼ同時に、れいちゃんも走り出した。
どうやら、れいちゃんも同じことを考えていたらしい。
私達は顔を見合わせ、笑い合う。
「負けないよ!」
「私だって!」
私はまだ、楓くんのことをあまり知らない。れいちゃんも同じだと思う。
だって楓くん、自分の事話さないだろうし。
だけど、私達は恋をしてしまった。
自分でもどうかしていると思う。あまり知らない人を好きになるなんて。
でも、好きになる過程なんてどうでもいい。
楓くんのことは、これから知っていけばいいのだ。
なんたって、『恋は盲目』だからね!
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